2日
土曜日
吉祥寺はダメよ
あそこには岡田斗司夫がいるから(意味不明)。朝、7時半起床。野村克也のデリヘル疑惑を取材してたらサッチーに猛逆襲される、という夢を見る。完全な一人称視点の夢で、私の姿は、デジカメで自分の姿を写すというシーンの、その画面の中にしか出ない。無精ひげを生やして、実物より三割方カッコいい取材記者になっていた。朝食、K子にはジャガイモ炒め、私は青豆スープとトマト一個。
午前中はきわめて好天であったが、午後に入って急に空模様があやしくなる。外出して、パルコブックセンターへ行く。改装なって、やたら隅々までデザインされた機能的な作りになっていた。機能的ということは余裕がないということで、慣れるまで時間がかかりそう。岩波文庫の棚が小さくなって、ことに黄帯(日本の古典)が十数冊しか置かれなくなっていたのは哀れであった。店頭フェアは澁澤龍彦、日本文学のポップ台には以前に引き続き、Dちゃんの本が山積み。ここの主任はDちゃんファンなのだな。
数冊本を購入し、サムラートでカレーセットを食う。ナンが相変わらずうまい。タンドリチキンを包んでもらい、明日の朝飯にするつもり。帰宅して仕事、『キッチュワールド事典』。左肩が腫れたように痛むが、まず、調子は出てきた。郵便受に入っていた日本漫画新聞、普段はまず目も通さないのだが、ちらと見たら安田卓矢氏死去の報あり。68歳。8月8日とかなり前。企業キャラクターデザインの第一人者で、三菱ビーバーエアコンのあのビーバーのキャラクターをデザインした人である。今の日本で安田卓矢という名を知っている人は1パーセントにも満たないと思うが、ビーバー、と言ったら日本人の70パーセントくらいはあのビーバーを思い浮かべるのではないか?
眠田直氏の推薦と思うが、トゥーン関連のMLからお誘いが来て、入会した。何かやたら濃い話題が展開されており、クラクラする。そこへの書き込み用に、ちょっと海外サイトをgoogleで検索したら、こっちはちゃんと検索語がハイライト表示される。日本語での検索のみ、ハイライトが廃止されたのか? それとも、知らないうちに私がどこかの設定をいじってしまったのか? なんにせよ、ハイライト表示がないと不便で不便で仕方がない。
6時、家を出て新宿へ。左肩を揉んでもらいにマッサージ。その前にいつものようにサウナ。ここ、スタッフが知らないうちに入れ替わった。脱衣室にあったソファ二脚のうちひとつが片付けられ、そこにサービスの冷水のボトルと紙コップの台が置かれていた。ちょっとイヤな予感がする。45分ほど汗を流して、いつものようにドリンクサービス(私はいつもオロナミンC)を頼むと、予感的中、フリードリンクサービスはやめた、と女性の店長が言った。“オロナミンCをやめるとき、カラサワさんの顔が目に浮かんだんですが”と申し訳なさそうに言う。なら置いとけよと思うが、まあ無くなったものは仕方ない。文句を言うほど私も野暮じゃない。しかしながら、つまらんことではあるが、私はここでサウナに入った後、サービスのオロナミンCをグラスで啜るときに“ああ、生きててよかった”と、大げさでなく毎回感じていた。こういう、ちょっとした人生の快感って大事だよなあ、と、こないだ『刑務所の中』の映画を観て再確認していたのだ。その矢先にそれが無くなるというのは、何か、世の中が私を必要としていないのか、というくらいの失望を感じる。マッサージはいつもの怪力の女先生。グイグイと揉まれてキモチいいが、しかし揉まれながら、ずっとオロナミンCのことを考えていた。こんなに長時間オロナミンCのことを考え続けたのは生まれて初めてではないか。帰りに、“今度、オロナミンC自前で持ち込んでいいですか”と訊いたら、OKとのことだったのでホッとする。我ながら、意地になってる。ひょっとしてここのオーナーが西武ファンなのかしらんとか、いろいろ考えつつ地下街を歩いて、伊勢丹会館。
2階の三笠会館で、K子と夕食。牡蠣の季節だというので、生牡蠣と、牡蠣のパスティス風味というのを。われわれ夫婦は基本的に赤ワインしか飲まないが、牡蠣だしなあ、白にするかと思っていたら、アルザス・ピノ・ノワールで、スッキリとした、魚料理にも合うというのがあるとリストを見たK子が言うので、それを試みてみる。透き通った、まるでロゼのような色合いの赤であった。最初口に含んだときはまさにロゼ風味で、失敗したかな、と思ったが、グラスを重ねるうちに次第にコクと香りが舌の上に残り、口中に馥郁たる世界が現出する、さすがの味わい。そうK子に言ったら、実は値段を言わなかったがウン千円のものだ、と告げられ、俺の鑑定もまんざらではないわい、という思いと、うへえ、も少し安いのにしとけばよかったというケチな思いが頭の中で交錯。今日は腹がそれほど空いてないので、パスタやリゾットは省略して、サラダと、メインは鹿肉のロースト。その後ブランデーを頼んだが、運んできたものの中からコレ、と今まで飲んだことのない奴を指名。それをグラスに注いでからサービスが、“これ、一杯ウン千円です”と言う。高いワインを飲んだので、フトコロ具合のいい客だと思われたか? しかしまあ、さすがに香り高く、ちょっとエスプレッソに垂らして飲んだりして、陶然たり。
向かいの席で、脂ぎったジジイが、まだ20歳そこそこの女性を、いかにも“金で買うた”という感じで連れていた。自分の皿の料理などをフォークに刺して、“はいアーン”と言いながら食べさせてやっていた。こういうジジイに憤慨しなくなっただけ私も老人になった。まだうらやましくは思わない。そのうちなるだろう。支払い終えて、サイフも寒くなったが外も寒い。帰宅してすぐ布団にもぐりこんで寝て、夜中に寒くて目を覚まし、エアコンで暖房を入れる。ふと確認すると、ウチのはビーバーではなくて、東芝のものだった。こういうときでないと、自分ちのエアコンがどこのだったかなど(部屋を借りるときついていたものだし)確認しないなあ。