裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

木曜日

宅配は猫である

 クロネコヤマトです、お荷物でーす。朝7時半起床。朝食はふかしイモ。金時にしてみたらやはり甘さ、くらべものにならず。ベニアズマは調理用なのだね。胸焼け防止にニラのスープ、うんと塩をきつめに。食後、入浴、洗顔、歯磨等如例、日記つけ等。鶴岡から電話、前座破門事件の情報を仕入れる。聞いてみないとわからぬこと多し。ただし聞いてなおよくわからぬことも多し。第三者としてはまだ判断は保留しておくべし。

 午前中はSFマガジンに対する企画書を書く。内藤みかさんから著書『別れてもバカな人』(幻冬舎)届く。内藤さんは官能倶楽部創立以来のメンバーで、最初に私を官能倶楽部の母体である睦月影郎さんのHP(ホームページではなくホームパーティである。パソ通時代の話だ)に誘ってくれたのも彼女なのだが、小柄で子供っぽく見えるタイプの人で、学生時代から官能小説に手を染めていたのも、才女が才にまかせて、女性が性を語り出すムーブメントに乗って官能を書いたら当たってしまってそのまま作家に横滑り、という感じなのだと思ってきた。ところがこれを読むとトンデモない、彼女の内面にはまさに女版火宅の人といった、社会常識では押さえきれない性と情の奔騰があって、それを紙の上に書き記して昇華させることによってどうやら社会人たり得母たり得ているのだな、ということがよくわかった。他の分野とは違い、やはりポルノは頭で書くものでない、書き手本人のキャラクターをぶつけるものだという認識を新たにした。で、凄いのは彼女に顔のよさ(ジャニ系)だけで惚れられ、結婚して子供を作り(やりまくりすぎてゴムが破れた)、実家の母親が凶暴化し(東大の大学院まで出した息子がエロ小説書きの女なんかに引っかかって)、そのストレスから妻が強迫神経症にかかり(このときは彼も家庭内暴力に走った)、その挙句、離婚を突如切り出され(“夫よりいい男が現れたんだから、それは離婚したくなって当然である”当然なのか?)、その男にふられて泣きながら舞い戻ってきた妻を受け入れはしたが精神的不能になり(あまりにいろんなことがありすぎるので以下省略)といったことを洗いざらい書かれてしまった夫が、この本の後書きを書いていることだ。今、彼女はホストクラブにハマっている。それを何故許しているのか、という問いに彼はこう答えている。
「妻が望む完璧な男にはなれないからだ、というのが答えである。私の口べたは永遠に直らないだろうし、気の利いたジョークも言えない。私がわざわざ“話し方教室”などでトークの技を身につけるよりも、自分が苦手な部分を外注に出した方が効率がいいとも思っている」
“外注”というとらえ方がユニーク。この悟りみたいな境地は、ひょっとして本文にある著者の凄まじい告白以上に読者にはインパクトがあるんじゃないかと思う。もっとも、
「彼女のパートナーを務めるには私では役不足かも、と思う日々が今も続いている」
 と、“役不足”の使い方を思い切り間違えているな、この東大大学院出は。

 官能倶楽部のパティオにそのことを書き込む。速攻でみかさんからレスがつく。あの“役不足”は校正でも指摘されたが、“オレはこう表現したいから”と、強硬に通してしまったのだそうな。うーむ、確信犯か。だとすると世間はどうあろうと、オレ基準はオレ基準、として意を翻さない、なかなか大した人物なのかもしれない。

 1時、海拓舎H社長と打ち合わせ、のはずであったが2時に延ばして欲しいとの連絡。了解して昼飯を食べに出る。豚の生姜焼きが食べたい、と急に欲望にかられ、食べられるところを探して街をうろつく。牛タン料理の舌郎で豚生姜焼き定食をやっていた。狂牛病で客が減ることを恐れて豚料理を急に出し始めたのだろう。こういう腰抜けな店は大嫌いなのだが、胃袋の欲求にはかえられない。味が濃くこってりとついた、正統派生姜焼きだった。帰りにコンビニでモーニングを立ち読み。『風とマンダ ラ』に鶴岡が登場。なにやらやたらカッコよく描かれている。

 2時、時間割で。原稿の手直し部分、書き足し部分等の指摘いくつか指摘あり。その後雑談。この日記のことになり、よくあれだけ書けますね、と感心される。岡田さんがダイエット本を書くらしい、という話をしたらひっくり返ってウケていた。岡田さんのフロン、内藤さんの『別れても〜』と、最近の出版を見ると家族のあり方、夫婦のあり方が音を立てて変化してきたことが感じられる。では、そういうモデルケース的な本を書けば売れるかというと、私はそういう時期だから逆に、徹底して保守的に家族のきずな、親子の情愛を是とした本の方が売れるのではないかと思う。国家という概念が若い世代において変容してきている真っ最中の時代に小林よしのりの本が売れるように。

 一旦帰宅、鶴岡からまた電話、志加吾のこと、キウイのこと。こないだの町山さんのときもそうだったが、本当に騒動が好きな男だ。4時、また時間割、SFマガジンS編集長。相変わらずのチェーンスモーカーぶりである。編集者らしいと言えば言えるのか。こっちの企画をざっとプリントアウトしたものを見せる。ちょっと向こうの考えていたものとは違ったらしく、路線をやや、変更する提案があった。いろいろと意見を交換する。派生でひとつ、こういうのは、と話を持ち出したら、むしろそっちの方に興味をもった様子。いろいろと突っ込んだことを打ち合わせる。まあ、一応両方とも進めていくつもりだが、瓢箪から駒というようなことになったら面白い。

 帰宅して、少し疲れたので休みたかったが、もうちょいと頑張ろうと馬力をかけてクイック・ジャパンのコメントコラムを一本、書き上げて編集Mくん宛にメール。8時、NHK西門前『花菜』でK子とメシ。昨日が重かったので今日は軽くすまそうと三品ほど。小柱のかきあげ、鮭のハラス塩焼き、厚揚げ野沢菜添え。いずれも結構。ここの厚揚げは絹漉し豆腐の揚げたてに野沢菜漬けのみじん切りを載せ、大根おろしをたっぷり添えて食べさせるが、豆腐の味わいが濃厚で、それに野沢菜がマッチして来ると食べずにはいられない。小柱は残して後で蕎麦を食うときにはしらそばにして食べる。大将からサービスで、トウモロコシの、皮付きのまま蒸し上げたやつ。とり立てで甘いこと。秘密の畑(なんと×××××にある)からもいで来たのだそうだ。

 早め(10時)に帰宅。ネット巡回。伊奈浩太郎さんからメール、今月28日からの『ゑびす秘宝館』、パンフ同人誌、まあ開催当初には間に合わなくても、と都築さん自身言っていたのが、平塚くんのガンバリで無事入稿、前日の27日には印刷があがることになったという。仰天した。めでたいことだから別にオドロかなくてもいい のだがオドロく。官能倶楽部パティオ、みかさん、例の“役不足”問題、夫に
「今広辞苑を調べさせたら“しまった間違えた! 頼むから重版してくれ”と泣いていました」
 とのこと。なんだ、確信犯は確信犯でも間違って確信してたのか。校正でチェックされた段階で広辞苑引けばいいのに。

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