裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

土曜日

フォン・ド・ボーにあった怖い話

 シチューの中に幽霊の顔が! 朝、8時起床。長い長い夢を見る。洋モノテレビ特番の夢で、司会者(J・Dキャノン風)が車に乗って旅をしながら、到着地々々の制作した番組を見る、という趣向。“♪B級ホラーでよく見る顔は……”と脳天気にみんなが歌う“ジョン・キャラダイン・ソング”とか、グロテスクにディフォルメされたカタツムリとハマグリのケンカのクレイ・アニメとか、奇っ怪な内容の番組ばかりであった。

 朝食、ロールパンとコンソメスープ。K子のコーチでロシア語を少し。魚がルイバ(“ルイベ”ってのはもともとはただの“魚”って意味か)とか、家がドーム(ムネオハウスというのはロシア語ではドーム・ムネオなのだとテレビで言っていたな)とか、そういうのはまだ覚えやすい。本当はこんな連想法では語学は身に付かないだろうが。

 小野伯父から電話。今朝は落ち着いている。週刊誌を読んでいたら私の記事が出ていたので、電話したくなったとのこと。体だけは大事にしてください、と、三平みたいなことを言って(それくらいしかもう言うことがない)、少し話す。話している最中に紀伊國屋から注文していた資料本が届く。上下巻の本で、両方在庫はあるということだったのに、届いたのは上巻のみ。下巻が品切れなどということになると(最初は在庫アリという報告でも、実際にはないことがまま、ある)役に立たないので、非常に困る。早川書房『キッチュワールド小事典』の構成ゲラが届いた。ざっと目を通す。モノマガ原稿、推敲してスッキリさせようとしたが、どうも面白くない。最初か ら書き直した方が早いか、と判断。

 昼は母の作ったカレーとけんちん。神保町に出かけ、教育会館で愛書会古書市。さしたる出物もなし。オヨヨ書林さんが性文献関係をかなりの数出していて、ちょっと興味引かれたが、キメとなるものが見つからなかったので買わず。この一冊、というのがあればそれが触媒で棚買いになっていたかもしれない。数千円買って、帰ろうとしたら、出口付近の棚に、道教関係で、ちょっとトンデモな匂いのするものを揃いで見つけた。買い足す。もっともそれでも合わせて一万円チョイ。カスミ書房さんに寄ろうとしたが閉まっていた。

 地下鉄で青山で降り、紀ノ国屋で買い物。野菜、キノコ類、スープ缶の類をまとめて買い込む。少し休んで、4時、また外出。地下鉄銀座線で上野広小路まで。快楽亭ブラック主催『鬼畜大変態』。楽屋で快楽亭たちと雑談。今日の紙芝居が楽しみ、という話。客の入りは今回も好調で、お席送りが必要なほど。裏モノのGさん、と学会グッズ番長のSさん、どどいつ文庫の伊藤さんとちんちん先生、それから創映会のYさんなどが珍しく来てくれた。好美のぼる紙芝居のときに腹痛で退席した殿様も来ていて、ちょっと会話。

 紙芝居の設置に時間がかかるというので出を変え、前半が談生、ブラック、談之助の落語三題、後半が松本ヒロ、紙芝居、そして大喜利座談会。ただし、コミケ落選なので今回はサワリだけということに止める。開口一番はブラ談次、次の談生は『黄金餅R指定版』。トリネタをいきなりというので驚いたが、ストーリィは元ネタに忠実で、ただしグロ描写が凄まじいもの。ロビーでそれを聞きながら、紙芝居の梅田佳声先生、秀次郎と三人でしりとり遊びなど。梅田先生に、某O社の紙芝居全集を、出版社からカタログを送られたので買った、と言うと手を振って、ありゃ高すぎます、紙芝居をアンナ豪華版の本で出すこたないんです。ありゃ全国の図書館やなんかに買わせようとするので、あんな不必要な豪華版にしてるんです。あたしゃ印刷会社勤めをしていたから見ただけでわかるが、あの装丁や紙は、ただ金をとるためのコケおどかしですワ、と言われて笑う。今回、お客に初めての顔が多かったが、クイツキが実に よく、快楽亭も談之助さんも大ウケ。

 後半の紙芝居は『黄金バット・怪獣編』と『ライオンマン』の豪華二本立て。舞台袖で聞く。黄金バットは前に聞いたことがあるが、鬼畜大変態という会に合わせてくれたか、入れ事たっぷりで、篠原博士の娘マサエと助手のマサル少年の説明で“このマサエとマサルは出来ておりまして、おまけにマサルはこの篠原博士におかまを貸しているという”などとやる。それが、いつもこういう調子でやってんじゃないのか、と思えるほどポイポイ出てくるのが凄い。やはり紙芝居は観客にあわせる大道芸なんだな、と思う。絵のヘンテコさやストーリィのいいかげんさにツッコミを入れながら演じるのは、まるで私らの『UA!ライブラリー』だ。『高校三年生』の替え歌で、黄金バットの主題歌までフルコーラス歌ってくれたのに、われわれも観客も大爆笑、大満足。そして松本ヒロ、このあいだの白山先生の会のことを冒頭にフって、おそるおそる、という感じでまた金正日ネタ。一番後ろの席に、帽子を目深にかぶり、サングラスに白マスク、といういかにもアヤシゲなお客さんがおり、あれはヒロさん狙っているンじゃないか、とみんなでオドかしていた。実際ビビってやっていたが、さすが芸人、こういうときは逆にテンションがあがり、ラストは金正日が“インターナショナル”をがなって退場、という凄まじいものになる。その後の大喜利は、まあ予告編的なもの。快楽亭と談之助の離婚ばなし中心。もう一人のヒトは、崖っぷちだそうだがさて、どうなるか。夏コミまで待て。

 朝、実は快楽亭から電話があって、“二次会、あそこらへんの居酒屋ももうナンですから、駒形橋のちゃんこ屋でやりませんか”と言うことだった。談生以外の出演者に前座さん(ブラ談次にブラッC)、GさんにYさん、Sさん、K子などといった面々で、タクシーで駒形橋。佳声先生を囲んで、紙芝居のいろんな話を聞く。昔の漫画の話になったので、○□サンゝ助サン、団子串助漫遊記などのことを持ち出したら、“あなた、幾つですか”と佳声先生に言われた。快楽亭が“今日みたいな会の客に多いンですけど、年齢の割に古いことをやたら知っているようなヒトばかりで”と。快楽亭と、紙芝居の本を出そうと話す。CDつきで、快楽亭や私の新作も入れてやりた い。ちと、どこかにフッてみようか。

 佳声先生送ったあと、Sさん、Yさんたちとも少し話す。Yさん、本当は彼女を連れてこようかと思ったのだがタイトルに恐れをなしてやめたが、連れてくればよかった、と悔やんでいる。こないだまで、骨折して入院していたのだが、“看護婦さんというのはエッチなことをやってくれないんですね”“エロゲーのやりすぎだよ、それは”などという話。私、“でも、入院したときに、手術前に可愛い看護婦さんに壁に向かって手をつかされて、パンツ下げられて、肛門に灌腸されましたが、あれは一部の人にはたまらない経験でしょう”と。実際、この話を見舞いに来てくれた快楽亭に言ったら、“それはお幾ら払えばやってくれるんですかね”と、半ばマジな口調で訊かれたものである。

 K子も今日はうまいちゃんこ鍋でごきげん。この店の、とても元相撲取りとは思えないタイトな主人に挨拶し、タクシーで上野駅まで。銀座線最終で帰る。ちょっと酒が足りなかったかな、と思ったが、まあ、そのまま寝た。打ち上げの店がうまいと、本当に充実した一日であった気になる。いや、実際なかなか聞けないものばかり聞い た日であった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa