27日
土曜日
膣炎販売
さあさあ奥さん方、日本における膣炎の一番の原因が取り忘れたタンポンだってこと、知ってますぅ? この製品はね、どんな奥に突っ込まれたタンポンでも取り出せるばかりかね、バイブや電球、ミカンやハムスターにいたるまでこれこの通り……。朝、7時半起床。少し、酒が残っているかな、といった具合。朝食、トウモロコシ半 本、サツマイモ二切、クレソン半把。果物はまだモモ。
平塚くんと仕事関係の手違いにつき電話連絡。各出版社からお盆前の最終〆切等につき連絡。新連載用の資料も多々、読まねばならぬもの残りあり、憂鬱。気分だけでぐったりと疲れ、横になる。
1時、金沢から到来のハチバン冷麺。ざるラーメンにして、具は冷凍庫の豚バラの残りをネギとざっと煮付けて。麺が抜群のうまさ。資料のコピーなど取るがテンション上がらず。今夜は高座なのに、大丈夫か? アリナミン十錠をイッキのみして、体を賦活させる。3時、家を出て新宿。紀伊國屋前の通りが、エイサー祭とやらで、沖縄音楽が流れ、えらい人出。通行に大不便。半に中村屋地下マシェーズ。ここ、AVの撮影の待ち合わせ場所として以前有名で、昔は露骨に撮影に使うバイブの品定めをスタッフと女の子がしていたこともあった。あまりに露骨になり、お断りを出したとか出さないとか聞いたが、今日は夏休みの土曜で家族連れ一杯。とはいえ、一目見ただけでソノ打ち合わせとわかるカップルが一組、いた。もっとも、私もカバンの中には今夜の高座のトークで使うオトナのオモチャが一杯、打ち合わせ相手がくすぐりングスのプリンセスみゆき、というのでは、絶対一般客でない方の組である。
客の中に、一瞬、佐川一政氏ではないか、と思える人相の人がいた。まあ、すぐに明らかな別人とわかったが、小柄で、頭の上部にいかにもという露骨なカツラを装着し、高級な仕立てのスーツ姿で、パイプたばこをふかしている。まだ、こんな“インテリでござい”というスタイルの人物がいるんだ、と感心したような人物。レジに立つと、950円の勘定で(私の席がレジのすぐ脇だったのでみんな聞こえる)、その紳士、1000円札を出し、“お釣りはとっておきたまえ”と言うようなことを言って出ていこうとしたのを店員が、イエ困ります、と引き留めて50円手渡した。バツが悪そうな表情でそのインテリ紳士、立ち去ったが、“モンマルトルのカフェと違って、日本は粋じゃないざんすねえ”とか、思っていたに違いない。
やはりエイサー祭に巻き込まれて遅れてきたプリンセスみゆきことベギちゃんと、ざっと今日の打ち合わせ。そこから御徒町に出る。隅田川の花火大会に行く人々か、浴衣姿の若い娘が目立つ。どう考えても浴衣にガン黒は似合わない(というか、まだいたのか、とヤマンバみたいなメイクの子を見て、前世紀の遺物を見たような感動があった)。こんな日に寄席やって、客が来るのか? と、ちょっと不安になった。
御徒町に着いて、少しお腹にモノを入れておこうよ、と上野アメ横の大衆割烹『弁慶』でウナギ。蒸しはきいていて柔らかいことは柔らかいが、コクも風味も何にもない、スカスカのうなぎだった。金髪の二十歳くらいの女と、子供っぽいタメ年くらいの男が、子供連れて入ってくる。他の客はわれわれ以外みな年輩の夫婦連れやビジネスマンで、この親子連れだけが異物なので、店員のおばさんが“お二階にどうぞ”と誘導するが、“ここでいいですかー”と小上がりに陣取る。おばさんたちの目は確かで、座るとすぐ子供が“ハンバーグ食べたーい”とかぐずり出し、女は女で携帯かけ出し、男がメニュー見て“これどう?”と、うな重の竹を指さすと、“それ、スープ(肝吸いのこと)ついてんの?”などと女、携帯片手に大声で言う。以前なら日本文化への義憤にかられたようなこういう光景を微笑ましく(でもないが)見られるようになったのは、もう40代半ばを過ぎると、なに、自分はこういう連中が社会の中心になった時代を長々と生きないでいいんだ、という安心感のせいかも知れない。人間の命がはかないのは神の摂理なのだな、と最近思う。
5時20分、上野広小路亭入り。受付にいた快楽亭のおかみさんに挨拶。暑い中、外にすでに20人以上のお客さんが並んでいるのに驚いた。楽屋で快楽亭、談之助両師匠にベギちゃんを紹介。ブラ汁くんにK子から預かってきた(今日はK子は“上野でしょ。打ち上げの店に期待できないから行かない!”と欠席)と学会扇子を渡し、休息時間中に売ってくれるよう頼む。快楽亭は昨日は、談慶さんと昼間からずっと飲みっぱなしで、“オレ、明日やる『梅若礼三郎』、まだ入れてないよ”などと言っていて心配だった。ネタ帖にちゃんと梅若礼三郎とあるので、“やれましたか”と訊くと、“いやー、訊いてる方も誰も覚えちゃいねえだろうというネタはラクだねえ!”と。“オレですら今まで一回くらいしか聞いたことないもん、こんな話”。そう言えば私も圓生百席かなんかで一度聞いただけだ。元気いいぞうセンセイ、前田隣先生など次々に楽屋入り。前田先生、“オレはスランプだから”“オレはスランプだから”とやたら口走る。加齢による鬱かな、と思う。小野栄一のことを訊いたら“小野ちゃんはあれな、躁だな、今”と。
大喜利の打ち合わせなどをやる。ベギちゃんに女王様役、私が司会、と振り分け。前座くんたちが“もう満席なんで座布団を出します”と報告に来る。館内放送で“本日は混雑しておりますので、お席をお繰り合わせて……”と流す。しまいには“あの師匠、もう入り口のところにまで座布団敷いてぎっしりで、後、入れないでいるお客さまが15名ほどいらっしゃるんですけど、どうしましょう”と訊いてきた。快楽亭投げやりに“かまわない、高座にあげちゃえ”と凄いことを。昼の快楽亭の“毒”演会も似たような大入りだったという。花火もあるのに物好きな、ねえとみんな話す。結果、60席くらいのところに114人を詰め込んだ、アウシュビッツ状態で開演となった。開口一番がブラ房、元気いいぞう、談之助、前田隣、みなワッワと受けている。受けると長くやるのが芸人根性、時間押す押す。ベギちゃんは袖にハリついて演芸(寄席は見るのも出るのも生まれて初めてだそうな)に見入って、かなり面白がっていた。宇多まろんとコンビで風俗嬢漫才やらせたらウケるかも知れない。快楽亭のヒザに向くかも。中入り時に扇子や官能倶楽部の会誌を売る。扇子は即、完売。
中入り後、私とベギちゃんが出てオトナのオモチャ講釈。エヴァンゲリオンブームの時に発売された綾波レイそっくりの新素材オナニー器具“彩川リョウ”、ビデオの声に反応して振動し、女優とシンクロしてイクことが出来る21世紀のメカ、“音声多感バーチャルマシン『ボイスファッカー』”、それと人気ゲイ男優のライブマスクからとったオナニーマシン“スティーブ・ランボー・マウス”(これが口と鼻のところだけの形状で非常に見た眼も物体X状で気味悪い上に、口の中の造形というのがさらにロブ・ボッティン好みでグロテスク)などをサカナに20分。ロフトならバカ受けというところだが、寄席の客は少し引いたかも。常連客のみが大笑いしていた感じもあり。
楽屋で、差し入れのチューハイ飲んで雑談。快楽亭は懐かしいエロこばなし。さらに全員が上がってオトナのオモチャ大喜利。もちろん大筋のところは楽屋で打ち合わせしているのだが、そこはゲイ達者揃い、元気さんのアドリブなどが楽しく、客席のあやさんから答を貰ったりと、こっちも気楽に。快楽亭がベギちゃんに襲いかかって乳揉んだりというお約束もあって、かなりウケて打ち出し、9時半。打ち上げは大昌園で焼肉。と学会の藤倉さん、Sさん、開田あやさん、睦月さん、M田くんM川さんたち、それに傍見さんQPさんなどお馴染みで総勢20名くらい。FKJさんも打ち上げ参加だが、彼は今日は遅れてきて、とうとう入れなかった組だそうな。昨日も来ていた女性陣が“すいませーん、スティーブ・ランボー・マウス見せてくださーい”とやってきた。
11時半までガヤガヤ。M田くんは談之助さんとユダヤばなし。高座下りても同じ話をしてるな、この師匠は。私はもっぱら快楽亭とバカばなし。オジサンになると、若いって言うだけでどんな女の子も可愛く見えてしまうからいい、という話で、快楽亭も、“そうそう、こないだ女子高で落語をやる会に出たけど、もう、回りみぃんな可愛い子だらけで、「エッ、昔はこの中から選り好みしてたの? 贅沢だったんだねえ!」って自分で感心しちゃった”と。出たワリを半分、ベギちゃんに進呈。彼女は明日は銚子の野球場で野球拳をやって、全裸でランニング、というハードな仕事だそうな。もういい加減そういうのから脱却しなさいと説教すべきなのか、えらくなってもそういう仕事をやめちゃいけないよ、とはげますべきなのか。そう言えば行きの山手線の中で彼女、“わたし、業界入ったときから一度も、景気の上向きって知らないんですよー”と言っていた。そういう意識の中だと、こういう仕事もどうしようもないとは思わないのかもしれない。それはそれで幸せなのか?