18日
木曜日
花のメンヘル
むかしむかし、そのむかし、小さな川のほとりに、大きな精神科と小さな精神科が並んで建っていた。。朝7時起き。夢で妖怪退治の話。山小屋のような場所で、蛇の化身の女を退治しようとした男たちが逆に次々食い殺されて、首がちぎれて転がる。最後に残った少女と老婆に、大蛇に変身した女が襲いかかるが、すんでのところで二人が鉄のカギ状の棒を口に突っ込み、蛇の顔を十文字に裂いてしまう。ホッとしたのもつかの間、その傷がみるみる治って元の女に戻り、その女が呆然としている少女と老婆に“CG対応なのよ〜”と不気味に笑ってオワリ。デッドエンドの夢か。天気晴朗、今日も暑そう。朝食、トーストとニシンのスモーク、スクランブルド・エッグ。果物は甘くないオレンジ。
午前中からムシムシしていて、チンタラと過ごす。朝のうち、マックの機嫌が悪くて時折フリーズし、イラつくが、正午には回復。メール類チェック。とり・みき氏からえらく久々にメールが来て、何かと思えば今朝アップした日記にあった、“ヒットラーが自分の髭のモデルにした人物の資料”というのは、水木しげるの『劇画ヒットラー』なのではないか? という問い合わせ。爆笑である。本当に彼とは同じような本を読んでオトナになったんだなあ。慧眼過たず、その通り漫画サンデー増刊版のやつ。ただし、そこにはフェーダーのフルネームがないので、洋書で髭の著名人のエピソード集があったのをも引っぱり出して、そこで確認をとったのであった。とり氏、今は『パトレイバー』のDVD発売関連の仕事で忙しいようで、本業にそろそろ戻りたいと言っている。本業が何だかわからないところが文化人のカッコよさだと思って いる私などとは覚悟が違う。
そのままネットをうろうろしていたら、戸川京子自殺の報があって驚く。最初は姉の戸川純の方のマチガイではないかと思った。姉の純はもうだいぶ前にライブビデオ制作のトラブルがもとで“皆憎”だったか“皆恨”だったかという文字を残して首を切って自殺をはかったことがあった。原因はどうにも戸川純らしくなかったが、その遺書と自殺方法(手首ならわかるが“首”!)というのはいかにも彼女らしくて、何だかうれしくなってしまった(不謹慎ではあるが正直なところだ)のを覚えている。それに比べると京子の方は、不思議少女系ではあっても姉のような病的なところはなく、自殺などするようなタイプには見えなかったものだが。それにしても、『星くず兄弟の伝説』という、悪くも悪くも(良くも悪くも、ではない)手塚真監督作品という映画に出ていた(姉の純もカメオ出演していた)、ゴム人形みたいだった美少女がもう37だったのか。
その件でしばらくネットを回っていたら、安室奈美恵とSAMが離婚したという報もあった。可哀想に、これで戸川京子、自殺してまでニュースが一面には載らない。昼飯を食おうと外に出たが、あまりの暑さにクラクラし、パルコブックセンターに飛び込んで涼ををとる。実業之日本社『基礎体温日記』(内田春菊)立ち読みするが、一ページ一日、という構成で、中には数行のみの記載が何日も続く部分があり、内容はどうか知らないが見た目のスカスカ感が凄い。これで1500円は暴利というものだろう。箱入りという装丁も、立ち読みで中をめくって読まれたらまず、買われないだろうという考えからなのではないか。どこか店に入るのが面倒くさくなり、KFCでチキン買ってきて家で食べる。外出から帰るたんびに汗でグショグショになったTシャツを着替えねばならない。バイク便でモノマガ用の図版を出す。
SF大会関連の書き込みがだいぶネットに上がってきている。サインをした若女将のお母さん、つまり松の湯の大女将が暗黒星雲賞だそうな。“大女将が来た”とか、“ピーターと大女将”とか、満月の夜になると旅館を経営しはじめる大女将男だとかいろいろダジャレが浮かぶが、病気・医学関係シリーズ継続中なので使えず、残念。
SFマガジンに連載していた『妄想通』を仕立て直して現代文化論にする、という試みのコラム集(早川書房・刊)の章立て、なかなか進まずにいたのを、なんとしても今日じゅうに、という形でバリバリと再読、再まとめした目次案をつくる。“性管理”“武士道”“アイデンティティ”というような王道から“フリークショー”“カニバリズム”といったゲテまで、まとまりはじめると“うむ、これはカミール・パーリアの『セックス・ポップ・アメリカンカルチャー』に匹敵する現代文化評論集になるのではないか”などと、文字通り妄想が湧いてきて、鼻息が荒くなる。ざっと全体の形が見えてきたところで、担当A氏にメール。
加藤礼次朗から久しぶりに電話。明日、実相寺昭雄監督と飲み会があるというのでそのお誘い。明日は品田冬樹さんのスタジオに取材なので、そこから直行になると話す。それから雑談、阿部能丸くんのこと、焼き肉のことなどいろいろ。仕事、も少ししようと思うが暑くて活力がでない。さらに暑苦しいことに立川キウイから暑中見舞 いメールが来る。人を見舞える立場じゃあるまいに。おまけに文面が
「町中で見掛ける婦女子の薄着姿が活力になっております。今日は東上線車内での、ハタチ前の娘さんの黄色のブラチラに泣きました。いつか自由に扱ってみたいものであります」
と来た。戸川京子のように理由なく自殺する者もいれば、このように自殺する要素を山ほど背負いながら元気なのもいる。セ・ラ・ヴィ。
7時、家を出てセンター街を通り抜け渋谷駅へ。乗って一駅で恵比寿まで。2回目になるゑびす秘宝館ツアーである。早めについてしまったので、駅前の古本屋、戸川書店に入る。ここが開いているときに恵比寿に来るのは久しぶりだ。まだ恵比寿にスペース50があったとき、グループえびせんの上映会、無声映画大会、そして大恐慌劇団ライブなどでしょっちゅうこの駅に降りては、この戸川書店を冷やかしていた。版元品切れで長いこと探していた『民間説話:理論と展開』(現代教養文庫)の上下揃いを見つけて嬉しがった記憶がある。その現代教養文庫もすでにないのだなあ、と思いつつ、たまたま文庫のタナを見たら、現代教養文庫『万葉の旅』(犬飼孝)上中下揃いがあった。百目鬼恭三郎『風の文庫談義』でも絶賛されていたもので、十年くらい前から友人・先輩諸氏等より名著だから読め読めと言われ続けてきたものだが、なんとなく買いそびれていた本。現代教養文庫追悼ということもあり、戸川京子追悼で戸川書店という縁もあり(あまりないか)、1300円で購入。出てスペース50があったビルもちょっとのぞいてみる。特長ある造りのビルはそのままだったが、現在はレストランが入っている。ぐるーぷえびせんの上映会のとき、ここの階段を、足を踏み外して派手に落っこったことがあった。腰骨を打って目がチカチカして、ふと気がつくと、目の前に女の子連れの手塚真氏が並んでいたことを思い出した。記憶というのは妙に連鎖している。
歩いてゑびす秘宝館。途中でと学会のS氏と一緒になる。今回のツアーメンバーはわれわれ夫婦にS氏、同と学会H氏、裏モノのIPPAN氏、QPハニー氏、ひえだオンまゆらさんとその友人2名、それに官能倶楽部の内藤みかさん。展示はもう飽きるほど見ているものだが、冷房が効いているので中に入って涼む。20分ほど見た後で、某鮮魚居酒屋でメシ。ひえださんの友人のお一人は二見書房のマドンナメイトで今度官能小説デビューする人だそうで、全身に見事な彫り物をほどこしている。みかさんは例によってホストにハマっていて、今日、ここにも歌舞伎町のホストが迎えに来て、同伴出勤なのだそうである。見ていると子供がお気に入りのオモチャを手に入れて、それでの遊びにご満悦という風である。本で読むと大笑いだが、実際に見てみるとやっぱり、かなり危なげで心配になる。“カレ、絶対カラサワさん好みの美少年ですよー!”と言ってやってきたくだんのホスト、氷川きよしと杉浦太陽を足して3で割ったようなご面相だった。みかさん、実に実にうれしそうな表情で二人でそそくさと店を出る。
Sさん、HさんとSF大会談義など話はずませながら、“なかなか”というヘンな名前の焼酎(焼酎の名前には“ハナタレ”だとか“チンタラ”だとか、けったいなものが多い)のウーロン茶割をいただく。刺身盛り合わせにばかでかいマグロのスペアリブ、それに五色豆腐、鶏の唐揚げなど。K子はS、H両名に“なんでゆ〜こんの扱いに怒らないのッ!?”と迫るが、Sさん“沖縄大会の旅行社のひどさを体験してしまうと、後、どんな扱いを受けても「あれよりははるかにマシ」になるのです”と、泰然たり。“なかなか”はなかなかうまい焼酎であった。が、料理は“まあまあ”といったところで、お値段やや高め、最初の計算が支払ったあとに間違っていたことがわかり、追加をとられる。K子がズバリと“間違えるなら高めに間違えてよね!”。