裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

土曜日

ちゃきちゃきのペドっ子

 てやんでぇ、こちとら大人の女なんかに興味はねえんでぇ。朝6時トイレに起き、そのまま読書などして8時朝食。トマトスパゲッティ。腕が何かタルいのはこのところ毎晩、大部の『中国飲食文化』を読んで寝るからか。河出から夢ムック『総特集・澁澤龍彦』宅配で届く。全裸でパイプを手にしている澁澤の写真(石黒健治撮影)がいい。アラブ旅行の写真でもこのパイプは彼の口にある。結局彼が喉頭癌で命を失うことを考えると、スタイリストというのは命がけである。私の原稿、内容はまあまあだが一カ所、文のつながりの矛盾のある部分があった。校正してもこれである。図版はかなり渡したのだが使用を極めて控えている。あまりここで気前よく見せてはもったいないと思っているのだろう。もう、中川彩子本に備えている感じである。

 幻冬舎の猟奇本の資料を少し整理。また宅配便で、いつぞやアンケートに答えた毎日新聞社ムック『書店の大活用術』が届く。よくムックが届く日だ。私の答えているのは『読書人28人に聞く“私と書店”』というところだが、私と同じ書原杉並店をライターの温水ゆかり氏も推していた。

 12時、神保町教育会館愛書会古書展。性風俗関係、芸能関係のいかにもサブカルぽい本ばかり一万円ほど。また左足がシクシクしだしたので、散策は途中放棄、ゲーセンに入って二十分ほど関節を休める。回復後、いもやで天丼。長蛇の列だったが、サクサクすすむ。近くのラーメン屋にも行列が出来ている。W杯メンバー決定の新聞報道に食い入って、目も上げず、天丼食いながらも読んでいた人がいた。ここでは邪道な食い方であろう。御飯は少な盛りにしてもらい、十分かけずに食い終わる。息もつがず丼ものを平らげる快感。私は高校生くらいまで極めて食の細い子で、これが出来なかった。足の病気で親が過保護に育てたせいもあったろう。大学に入って一人暮らしをはじめてから、この快感にとらわれて、一気に胃袋が拡張し、体重が増えた。しかし、これも若いうちの特権のような快感である。あと何年、味わえるのか。と、言うよりこの足の痛みが慢性化したら、古書店めぐりも出来なくなる。今のうちに快楽は味わうだけ味わっておくべきなのか、味わえなくなったとき嘆きの少ないように自制しておくべきなのか。

 帰宅し、買った本に目を通していたらSFマガジンS編集長から電話。図版のキャプションがまだ届いていないとのこと。うっかりしていた。それと、来年の出版の件で打ち合わせしましょうとのことで日にちを会わせる。予定表を見ると来週末にはもう法事で札幌。まったくあっと言う間なので呆れる。電話切ってすぐキャプション、少しヒネった感じで書き上げてメールする。買い置きビデオの類を仕事のため見て、夕方過ぎまで。疲れて寝転がり、柳家三亀松の都々逸のテープなど聞く。

 8時、家を出て参宮橋クリクリ。出ようとしたところにK子が帰ってきたので一緒に行く。鯛のカルパッチョ、豆腐とハマグリのスープ仕立て、豚肉とヒヨコ豆の赤ワイン煮、子羊のロースト。ワインはエスプリ・ド・シュバリエというやつ。ここのワインは高くても3000円代なので安心である。豆腐とハマグリは持ってきた絵里さんが“はい、赤ワインにすっごく似合わないやつ”とと言っていたが、K子はこういうのが好きなので喜んでいた。ハマグリ、豆腐、水菜、海老を薄口の出汁であっさりと、煮るというより温め、出汁にとろみをつけてからませている。クリクリはよく店がまえから中近東料理の店と間違われる(本当は無国籍料理)が、そういうイメージからすればこれこそ全く異質な和風料理、それも薄味を極めた京風だ。ケンさんが最近、そういう味付けを好きになっているのか、次のポークの赤ワイン煮も、いかにもこってりしている外観を裏切る、脂っ気を抜いたヘルシー風味。最初、私が注文するのを見て“皿数取りすぎ!”と怒っていたK子が、“まだ食べたりない”と、手製パスタを後追いで注文した。手製パスタはさすが年期でここの方が『フラット』のよりうまい、とK子言う。もっともフラットのはK子の苦手なウニのパスタだったからかも知れぬ。

 絵里さんと、ホームページの話から朗読の話になる。今度、ロフトをクリクリの休みの月曜日にとって、彼女と朗読の会をやってみようかと思う。もっとも、彼女の朗読は正式なもので、私のトンデモ朗読を聞いたら仰天するかも知れない。後ろの席にいたヒゲ面男と茶髪少女、シラける間が空きそうになるのを男がひっきりなしに話しかけ、さて食事が終わったあたりで、“もう一軒いかない?”“ううん、今日はおウチに帰る”。ナンパ失敗、ご愁傷様。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa