裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

土曜日

ジ・アニメでおむかえうれしいな

 母さんがプレステ2を買ってきてくれました。朝、二日酔い気味で7時15分、起床。トイレに座ってしばらくじーっとしてトーマス・マン(現在のトイレ読書用文庫本)など読んでいるうちに頭のもやもやがとれていく。朝食、K子にはトウモロコシ炒め、私は発芽玄米粥。昨日まで食べていたものとはメーカーが違うのだが、今日の は水分が少なくドロリとしていて、何かやたらしょっぱい。

 午前中、いろいろ宅急便などが届く。明日のと学会に持っていくものを選んだり。バカエロDVDなど改めて見るが改めてバカである。嬉しくなる。昨日の『怪談異人幽霊』もそうだったが、ダメ映画というのは実に楽しい。なんで楽しいかというと、作品がそれ単体で完結しておらず、こちらの脳内でのツッコミを加えて、初めて作品として成立するからである。つまり、作品の作り手と、観ているこちらとの共同作業だからなのである。名作・傑作と言われる作品を観るのは、こちらがただ、作品中に描かれている内容をありがたがって受け取るだけのことだ。コドモのうちはそれで十分だろうが、オトナになると、やはりそれでは物足りなくなる。『信長の野望』で、出来るだけマイナーな大名に天下を統一させようとするようなもので、楽しむのにも 難度の高い作品を選んで観るようになるのである。

 昼は冷凍庫の羊肉を葱と焼いてジンギスカン丼。食って運動がてら外出、足が自然と神田に向かい、地下鉄で神保町、於教育会館東京愛書会古書展。いつものことながら400円500円といった雑本の多い即売会で、気軽に選んでいたらいつの間にか1万ちょっと使ってしまった。1966年発行のS・アンデルセンによる北欧の性事情レポート本、タイトルが『セックスがいっぱいの国』というダイレクトというか直截というかそのものズバリというかどうにもすごいもので、当時の日本人が北欧のフリーセックスにいかにあこがれていたか、ということを露骨に語っている。ちなみに原題は『ザ・トゥルース・オブ・セクシャルライフ・イン・スカンディナビアン』。 荒地出版刊である。

 帰りに表参道で降り、紀ノ国屋に寄る。昨日も寄ったが、今日は明日のと学会用の弁当を買うため。ここの特製弁当がK子のお気に入りで、毎回、例会前日にお名指しで買ってくるのである。弁当のみ買って他のものは買わず。歯ブラシ売場でバトラー社の歯間ブラシを買おうとしたのだがない。店員さんに訊ねてみたら、もうその商品はシュウバイになりました、と言う。シュウバイというのは終売、のことらしい。これからは歯間ブラシは国産のメーカー品のみになるのだそうな。私はこのバトラーの歯間ブラシが一番使い勝手がよくて、気にいっていたので、非常に落胆する。年寄りが“世の中はどんどん駄目になっていく”という意見に傾く理由というのは、こんな日常の些細な失望の蓄積にその発想のモトがあるような気がする。逆に言うと、世の右傾化、保守化を嫌う人は、年寄りたちのこういった些細な日常を守ればよろしいのではないか。

 帰宅して原稿書き。今日、古書市で立ち読みした大塚英子(吉行淳之介の愛人)の本の中に、吉行が、“英子ちゃん、文章を書くときはマスジしないといけませんよ”と言っていたという件があった。井伏鱒二が、母親に子供のころ、“マスジ、しょっちゅう辞書をひきなさい”と言われて育った、というエピソード(井伏鱒二の本名は満寿二)から、辞書を引くことを吉行は“マスジする”と言っていたらしい。一応、私も文筆業のはしくれとして、国語辞典、漢和辞典、古語辞典、英和、和英、類語、現代用語、人名事典、名言名句事典、百科事典、文章宝典の類はひとそろい机辺に備えているが、さて、これらを果たしてどれくらい使いこなしているか、省みて非常にこころもとない気がする。原稿執筆の際、なにかにつけて一番よくひく本と言えば、下川耿史編『昭和・平成家庭史年表』、ぴあ『シネマクラブ』洋画・邦画各編、研究社『スーパートリビア事典』、小宮卓『性現象事典』、それに山田風太郎『人間臨終 図鑑』などではないか。

 8時、参宮橋クリクリ。行く前にコンビニに寄って貝印の使い捨てカミソリを買おうとしたがすでにこれもシュウバイになっているらしく、影も形もなし。足のカカトの角質化した皮を削るのにあれがよかったんだがな。もっとも、この貝印の使い捨ても、もっとずっと前、学生時代銭湯に置いてあったものとはちょっとデザインが変更 になっていて、昔の方がずっと削りやすかった。週刊誌数冊買う。

 クリクリ、関西方面から上京したK子の知人がオリンピックセンターのユースホステルに泊まるので、チェックインにK子がつきあって、そのあとこの店で落ち合うことになっていたのだが、なかなか二人とも姿を見せない。20分ほど遅れて来た。オリンピックセンター内部が広くて宿泊施設がわかりづらくて、おまけに係の態度がお役所的で融通のきかぬことおびただしく、無茶苦茶に手間取った、とのこと。ユースホステルの部屋は以前テレビでみた外国の刑務所の独居房よりまだせまい、とのことである。彼はときおり私の一行知識にも書き込んでくれている人で、その友人という人も来て、俄然小オフ状態になる。私の知らない話題も出てとまどうが、まあ、たま にはこういうのもよし。“時には小オフのように”とも言うし。

 料理、赤貝の殻つき炒めが突き出しで出て、それからマグロとオリーブのマリネ、チキンレバーパテとポテトのベイクド、シシカバブ、羊のロースト、トマトとチーズのピッツァ、それに自家製パスタ。皆に味は評判となる。K子、“明日はと学会の二次会でまずいもの食べるんだから、今日は前もっての埋め合わせよ!”と。ビールとワインで陶然。タクシーで帰宅。

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