裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

木曜日

心不全ズ

 マージ、胸が苦しいんだけどな(声・大平透)。朝7時45分起床。朝食、私は昨日に同じ。K子にはオクラとトウモロコシの炒め物、ロールパン。珍しく朝から陽がさしている。日記つけて風呂に入る。結婚以来、何故か朝風呂がわが家の習慣になってしまっている。晩はたいていベロンベロンになっているからだろう。その私たちに影響されたのか、札幌の実家もこのところ、風呂は朝になったようである。

 午前中はだらだらと過ごしてしまう。書評用の本を読んだり何の役にも立たない本を読んだり。お中元があちこちから届く。ビール、ジュース、カニ缶と何となくうれしいものばかり。昔、初めてものを書いて原稿料をいただいたとき、祖母が“その会社にお中元を届けないでいいのかい”と言った。私は“モノカキはお中元をあげる仕事じゃない、もらう仕事だ”とツッパッて答えたが、しばらく“他の人はどうなんだろう、俺だけそういうことをしないでいて、生意気だと思われてホサれたらどうしよう”と心配になったものである。純情なものであった。いまだに、お中元お歳暮の類は、贈るのももらうのも落ち着かない感じで苦手なのであるが。

 昼はサバの味噌煮缶をあけて、ワカメとクレソンの味噌汁で。河出書房の藤野一友画集の序文、書き上げてメールする。少し澁澤調を入れて、難しい漢字を使ったりして遊ぶ。もっとも、古書のデータを入れたりして耽美調を崩してしまって、最終的には何にもならない。すぐAくんから電話がかかって、“いいじゃないですか!”と絶賛してくれる。文筆業冬の時代ではあるが、こういう、私を大々的に気に入ってくれている編集者が何人かいてくれるおかげで何とか食べていける。

 外に出て、青山まで歩く。ぶらぶら歩きだが日差しが強く、湿度も高く、全身が汗ばむ。紀ノ国屋で買い物。帰りに青山通りを歩きながら、いい駄洒落を思いつき、ふむふむ、これで明日の日記のタイトルは万全だ、と思って、帰宅してみたらすっかり忘れていた。やはりメモは大切だな。

 帰宅して机に向かっていたら電話、『ダ・ヴィンチ』から、夏のサブカル本特集でカラサワさんを一ページかけて取り上げたいのでインタビューさせてくれという依頼あり。宣伝は大いにありがたいのですぐインタビュー日程を調整。それから立川流同人誌のテープ起こしの準備などする。

 8時半、夕食の準備。鮎ご飯、春雨炒め、サーモン(昨日の残り)をタタキにして和風サラダ。ビデオで『レスリング・ウィズ・シャドウ』。伝説のレスラー、ブレット・ハートのWWF追放の衝撃のドキュメント映画、ということであるが、私の中でブレット・ハートと言えば80年代初期頃にダイナマイト・キッドと組んで、初代タイガー・マスクと闘っていたアイドルレスラー、という印象が強い。その後、母国カナダを代表するレスラーとなり、“ヒットマン”の愛称でWWFのベビーフェイスのトップとなったことは知識としては知っていたが、アメリカン・プロレスをそう追っかけていなかったので、そのイメージのギャップにちょっととまどった。いかにも悪役然とした顔のビンス・マクマホンがホントウに自分のキャラに忠実に悪役を演じ、ドキュメンタリー映画としてはよく、こんなところをカメラに収められたなと感心する作りになっている。また、見方によっては、古いタイプのベビーフェイスにこだわるヒットマンが、時代の流れに取り残されていく記録でもあり、そこらへんが私には非常に興味深かった。こないだ見た『ビヨンド・ザ・マット』でミック・フォーリーの娘の可愛さに仰天した(やはり談之助師匠も注目していたらしい)が、今度のではブレット・ハートの息子の可愛さに大仰天した。ショタファンは必見であろう。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa