裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

金曜日

女心のファザーファッカーさ

 最近の行動はなあ……。朝5時半に起床。二日酔いは腹と胸に残るも、さまで不快ではなし。また寝るのも業腹なので、日記で絶望書店さんへのレスを書いていたら、これがやたら長くなった。7時半、朝食。スープスパゲッティ。天国に一番近い島での石焼き殺人、ワイドショーのレポーターがそのタブーとされている地点にずかずかと入っていく。こいつも殺されないかと思う。およそ宗教的禁忌は文化の根元に関わることで、理非に関わらず、私は“あった方がいい”と思っている。今回被害にあった女性が、もし本当に“よそものが神聖な土地を汚した”という理由で殺されたのだとしたら、それは“殺されるべきだった”のではないか、と思うのである。世の中が実は不合理、不可解なことで成り立っているのだ、という事実を示すためにも。だいたい、今の若い連中は子供のころ水木しげるのマンガを読まないから、タブーの恐ろしさを身に染みてわかってないのである。タイタンボウの話(『足跡の怪』、だったか)を教科書に採用せよ。

 午前中はモノマガジン原稿に費やす。資料検索に1時間、執筆(400字詰め5枚強)に2時間。まず、平均値のスピードか。アスペクトK田くんから電話。印税の振り込みはもう少し早くなるとか。イヤ別に私が苦情を言ったからではなく、会社組織にしたのでその振り込み手続きなどで遅くなると思って回答したら、私のこの日記を読んでアスペクトの社長さんが(毎日読んでるとは恐れ入りました)K田くんに“うちの振り込みはもっと早い”と訂正したらしい。

 昼は冷蔵庫の奥からひからびたような塩ジャケが出てきたので、これと柴漬けを用いてシャケチャーハンを作る。私が中学生くらいのときに持ちネタとした料理。あと大根の味噌汁。徳川夢声『悲観楽観』を読む。十年ぶりくらいの再読。以前読んだときは心霊実験レポートの話が面白かったが(夢声は霊現象を半ば以上信じている立場なのだが、後書きで律儀にこのときの津田という霊媒が後にインチキを暴露された、ということを記している)、今回は小山内薫の映画『路上の霊魂』の封切り当時の思い出話が一番印象に残る。こういうノスタルジア話は、読むこちらに知識が入っていないと歯が立たないのである。

 絶望書店さんから“ご批判ありがとうございました”という丁重なメール。批判をするというつもりではなかったが、結果的に反論というカタチになってしまったのは別にマスコミ業界人でもない氏に対して申し訳ない気がする。氏の理論自体は私は大変に面白いと思う。だが、脳内直接刺激論はマンガ・アニメ論というよりは、むしろ栗本慎一郎のパンサル理論とかの範疇になるように思う。むしろそっち側から論じてみたらどうだろう。

 雨がずっと降り続き、メシは食い、寝不足という三連弾で、体力が極度に落ち、階段を上るのもこたえる具合になったので、横になって一時間半ほど寝る。鯛飯を作る作業をえんえんと繰り返しているような(料理教室か?)夢を見ながらほどけたような眠りに落ちる。目が覚めたらもう4時。だいぶ回復、さっそく講談社Web現代にかかる。

 こちらもペースは大体モノマガと同じ。ネット検索に1時間、執筆に2時間半。ただし枚数はほぼ倍の10枚だから、午後の方が執筆速度は速まっているということになる。資料検索中に、日本のプロレス草創期にいた土佐の花という相撲出身レスラーの記事が出てきた。本名竹村正明、ヘビー級選手として期待を集め、第4回ワールドリーグ戦にも出場(ただし一戦のみ)しているが、力道山とトラブルを起こし日本プロを解雇、引退後“月に行くからパスポートがいる”などと意味不明な発言をしはじめ、包茎手術に失敗したことを恨み執刀医の息子を殺害し、自らも短刀で自害したとある。大正15年(昭和元年)生まれだから第4回ワールドリーグ戦のときにもうすでに37歳、その後のことで40歳近くなってから包茎手術を受けるというのも何かよくわからない。

 鶴岡から電話、もう自分の問題などどこ行ったかという感じで、ウェイン町山の大負債の話(本人があちこちに書きまくっているようだから名を出してもいいだろう)で大はしゃぎ、ハイ状態である。昨日の朝、落ち込んだメールが来ていたので、まあ世の中にはこんな気の毒な状況のやつもいるんだから、それに比べればまだマシだと思って、お前もつらい状況でも気を落とさず頑張れ、というクスリのつもりで話してやったことなのだが、それが少し効きすぎた。なぜ私の弟子にはこう、ロクなのがいないのか。鶴岡と言えば彼のディレクションで撮ったOTCの神田古書街探訪番組で番組の予算で買った本三冊を、アシスタントディレクターのEくんが届けに来てくれた。何を買ったか実は忘れていたのだが、これはテレビ写りのいい本、という意識で選んで、実際自分の趣味で買ったものではないからだろう。

 8時、神山町華暦。さすが金曜でカウンターは満員、奥の座敷席。一周年記念だそうである。前の店から板さんと店名が変わって、もう一年たつのかと驚く。こないだスクラッチカードで水割りとつまみ一品割引が当たったが、またもやK子と一緒に引き当て(いや、削り当て)る。女将、“何回もやってまだ一回も当たらない人もいるのに”と言う。この美人女将はキューティー鈴木似だが、娘はやけに身体ががっちりしていて、アルシオンの秋野美佳(AKINO)に似ている。女子プロレス親子か。おでん、刺身、クジで当たったイイダコと里芋煮付け、マグロほっぺ叩きなど。赤身の刺身がとろけるようで美味。

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