裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

金曜日

フォーティアンのポーが聞こえる

 あれは人体発火のときに発せられる音だ(チャールズ・フォート談)。ところで、フォーティアン・タイムスが珍しく“このネタは都市伝説”とあばいた『月面のコーラ瓶』事件
http://moon.nasda.go.jp/ja/school/popular/story03/coke-bottle.html
 であるが、これが正しいとすると、元ネタはアポロ月着陸の10周年、1979年のものだということになる。月面のコーラ瓶というネタを、アニメファンであればすでに76年に、イタリアのブルーノ・ボゼットの佳作『ネオ・ファンタジア』の中で見ている筈である。アポロ宇宙船が月面に捨ててきたコーラ瓶。その中に残っていたコーラが化学変化を起こし、アメーバのような生物となり、それが次第に分裂・増殖を繰り返して、奇怪にして魅力的な生物群に進化していき、やがて恐竜もどき、マンモスもどきの巨大生物たちの、どこへ向かうとも知れぬ大行進となっていく。『ボレロ』の調べにのった生物進化のグロテスクなパロディは圧巻で、全編のクライマックスではあったが、この作品がNHKで放映されたときは、冒頭のコカコーラの表示がわざわいして、このセグメントのみカットされ、ビデオセットしていたわれわれファンに怨嗟の声をあげさせたものだった。この作品が上記サイトにある、オーストラリアのラジオ番組にヒントを与えた、とは考えられないだろうか?

 朝7時半起床。朝食、カリフラワのスパゲッティ、ポンカン。テレビは『週刊金曜日』が曽我ひとみさんの北朝鮮に残された夫と娘のインタビューを掲載、あまつさえその掲載号を曽我さんに手渡しに行った、という件で、やたら騒ぎ立てている。確かに非常識ではあり、国民感情を逆撫でする行為ではあるし、黒川編集長の“何で怒っているのかわからない”という発言は無責任極まるものである、とは思えども、最近のマスコミが、いや識者も一般のネット発言者も、政治家も(社民党までも)が一斉に草木もなびくよで北朝鮮叩きに血道を上げているのを見ていると、そりゃそうかもしらんが何か窮屈、という思いをしていたところなので、曽我さんに何の縁故もない一庶民として、どこかスカッとしたものを感じてしまう。しかもやったのが『週刊金曜日』とあれば、ああ、アソコならやるよ、日本嫌いのひねくれ者どもだもの、と納得も出来、その悪口を言うことで、正反対の側からもスカッとできる。これまで古いピンぼけ写真でしか見られなかった夫のジェンキンスとかいう人物の生の顔も見られたし、得をした気分である。

 風呂使っている時に宅急便が来たので、上がってすぐ電話して再配達してもらう。母からのカレーやイクラ。仕事にかかって、まず『新刊ニュース』の今年の三冊。こりゃ別に仕事じゃないか。三冊と言われても、どの切り口か、で全く違ってくるのが困惑するところでもあり、面白いところでもある。いろいろ考え、“新訳”ということにこだわって青土社のマルキ・ド・サド『ソドム二百五十日』、ヴィレッジブックスのジョン・H・キール『プロフェシー(モスマンの啓示)』をあげ、あと、アメリカの超B級ホラー研究本『ガーストリィ・テラー!』を、翻訳希望本として。

 昼はイクラご飯とけんちん汁で。その後、さらにSFマガジン原稿。今回は薄ネタなので、簡単に書けると思ったら案外手間取り、3時半までかかった。ここの原稿には、毎度本原稿の他に執筆者近況もつけるのだが、これが困った。近況と言われてもナンにも思いつかない。考えてみれば毎日々々、仕事ばかりである。落語のイベントに出たとか、変わった食い物を食った、とかいうのも私にとっては敢えて書くこともない日常のうちだし、と、僅々100文字に悩んで、30分以上かけてしまった。

 それやこれやで、出かけるのが大幅に遅れてしまう。着替えて4時15分、赤坂のTBSまで。『ウッチャきナンチャき』に二回目の出演。15分遅れで入る。入り口で河崎実と安斎レオ両人にバッタリ。よく入り口で出会う人たちである。ADのKさん、さすがにちょっとあせった顔で待ってくれていた。控え室でメイクし、ざっとした説明を受けて、すぐスタジオ入り。今回のゲストは私と山口美江。へえ、拒食症で芸能界引退したとか言ってたけど、まだいたんだ、と驚いた。第一回はレギュラーコメンテーターが上段に位地し、その下に剥き出しという感じでゲストが座らせられたが、改善されて、同じテーブルに着く。これはいい。

 本日のネタは“カラス撃退法”“ひきこもりの兄を撮影することで救った映画監督の弟”、“愛児の死をきっかけに道交法を改正させた夫婦の一念”の三本。カラスはともかく、後の二本が重い! なんでコメディアン揃えた番組でこんな笑えぬテーマばっかり持ってくるんだ、という感じ。案の定、田中邦衛のメイク姿のウッちゃん、さまぁーずたち、後半はほとんどしゃべれず。優香にいたっては正式発言、ついに一回もなし。コメントも、ほとんど私と山口美江を名指しで来る。視聴者にはさぞかし出しゃばってよくしゃべる奴と思われることであろう。しかも、ギャグ入れられず。面白くもないトークをする男だと見られたのではないか。

 山口美江という人、どうも今、躁病のケらしい。とにかくよく発言する。少しヘキエキはするが、しかし自分の与えられた役割をきちんと心得ている、ということでは感心する。おまけに、さすがプロ、天然ではあるんだがツボを押さえた発言で、聞く者の興味をひき、ちゃんとこの状況下でギリギリのギャグまで入れてシメる。少し見直した。私は真面目に、押さえの文句を。案外、ゲスト二人のバランスがとれていたように思う。だから、司会の南原もこの二人中心に話を進めたのだろう。テレビという場では、隣に天然の人を置き、私はこういうキャラの方がいいのかもしれない、と思えてきた。第一、ラクである。

 終わって、タクシー呼びますというのを、いや、ここらで待ち合わせしているんでと断って外に出る。K子と、せっかくだから赤坂でメシ食おうと言っていたのだ。ところが、収録終わったのが6時45分、いささか中途半端な時間であり、かつ、赤坂近辺の地理感覚がまるでない。携帯で話して、8時に渋谷で、ということにし、タクシーで帰宅する。これくらいの距離なら、自分で拾った方が実は気楽である。

 帰宅、背広も着たまま、モノマガジン原稿をしばらく。大体書き上がったが、まだシェイプアップが必要な出来。送信は明日にする。8時、神山町『華暦』。K子といろいろ話がはずんだ。刺身は角アジ(船山で“カイワリ”と言って出てくるものと同じ)、イサキ、マグロ。角アジは以前はめったにわれわれの口になど入らぬ高級魚ということだったが、最近よく目にするのは漁獲高が増えたのか。これももちろんうまかったが、イサキとマグロがとろけるように柔らかく、美味。あとおでんをつまみ、最後にその刺身を寿司に握ってもらった。

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