31日
金曜日
筋ジス息子
お父っつぁん、こんな俺に張り紙を書けと言っても無理だよ。朝7時起床。寝床で体がほてって困る。一時間ほど読書。何故か枕元にあった談志の『現代落語論』をパラパラ読む。この本は談志から小野伯父に贈呈されて、伯父からうちの母にわたり、そして息子である私が読んで興奮して自分の蔵書にしてしまったもの。わが家にある本の中でも最も古参の一冊である。中に小野栄一という名も何回も出てくる。伯父と手を切った翌日の朝にこれを読むのも因縁か。ちなみに伯父と談志は仲なおりしたそうである。まあ、あの二人の関係も骨がらみだし。
もう一○○回以上になるだろうが目を通し、いまだ膝を叩く部分ばかりなのには驚く。もっとも、これは私の落語論が全てここから出発しているんだから無理はない。うるさ方のマニアがいちいちトックリの持ち方の高低まで指摘して高座を批評する若手試演会の様子を聞いて、
「いいじゃねえか、トックリなんかどう持ったって、おもしろけりゃ、それでいいやネ……。そんな連中のいうことを聞いてると、売れなくなっちまわァね」
と毒づくところは何べん読んでも笑える。今でも落語に限らず、あらゆる分野において、“いうことを聞いてると、売れなくなっちまう”批評家というのがいる。
8時、朝食。トウモロコシとジャガイモの蒸かしたの。黄ニラスープ。スープを飲むと風呂あがりのように汗が吹き出て体が活性化される感じ。蒸かしたときに熱を加えすぎ、蒸籠が焦げて、鍋が真っ黒になってしまった。日記付け。伯父との決裂の部分、書き上げてから全削除。もう少し時間を見て(そうかかりもしないと思うが)どこかで穴埋めみたいな感じでポイと書くだろう。そのときまで封印。
12時半、どどいつ文庫伊藤氏来。最近、私がここから本を買いすぎるとK子経理部長がお冠なので、彼女が出かけてから、と時間設定したのだが、鍋の焦げたのを新しく買って帰るというので、カチ合わないかとドキドキする。伊藤氏が帰った直後にK子、帰る。“なんで玄関のカギが開いてるの?”とか訊かれてドキリとした。なんとかうまくごまかす。不倫しているみたいなスリルである。1時半、宅急便で金沢のSさんのところかから、注文していた“と学会マグカップ”が届く。カップの周囲にUFO模様が入り、底にと学会マークが印された、しゃれたデザイン。コミケ、SF大会等で販売の予定。ちなみに夏コミでのと学会ブースは8月11日(日)、東地区“ホ”−15b。
海拓舎の差し替え原稿見本一本書き上げ。2時にそれを持って時間割。H社長といろいろ打ち合わせ、内容のダメ出しなど。それから遅い昼飯。どこにしようかとちょいと迷い、結局兆楽で厚揚げ炒め定食。また炒め物係が変わった。今度は猿の惑星みたいな顔したゴツい人。ここの注文確認の声で“ニクヤラ一丁”“おあとマーナラ”とか言うのがあり、何のことだと思っていたが、“肉野菜炒めライス”、“マーボ茄子ライス”であった。ライスを“ラ”と略すな。
帰宅、海拓舎のダメ出し部分を直す。明後日のと学会、それから他の予定の準備などしていてもう、一日の時間がパンパンになってしまう。知り合いとメシ食いましょう、じゃあ誰それさんも誘って、とメールでやりとりし、ネットで店の電話番号調べるというようなことだけで一時間やそこらはつぶれてしまうのだ。別に他に用がないときはこういう雑事は楽しいことなのだろうが。アサヒパソコンから取材依頼。仕事場にお邪魔してお使いのパソコンについて語っていただきたい、ということだが、私は機種ソノモノにあまり興味はないのだがな。
結局、海拓舎は明日まで待ってもらい、7時に新宿、ロフトプワスワン。『モーレツ!エロエロ!くすぐり虎の穴帝国の逆襲!!』に解説者としてゲスト出演。なんで私がこのイベントに出るかというと、まず以前、Web現代でこのくすぐリングスのことを取り上げたという縁。そして、ここの初代チャンピオン“プリンセスみゆき”がいま、扶桑社の仕事その他でおつきあいのあるライターの牧沙織さんである、という縁である。考えてみれば他にも神田森莉がここのテーマ曲を作曲しているとか、いろいろ陰のつながりというのはある。いいのも悪いのも含めて。
到着したときにはすでに会場は満員。カメラを抱えたマニアも多い。解説者席について、牧さんことプリンセスみゆきと挨拶。アナウンサーさんが場内の観客に本日の試合等を放送。うまいのに驚いたが、彼女、本職はエロゲーの声優さんだそうな。牧さんは今日は解説。なぜかというと、このあいだから体調不良で、調べてみたらなんと子宮筋腫が発見されたという。宇多田ヒカルの筋腫報道があったばかりなので、報せがあったときは“いやあ、タイムリーな病気だね”などとひどい感想を述べたが、6月いっぱいは入院治療、と聞いて、そりゃシャレにならんかも、と心配していた。ところで今日、どうなのよ、と訊いたら、なんと誤診で健康体と言われてしまった、とメゲていた。想像妊娠ならぬ想像筋腫である。
くすぐリングスの主催者亀頭たける、虎の穴代表くすぐり男爵とも挨拶、試合にどんどん解説を入れる。SMの女王さまっぽいジェーン・マヤ、天然ボケトークがうれしい宇多まろん、やられ声天下一品キティ・はるか、放漫ボディ爆発のモモ・ブラジル、“今年ゃ前厄だよ!”と毒づきながら悪逆の限りをつくすマッドブラバスター・リーと、個性的というかいいかげんというかという選手たちが入り乱れ、場内はもう大混乱。アナウンサーと掛け合い漫才のようにして解説を加える。
「あ、ブラバスター・リー選手、耳を舐められて悶えています!」
「どうも性感帯だったようですね」
「思いがけないところに弱点はあるものですね」
「ゲスラの背びれみたいなものですね」
アナ嬢、しばらく笑い転げて自分で悶えていた。
その他、くすぐり男爵お手製の巨大処刑マシーンなど、見所たくさん。ここでは以前に二回ほどもう興業しているが、今夜が最高の入り、初めての黒字だったそうである。なにしろ取材が11誌(!)というから凄い。その分、カメラマンが多くて見づらい見づらい。なんと官能マンガ家のぐれいすさんが専属カメラマンとして撮影している。挨拶してちょっと話す。国営放送Yくん、扶桑社Oくんなど知り合い多々。むかしK子の担当だったKという編集にも挨拶される。
深夜興業があるというので10時半アガリ。女の子たちはほとんど副業(本業)があるので帰ったが、牧さん、リーさん、アナ女子、Yくん、Oくん、ぐれいすさん、もちろん亀頭さん男爵さんなども含めて炙屋で打ち上げ。解説の評判はよろしかった模様。倉田真由美もいま、『SPA!』をアゲました、と言いながら来た。練り梅サワーなど飲みながら大雑談。くらたま、“○○はあんな三時間で書いたような安直な本で22万部ですよ!わたしもう嫌んなっちゃいますよ”と、自分が三時間で描いたようなマンガで稼いでいるくせに憤慨する。いいなあ、こういう下卑た向上心のある作家。どういう本を書いたら売れるのか、という話をして“十分間でセックスがめきめき強くなる100の方法”というのを考案。3時までワイワイ。某女流作家の占いハマりのことなど。実力指向のモノカキはやはり占いに否定的だなと、そこで挙がった例を鑑みて思う。なんで自分が売れたのか、不安な連中はやはり占い等に頼りがちである。
帰宅、K子はナンビョーさんのところでチャットをして起きていた。ハラが空いたというのでうどんを作ってやる。テンションがあがっているのでなかなか眠くならない。明日がつらいぞ、これは。