裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

土曜日

ジージョ自縛

 ネズミの一人SM(ああ、またネタが古い)。朝7時半起床。俳句の会に出て、自句を選者に勝手にいじくられて腹をたてる夢を見る。朝食、オニオンスープ。固形のものでない方が酒のあしたにはよかろう、というようなことを大した根拠もなくぼん やり考えてこれにする。

 小野伯父、母から時間差攻撃で電話。母曰く“今日はだいぶマシだわ”。漢方のカルシウム剤(牡蠣)を送ってのませたのだそうである。伯父とは9日に会って打ち合わせ予定。さて、後援会の会長だったM社長(私もずいぶん世話になった)が亡くなり、スポンサーがつかない状態で果たして公演が可能か?

 午前中いっぱいかけて『クルー』原稿。ネタ探しの方が執筆より時間がかかる。あまりいいネタが見つかっても、ここの原稿枚数には収めるのが難しい。ちょうどいい程度のネタを探し出すのが大変なのである。さて、書き終わって12時ちょうど、今日は3時からうち合わせだが、それまでをどうするか。休日なので古書展もやってないし、と思うが、とりあえず出てみよう、と腰を上げ、神保町まで。以前は神保町古書街、休日は何連休であろうと一斉に休んでいたが、最近はやはりそれでは立っていかないと見えて、半分以上が店を開いている。神田明神の礼大祭らしく、ぴーひゃらどんどんと笛太鼓の音。ワンダースリーや東京特価書籍を回り、二万円ほど買い込んだ。昼はいもやが休み、スヰートポーヅが休みなので、すずらん通りでこないだ気になった『ろしあ亭』なるところでランチを食べる。限定品というキエフカツレツが食いたかったが品切になっていた。ウクライナ風壺焼きビーフシチューというの。ザウアークラウト風のサラダ、ボルシチ、ロシアパンとその壺焼きビーフシチューなるもの、それと黄桃のすりおろしみたいなデザート。

 ウクライナ風料理とは『チャイカ』がなくなってから(新宿から高田馬場に移転したらしい)こっちあのおかったるい味を懐かしく求めていたのでうれしい。ボルシチに感心、素直な酸味と肉エキスの濃厚さがあり、これ一品とパンで昼飯足りうる。壺焼きビーフシチューは壺から直接でなく、取り皿にスプーンでとって食べてくれと指示がある。肉と揚げたポテトのみのシンプルなビーフシチューで、コクには欠けるが腹にもたれず昼にはちょうどいい。お客に爺さん連がいて、ここのウクライナ風料理を絶賛。“ぼくはねえ、戦前には仕事で三ヶ月に一度はロシャ(と、発音)に行っててねえ、ここの味は懐かしいよ”とのこと。満鉄で記録映画を撮っていた人らしい。その会話を漏れ聞くと、主人は北海道生まれとのこと。海の幸料理もなかなかうまそうなので、今度誰か誘って晩飯に来てみようと思う。

 出てさらに何軒か散策して、半蔵門線で半蔵門駅、3時。K子と待ち合わせ。電話をかけていたら、“あの、カラサワさんですか”と女性が声をかけてきた。やはりこの駅で待ち合わせていたブブカの女性編集さん。伊奈浩太郎さんが迎えに来てくれて都築響一邸へ。麹町に居をかまえるとは凄いものだが、実は都築氏はここに昔からある老舗の薬局の長男なのだそうな。薬局の長男がB級キッチュ文物評論家になるというのは、何かそういう仕組みたいなものがあるのか。で、ブブカ嬢もなんと薬局の娘だとか。西手新九郎も奇妙な出会いをプロデュースするもの。

 一階に薬局が入っている(薬局は弟さんが継いでいるそうな)ビルの3階のオフィスで都築氏と挨拶。お互い“ご著書読んでます”とエール交換。今月末から恵比寿で都築さんプロデュースのSF秘宝館展が開催され(鳥羽にあったSF秘宝館が閉館したとき、都築さんがそこの展示物を引き取って、横浜ビエンナーレをはじめ各所で展示公開している)、そこに置くパンフ代わりの同人誌を私とK子が作るのである。都築さん、“どなたかやってくれる人がいればと思っていたんですが、まさかカラサワさんをかつぎ出せるとは”と言う。私とK子は閉館間際の1998年にここを別冊宝島の仕事で取材しているのだが、それのことはまったく知らずに、伊奈さんがK子に電話をかけてきたのだった。伊奈さんが最初、園田健一氏に“だれかこういうものについて書いてくれる人、いないか”と相談したら、別に面識があるわけもない園田氏が言下に“そういうネタなら唐沢俊一夫妻だろう”と断言したのだそうである。

 その展示と同人誌の作りなどについて、いろいろ打ち合わせ。雑談に流れて、見世物小屋の話、ラ・スペコラの話、タイのガジェットマンガの話など。都築さん、“僕らは秘宝館や見世物小屋の歴史の終焉に立ち会っている世代なんで、こういうものがかつて日本にあった、ということを後世に伝える義務がある”という。私もまったく同意見。まだ熱海の『不思議な町一丁目』に行ったことがない、というので、是非一度お行きなさい、とK子と二人で熱く勧めておく。脇の部屋に、館林の見世物小屋が閉館して、そこから買ったというテント絵が箱詰めになって送られて置かれていた。
「“毎朝、酒を供えるのを忘れないように”とメモがついていて、ちょっと怖いんですよねえ」
 と都築さん笑う。ワンカップ大関が箱の上に供えてあった。

 伊奈さんたちと連休明けにさっそく打ち合わせすることにして帰宅。ちなみに、鳥羽SF秘宝館展詳細は今のところ以下の如し(正式決定したらイベント欄に)。
『都築響一の ゑびす秘宝館』
トランスギャラリー 渋谷区恵比寿南2−12−19 トランスビル1F、B1F2002年 5月28日〜7月28日(月曜休館)
www.trans-g.com

 さすがにクタビレ。横になって一時間ほど眠るが、疲れはとれず、嫌な眠りにしかならなかった。メールなど数件したあと、7時に家を出て、東武デパート地下で買い物し、タクシーで下北沢虎の子まで。例によって上のレトロ下北沢で買い物。ピカード艦長のお面(本当に夜店で売ってるような安っぽいお面)を買う。ここのバイトのおねいさんは私の萌えキャラなのだが、今日は脇に男がいて親しげに彼女と話していたので嫉妬する(笑)。いつもの指定席(カウンターの一番奥)でK子と二人で飲んでいたら、“ご無沙汰してます”と、ライターのBさん(Mさん)が隣に来たので驚く。そうそう、彼女はこの店から自転車で五分のところに住んでいたのだった、と思い出す。脇にさっきまで仕事を手伝ってもらっていたという男性のマンガ家さんが一緒。いろいろと話して、酒も回る。K子はBさんに、今度二丁目の余命三年というマスターがやっている店に行きましょう、と誘われて喜んでいた。帰り際にそのマンガ家さんの名前を聞いたらなんとこれが沙村広明氏。これには驚いた。そんな大物がいきなり隣に座っているとは思わなかった。失礼を詫びて、また少し話す。共通担当者のIくんのことなど。沙村さん、私が以前に『コミックビンゴ』で書いた『無限の住人』の評も読んでいたとか。“あれ読んで、ああ、やっぱりこの作品は失敗作だったと思った”とのこと。これに笑いながらも、ちと恐縮。Bさんはと学会の例会に顔を出してみたいとのことなので、誘っておく。

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