7日
木曜日
地球漫談家問題
このままだと人類はみな伏見知か志や朝日のぼるになってしまうぞ!(書いていて「それは大変」と思えてきた) 朝7時半起床。朝食、サラダスパを茹でてペペロンチーノ、小皿に一杯(少し多め)。K子にはキノコと青トマトのオムレツ。オムレツがいい形に焼けて気分がいい。読売新聞に『宇宙家族ロビンソン』のドクター・スミスことジョナサン・ハリス死去の報。87歳。この役以外、テレビではゲスト出演していたのを二、三回見たきりだったが、新聞によると『トイ・ストーリー』に声の出演をしていたらしい。観てないので知らなかった。熊倉一雄のあのクセのある吹き替えの口調が印象に強いが、原語版で見てみると、女性みたいに優しい声で、実に折目正しい英語を使っていた。気障、というキャラクターだったのだろう。同時代に日本のマンガでは、赤塚不二夫がイヤミというキャラクターを『おそ松くん』で登場させていたが、日米で、こういうキャラが子供たちに人気だったのは面白い。ドクター・スミスも、嫌われ者ではあったが唯一人、ロビンソン博士の息子のウィルとは仲良しだった。好奇心あふれる子供というのは、いい人よりも、こういう、ちょっと悪いことを教えてくれるような大人の方を好きになるのである。
朝からずっと早川書房原稿。リキを入れているとすすまず、早く早くとあせるとウスいものになっちゃう、という二律背反。その合間に、植木不等式氏から、いろいろとご教示のメール。googleのキャッシュハイライトについて。他にも未知の方からいくつか改善法を教えていただくが、どれも私の機種にはダメであった。キャッシュハイライト、幾分回復はしてきているようだが、まだ不安定。植木氏からのメールはいつもタイトルがダジャレで、“からくれないに水googleとは”“魔法陣google”“ググった果実”。最後のは元ネタわからず。私のは“googleパー”“google平家は久しからず”。
2時まで原稿、書いては送り書いては送り。2時に青山へ行き、志味津でカキフライ定食を、と思ったが今日は夜、好美のぼる本の打ち上げでカキ料理だった、と思い出してミソカツ定食。ここは入り口に週刊誌が置いてあるが、それがやたら古い。週刊ポストなど、5月のものとかがある。読んでみたら北朝鮮との交渉のことが書いてあり、向こうが拉致を認める確率はほとんどない、などとある。被害者が帰国する可能性など問題にもしていない。ま、これがその時点では常識であったろう。後づけで“北朝鮮が認めるしかない状況におかれていたことは最初からわかっていた”とか書いている記事を最近よく見るが、ホントにそう思っていたなら、会談の前にそう言えばよかったじゃねえか、と毒づきたくなる。後出しジャンケンはチャクいですよ。
青山紀ノ国屋はリンゴまつり。紅玉、ジョナゴールド、玉林、アルプス乙女、つがる、富士、スターキング、ゴールデンデリシャスなどなど、三十種類ものリンゴが並べられて壮観。端から名前を読んでいるとミスター梅介になった気が。二階のパン売場ではフィンランドパン祭。グラハムレイパという黒パンと、カリヤラン・ピーラッカ(小麦粉とライ麦の生地で、ミルクで粥にした米を包んだもの)を買う。
帰宅して、また原稿。早川のも片付けねばならんが、Web現代の原稿も〆切をとうに過ぎていて、今日じゅうにアゲねばどうにもならぬ。とは言ってもここ一週間、あまりネタになるようなところ行ってないしなあ、と頭を抱えるが、どうにかこうにかネタをひねり出して、10枚、書き上げる。書き上げたときにはもう6時半。
家を出て、外苑前に向かう。広島料理『U』(隠した意味のないイニシャル)。地下鉄の出口を間違えてしまい(ヤフーの地図がわかりにくかった)、少し迷う。しかも、入っているビルの2階だというので行ってみると、その入り口というのが、裏口かと思うほどソッケない。後でYくんが“予約してたから入れましたけど、フリだったら絶対帰りますよね”と言っていた。まさに。さすが、外苑前に店をかまえるだけあってスカしている。昔は青山や六本木のカフェバーでは、看板など出しているのは二流店、みたいな雰囲気だったものだが。そういう店がのきなみつぶれてモツ鍋屋などになっていくのを横目で見るのがバブル崩壊時の快感であった。
つどうものわれわれ夫婦、Yくん(Nくんは仕事で欠席)、井上デザインの面々。オシャレな店で、料理もおしゃれ。イワシ塩焼き700円など、ファックユーとつきだした中指程度の大きさしかないイワシが6尾。一尾116円66銭。一口で食ってみんな“メザシだよね、要するに”。刺身もコショウダイではあったが、皿にへばりついているようなもの。おまけに広島だから醤油がタマリ。隣の席の客が“普通のお醤油頂戴”と頼んでいたのを見て、私も注文。さすがにイワシもコショウダイもおいしいけどさあ。カキがおまけに、ここは生では食えない。生ガキ出さず広島料理を名乗るなあ、と言う感じ。ただ、メインに頼んだ美酒鍋というのは、酒が6割入ったダシでカキ、野菜、豚肉などを煮て食べるもので、これはまずまず。とはいえ、値段を見たら一人前3200円。親方講談社だから私が文句言う筋合いもないが、手銭じゃ絶対こないぞ。
井上くんはいろいろ来年からの事業プランを立てているようで、K子とその話ではずんでいる。バイタリティあるなあ。疲れた体に山陽鶴という広島の酒(これはかけ値なしに旨かった)が染みる。明日の原稿があるので早めに帰る。メールチェックなど。裏日本工業新聞のタニグチ氏が、昨日の相撲体云々の私の指摘に返答していた。“どうせそんな冗談を言ったところで真面目にとられるわけではないし”という内容であったが、私はそれを真面目にとる人がいるかもしれないなどとは言ってない。そのような、読者(あそこを読む人の中にも相撲ファンはいるだろうし、科学的整合性を重んじる読者も多くいるだろう)に反発を感じさせる冗談を最初に持ってきた後では、どんな真面目な問題提起をしても世間はそれを素直には受け取らないよ、ということを言ったつもりである。まして、ゲーム脳を信じている人に“あのタニグチという男は、なにしろ相撲は体に悪いから廃止しろというような非科学的なことを書く男ですから、相手にしてはいけません”と誹謗される危険性をはらむ。先般の文章を読む限りでは、氏は真面目に、あの森氏の著書の非科学性、非論理性、そしてその尻馬に乗っかってゲーム叩きをやろうとしているマスコミに怒りを感じているようだ。その意志を読者に伝えるテクニックとして、あの冗談でアイキャッチを狙うのは愚かな手であったと言うことである。それにしても、あそこには本当にひさしぶりに目を通した。つまりはある時期から読むのをやめてしまったということだが、それはあそこの文章が、言いたいことを言うという姿勢の陰に、常に“まあ、自分みたいなものがこんなところで何を発言したって、本気にとる人もいないだろー”的な卑下による、甘えというか責任回避というか、そういう気骨のなさを逃げ口上として用意しているのが見えているのが気になりだしたからなんである。ある問題につき、自分に真に納得のいく意見を求めてネットを渡り歩いている者に、発言者の地位や学識、有名無名など関係ない。ネット界では書き込んだ意見は公開した時点で発言者のもとを離れ、引用され、コピペされ、口真似されて、はるか遠くへと漂流しだす。そこではタニグチリウイチの発言も、東浩紀の発言も、山形浩生の発言も、2ちゃんねるの書き込みも、全て等価なのである。それを嫌がるなら、情報送信に徹して、変な意見呈示などはするべきではないと思うんだが。