裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

月曜日

失調症2等賞3等賞

 精神分裂病改名記念駄洒落。“1等賞2等賞水頭症”てのもあるな。朝6時に目が覚める。外は雨。これくらい降ればかえってせいせいする、というほど降っている。『中国飲食文化』を読むがやや退屈。これは歳時と食の関係のところにさしかかっているからで、こちらの意識に何のフックもない部分だからである。例えばこの中に、“立秋の日に楸(きささげ)の葉を頭に載せ、蓮蓬と藕を食べ、伏姜を日にさらし、茉莉、梔子、蘭、芙蓉などの花を味わう”とあるが、これがいったい何を表し、それが文化的・歴史的、また伝統の知恵としての健康法等としてどういう意味を持つか、が説かれていないと、こっちには興味をそこにしめす取っ掛かりが見いだせないのである。翻訳のことを言うと、ゴータマ・シッダルタを“ガウタマ・スィッダールタ”とわざわざ表記する意味があるのか。

 朝食時には雨はまた、降りみ降らずみのシソシソとしたものへ。トウモロコシ半本とサツマイモ一切れ、はいつもと同じ。クレソンの代わりに二十日ダイコンを、これは生でバリバリ齧り、葉っぱまでムシャムシャ食べてしまう。ネギスープは塩辛くしすぎて半分残す。W杯決勝で敗れたカーンの姿に日本人はサムライを見て感動しているらしいが、本国ドイツのマスコミでは彼のミスによる敗北が厳しく責められていると、今朝の『とくダネ』で言っていた。日本人の“悲劇のヒーロー好き”もまた、世界の非常識か。ところで、今月29日のボックス東中野での『宇宙戦艦ヤマト』映画版ニュープリント版上映の私のトークの題名が『アニメの快楽・戦争の快楽』と、ま るであつらえたようなのはワザとか?

 昼間でずっと同人誌用の翻訳作業。ネットで情報収集しながら訳し進んでいると、どんどん知識が増えていって面白いが、また逆にあれも入れたいこれも書きたいという欲も出てきて困る。1時、NHKのYくんと階下ロビーで待ち合わせて食事。新楽飯店で定食。Yくんが今度担当する番組のテーマについて、ちょっとレクチャー。役にたったかは知らず。そのついでに、こちらも彼にちとレクチャーうける。タレント文化人の扱いとか営業の仕組みについて。彼の奥さんが自分で焼いたというロールパンをもらう。最近凝っているそうな。

 その足で3時、時間割。河出書房Aさん。夢ムックの澁澤本が近来にないヒットだそうで、それに乗ってすぐさま、ということで8月末に中川彩子本が出ることになったという。当初の予定では年末あたりに念入りな評論本を、ということだったがやけに早まってしまったので、当面は画集に年表とざっとした梗概(畸人研究の今さんの執筆)を載せ、私は元画集提供者として序文を執筆することになる。で、年末には秋吉巒をはじめとする異端画家の特集本をやりましょう、ということに。シュールリアリズム論となり、日本におけるシュールリアリズムアーティストで大衆に受け入れられた人物は二人しかいない、SMの世界でそれをやった中川彩子と、怪獣の世界でそれをやった成田亨だ、という持論を話すとAさん、そのククリでどこかでやりたい、と言う。そこから成田デザインも実はSMが元になっているものがあるんじゃないかという話になる。例えばゴドラ星人の網目模様は亀甲縛りだし、ギラドラスのモチーフは後ろ手に緊縛されてひざまづかされている女性の姿だろう、などというヨタ話。

 画集渡す。Aさん、複製印刷のためにそれを解体することを恐縮しているが、私は所蔵マニアではなく、それが一般に普及することを望むタイプ(だから復刻に力を入れている)なので、一般に広めるためなら解体などなんとも思わない。まだ大学一年の頃に買った画集が、四半世紀後にお役に立つということが逆に運命を感じさせて、非常に面白い。

 帰宅、翻訳続き。電話いくつか。扶桑社Nくんからゲラチェック渡しの算段。この文庫の初版部数も聞いたが、文庫の値段でしかも共著ということで、それほどのものではない。今年は仕事をかなりやっているつもりなのだが、収入はスケジュール調整ミスでかなり厳しい。圓生の『三井の大黒』じゃないが、見積もり違いの仕事をしちまって、というやつである。海拓舎の本に時間をくって、しかも発行期日が白紙状態になったのがいかにもキツい。何か手だてを講じないと。8時までかけて図版キャプションや作品解説を書き、平塚くんの方へメール。

 送ってからタクシーで下北沢、虎の子でK子と食事。甘とう(甘唐辛子)の豚肉巻きのヌチマース(沖縄の塩)風味とかいうもの、舌平目のガーリックソテーなど。スケジュール管理のことでK子と話す。酒は黒龍。数品頼んで、あとはうどん、と注文したら、“なに、もううどん? 体悪いの?”と心配された。10時半帰宅。

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