裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

火曜日

人間ドッグ

 はい、直腸の触診しますからワンワン・スタイルになって。朝6時半起床。早朝に店に出るわが家はとにかく早起きなのである。朝食、三日間まったく同じ目玉焼きとベーコン。リンゴのサラダ。母は朝食は同じものを食べる、ということを人生のアイデンティティとしているらしい。うまいからいいが。シャワー浴びてメールチェックする。某所でちょっとしたトラブルがあり、そこから意見の食い違いが露呈して言い争い(私も当事者の一人)となり、それに対し各メンバーから前向きな改善の提案が相次ぎ、某所としてはこの問題を機にこういう場合における新マニュアルが採用されてまず、めでたしめでたしと言うことになった。とはいえ、最初のトラブルとなった問題はいまだそのままなのである。何か置いてきぼりにされたような、ごまかされたような気がして釈然としない。

 荷造りして衣服類を箱に詰める。8時45分、タクシーで札幌駅、エアポートライナーで新千歳空港。電光表示と録音のアナウンスが実際の駅とひとつズレており、車掌がしばらくこれに気付かず、ちょっと乗客が混乱する。操作して直そうとしているがなおらず、“なおんねえじゃねえか”などという会話が放送されたりして失笑。

 JAS11時15分の便に搭乗。今回の帰省は私の誕生日(22日)から二週間以内なので、バースディ割引が効いて、往復運賃が各一万円に割り引きになる。ただし私が言われるまでそれを知らず、誕生日の証明をするものが無かったので、家から、実家を母に相続させる際にとった住民票を貸してもらって、それを提示する。普通は免許証かパスポートだろうが、わざわざ住民票を持ってくる客というのには窓口も呆れただろう。機内で新聞を数紙、読む。日刊スポーツ、巨人松井が次のゴジラ映画に 出演、の記事。それはいいが、記事が
「『ゴジラ×メカゴジラ』(出崎統監督、12月14日公開)」
 になっている。ハム太郎の新作とごっちゃになったのだろうが、ゴジラもいまやハム太郎の併映作品、という事実を象徴するようなミスで、大苦笑。

 機内はさしたる話もなく、無事東京着。渋谷に帰りつき、留守中の手紙類を処理。夏コミ、東京文化研究所、無事ブース確保。8月11日(日)東地区“ホ”03a。私の個人誌の他、委託で堪能倶楽部会誌、UA!ライブラリー新刊、官能倶楽部バックナンバーなどを販売の予定。個人誌のことでK子と打ち合わせ。K子は仕事場に行き、私は飛行場で買った北海弁当(ウニ、タラバ、イクラのちらし寿司)で昼飯。

 鶴岡から帰京を待っていました、という感じで電話。立川流情報いろいろ。暗躍なさっている人も多いようだ。とりあえずいろんなウワサに大笑い。事態の今後の動向についての予想を述べる。業界関係者は大体、私と同意見らしい。“やっぱ、そうなりますか、うーん”と鶴岡、その一致に感心していた。あちこちの掲示板等で、普段はROMのくせにこういうときになってしゃしゃり出てきて、しかも偉そうに説教を垂れる連中の最低さについても語る。品田さんから例の“くもとちゅうりっぷ”フィギュアについて連絡。来週、打ち合わせしましょうと約す。

 仕事にかかるが、一時間ほどで放擲。気圧の乱れ(私らが札幌に行っているあいだにえらい雷雨の日があったという)もあるし、朝からの腹立ちもあり、次第に気分が鬱状態になっている。エエイと電話して、リフレクソロジーを予約する。以前からよく通っているサウナ&マッサージの店で、体の疲れというより精神の疲れのもみほぐしに、顔面マッサージと、足裏のケアをやってみませんかと言われていたので、こういうときに試してみようと思い、6時に出かけた。一時間ほどサウナで無念無想で汗を流し、それからベッドに横たわって、足のカカトのタコをていねいに削ってきれいにしてもらう。M先生という若い女の先生で、足のケアには自信があるという。なるほど、うまいもんだ。わが足の裏ながら、角質化した皮膚がサラサラという感じで削れていく。プロは違うねえと賛嘆すると、大真面目に“私のお爺さんが彫刻家なんです”という。鎌倉の古寺に仏像を収めるほど有名な人らしい。さすが、彫刻家の血筋なら削るのはうまいはずだ、と妙な感心をする。

 足裏をやさしくマッサージしながら角質を削っていってくれるのは奇妙に精神も揉みほぐされる行為である。いつのまにかイラだっていた気分も収まっている。私の左足はほとんどカカトしか機能しておらず、したがってカカト部分全体が大きなタコ状態になっている。“足のケア専門家でも、ここまで大きな角質を削れる機会は滅多にないと思うね”と変な自慢をすると、彼女、自分の削ったカカトを見て“本当、一生に一度かも知れませんねえ”と、作品を見るようなほれぼれとした声で言う。“こんなにきれいになるとは思ってませんでした”と、何か感にたえたような、カカトに惚れこんでしまったような表情。“ぜひ、持っていってください”と、カカトの削りクズをティッシュにきれいに包んで持たせてくれた。どうしろという。

 削ったあと、オイルをたらして丁寧に揉みこんでくれる。処置が終わって、ツルリとした自分のカカトをしみじみ眺める。剃髪した坊主の頭を見るようであり、巨大な亀頭みたいでもある。妙に卑猥だ。別にモデルでもなし、カカトをこんなに綺麗にしたからといって何の御利益があるわけでもないが、ちょっと面白い経験だった。そのあと歌舞伎町のスーパーで明日の食事の材料を買い、寿司処すがわらで食事、K子も私も疲れたか食欲なく、適当に食べて退散、寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa