裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

月曜日

今日でポアンカレね もう会えない

 三角関係は周期性を示さずカオスになってしまうのだよ。朝、雪に覆われた田舎町でたまたま乗せてもらった、エプロン姿の奥さんの運転する車が、実は深作欣二の監督する映画の中の車で、雪道ですさまじいカーアクションを初めてオビエまくる、という夢を見る。8時10分起床。新聞見ると、未明に震度4の地震があった由。寝入りばなの時間であったがまるで記憶にない。カーアクションの夢が地震の揺れで見たもの、というなら面白いが、あれは起きる寸前だし。書庫を見たら、一部、山が崩れ ていた。朝食、発芽玄米粥。K子にはカレー風味の掻き卵。

 日記つけ、入浴し、原稿書きに入る。河出のSくんには今日じゅうに出す、とメール打つ。が、まず資料を、と思い、資料棚のあるべきところを探すが見つからない。最初からつまづく。チッ、と舌打ちしながら、そこらじゅうをひっかき回すが見あたらず。かなり精神的にイラつきながら、もう一度、最初の棚を確認したら、ちゃんとそこにあった。チルチルミチルか。もっとも、似たような掲載雑誌の、誌名を間違えて別なものを探していたのであった。ちくま書房Iさんから電話。解説原稿受け取り の件。初出に関する指摘は役だったようで、何かうれしい。

 札幌の豪貴(なんと読むのですか、と日記読者から質問があったが、ひでたか、と読む。ゴウキの方がシュンイチ、ナオキ、ゴウキで語呂がいいのだが)から、辛子明太子が届く。結婚祝いのお返しか。昼はさっそく、昨日の余りご飯の上にこれを乗っけて、あとは沢庵とお茶だけでパクつく。大変甘味があってうまい。昼はこういうも のに限る。

 1時半、家を出て、このあいだの勤労福祉会館(外観が古びてきたから、というつもりか、青とサーモンピンクという下品な色の取り合わせのペンキを塗りたくって、気が変になったような建物になった)前のメガネ屋であつらえたメガネを受け取る。久しぶりにまた黒ぶち。鏡で見ると、当然のことながら以前よりずっと似顔絵に似た顔になる。あちこちでまた、笑われるであろうが仕方ない。さっそくかけて出る。乱視を補正したので、一瞬クラつくが、もう、あとは十年も前からかけているような気 になる。

 2時、時間割にて世界文化社Dさん。原稿後れの言い訳と、今後のスケジュール仕切り直し。これ内緒ですが、と、営業から回ってきた注文票の束を見せてくれた。各書店からのもので、大手のところでは一店舗で30冊とか50冊とか注文してくれているのもある。何か力がつくと共に、遅れていることが申し訳なく思えてくる。もちろん、大部分は1冊とりあえず、というような小規模書店からのもの。中には4冊、とか8冊、という数の注文があり、こういうのはなぜ5冊とか10冊とか、キリのいい数で出さんのでしょうね、などと雑談に流れる。さっき読んで驚いたんですが、と見せてくれたビッグコミックで、会田誠氏が、声ちゃんにボディーペインティングしました、という記事が載っていた。声ちゃんの依頼だそうだ。苦笑。まったくこの子は、岡田斗司夫や大槻ケンヂでなくとも“こんなことではいかん”と思うような子である。

 帰宅、スケジュール建て直し、河出の原稿。ずんずん進むが、速度は一般原稿の三分の一くらいの超低速。ときどき逃避してネットなどを読み込んでしまう。馬鹿エロDVDの宣伝文句に『未来性器ラブ汁』というのがあって笑う。中野貴雄監督のところの“知らないマーチで、行進したい”も、植木不等式氏のところの“親分、対話編だ”もそれぞれの芸風が出た傑作。こっちはこのごろ、まあとりあえず言ってみました、というようなものばかりで、どうも自分の駄洒落に自身を失っていかん。

 9時ちょっと過ぎまで原稿にかかりきりだったが、二本という約束のうちの、一本 も脱稿できず。煮詰まってきたので、放擲して外へ出る。
「外へ出たって、いいことがあるとは限らない(スタン・ハンセン)」
 なのだが、メシを食わねば仕方ない。タクシーで東新宿まで。道、ガラ空きの上に信号の連絡よく、15分かからずについてしまい、運転手“こういうことってあるんだねえ!”と感動して料金をまけてくれる。9時45分、焼肉幸永。K子が、フィンランド語を一緒にやっているみなみさんと来て、三人で食事。フィン語講座はすさまじくサクサクな進み方で、授業後半は前半に習ったことが耳からこぼれ落ちそうだった、とみなみさん笑う。豚足、オックステール、極ホルモン、豚骨タタキ、シビレな どいつものもの。

 斜め前の席に、実録・恋子の毎日とでもいいたい感じの三人連れ。若い頃の清水宏次朗そっくりのアンちゃん(裸の上半身にウインドブレーカーひっかけただけ、というイナセさ)がへらへらした弟分に焼肉おごってやってるんだが、そのアンちゃんの脇にはノウタリンを絵に描いたような女がひし、とよりそって、焼肉屋のテーブルでも腕をくんでいる。アンちゃん、“アンメ、アニウーテルン、コリアモンジャネッテモンジャン”と、なにやら粋がってしゃべっているつもりらしい舌っ足らずでまくしたてている。弟分はニヘラッ、という表情でペコペコ頭を下げながら、ひたすら肉を食っていた。しかしアンちゃん、コワモテになろうと思ってるなら、箸を口の先で舐めながら人の話を聞く癖はよした方がいい。マザコンに見える。12時、帰宅。胃の薬と二日酔い防止の黄連解毒湯のむ。

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