2日
木曜日
テンタクルズ馬肥ゆる秋
元ネタが古く、季節はずれの駄洒落の上に苦しい。朝7時半までぐっすり。途中何回か目は覚ましたがいや寝るのだ、とまた寝る。明治屋のタラコスパゲッティソースをサラダパスタにからめたもので朝食。うーむ、タラコスパゲッティならそこらのコンビニで売っているソースの方がうまい、と思うのは和風でないからである。タラコと思わずにボッタルガ(カラスミ)の一種と思って、次回は少しシソを刻み入れると か、調理に工夫しよう。
植木不等式さんのサイト、やっとギリシア文字駄洒落がオメガまで行く。ご苦労さまでした、という感じ。しかし、あなたは来ないのに降るのは雪じゃなかったかと、ふと思うが。氷川竜介さんからはメール。昨日の日記で思わず吹いたそうな。“私以外の全員が浮いているってことは、結果的に私の方が雑誌から浮いているってことでは?”とのご心配はもっともだが、氷川さんの評は常にオタクの道標ですから。
昼はぶらりと外に出て、何を食べようかとあてもなくセンター街をぶらつくが、結局また新楽飯店でこないだと同じ貝柱と野菜煮付定食。平日とはいえ連休中日で、この店とも思えないほどガラガラ。みのもんたのテレビなど見て、ふーん、ためになるなあ、などと感心しつつメシを食う一般社会人的午後の一刻を送ってみる。野菜を手間を惜しまずにみな紙のように薄く切っているのがこの料理のコツみたいなものだろう。ライスが柔らかくてうまいのも、こういう店のランチとしては驚異的。スープはもう一工夫あってしかるべき。
仕事関係の電話ひっきりなし。OTC、二見書房、その他あちこち。メールは海拓舎、道書房などなど。二見のYさんには同人誌原稿用資料のことをついでに確認できたのでラッキーだった。海拓舎コラムの章分けをやってメール、すぐ出て3時半、渋谷駅前でK子と待ち合わせ。山手線、総武線乗り継いで水道橋。東京ドームでJCMのMくん、セブンシーズのM川くんたちと新日創立30周年記念東京ドーム決戦を観戦。入り口のところで河崎実カントクに会った。他にも探せば友人知人はいろいろ来ていたことだろう。
ドームでプロレス見るのも久しぶりである。と、いうか、北尾のプロレスデビューのとき以来だから、もうはるか昔に属する事項ではないか? さらに昔、大学時代、ことに仙台にいた自分は仙台市体育館や宮城県スポーツセンター、気仙沼あたりまでしょっちゅう足を運んで、めったにテレビ中継もない田舎プロレスの醍醐味を味わっていたものだった。シンのサーベルのうなりやブロディの鎖のジャラジャラをすぐ耳元で聞けた(ローラン・ボックの、イヤミたらしい技もほとんどリングサイドで見られた)のは仙台時代の数少ないいい思い出のひとつである。やはりプロレスのプロレスらしい味は薄暗い地方会場の照明の下にあり、ドームはベイダー×ハンセンのような巨弾戦であってもアリーナからは豆粒みたいに見えて(これは北尾より前か後か、それとも同じときか?)、あまりプロレス観戦には向かないように思う。まあ、その欠点をカバーするために巨大な入場通路をしつらえ、花火をあげたりレーザー照射したりしていたが、試合する選手がふくれあがれない以上、どうにもならない。
4時に入ったのだが、すでに会場では30周年記念セレモニーが開始されていた。特別ゲストでアニマル浜口、ドン荒川、永源遙、寺西勇などが出てくると、もうウルウル状態である。藤原喜明を気仙沼で見たときの、我が身の屈託と、しかし試合内容に興奮したあの頃が甦って胸がキュンとなる。あのときの試合はバッドニューズ・アレン相手だったか。客席から飛んだ“いよっ、岩手県のカール・ゴッチ!(気仙沼なまりだからエワテケンノカールゴッツになる)”という声も昨日のことのように覚えている。そして、若松市政がストロング・マシーンをひきつれて現れたところで、モウいけません。完全なオトナ帝国20世紀博覧会状態。これが例えば野球とかボクシングだったら、こんなノスタルジーにはひたれまい。プロレスという、あまりにうさんくさい、それにハマるという行為もどこか人様に誇れぬうしろめたさのある、B級のものだから、彼らがまだ元気でいる、という一事のみで、こうも感動してしまうのである。パラオの大統領が挨拶するとかいう、なんだかわからぬ政治がらみのダンドリもかつてと変わらぬプロレスの味だ。賠償美津子が猪木とツーショットを撮ったというのも、記念式なるかなである。しかし、それはいいがセレモニー進行の手順は最悪。ルー・テーズ追悼を忘れかけたのは何だね。あと、タイガー・ジェット・シンが“お約束”で乱入してきたが、盛り上がりにかなり欠けた演出だったのは寂しい気がした。チャイナ(ジョニー・ローラー)にボコられて退場というのは、あの狂虎がなあ、という感じ。
試合は以下の通り。中止の九戦目と時間切れドローのラスト以外は前者の勝ち。反則や両者リングアウトがなかったのには感心。
・第一戦 金村キンタロー×関本大介
・第二戦 柴田勝頼×井上亘
・第三戦 タイガーマスク(三代目&四代目)×エル・サムライ、ブラックタイガー
・第四戦 中西百重、伊藤薫×堀田裕美子、豊田真奈美
・第五戦 田中稔、獣神サンダーライガー×邪道、外道
・第六戦 小川直也、橋本真也×S・ノートン、天山広吉
・第七戦 ドン・フライ×安田忠夫(アクシデントで第八戦と入れ替え)
・第八戦 バス・ルッテン×中西学
・第九戦 ジャイアント・シルバ×ジャイアント・シン(負傷で中止)
・第十戦 スタイナーブラザーズ×棚橋弘至、佐々木健介
・第十一戦永田裕志×高山善廣
・第十二戦蝶野正洋×三沢光晴
個人的に面白く見たのは1、4、8、11戦。7戦目のフライ・安田戦は、ロスの新日道場で遅刻してきた安田にフライがキれて殴りかかり、因縁が生まれて日本で決戦、という筋書きだったのだが、安田が登場、花道をリングに向かう途中で駆け寄ったフライが後から安田を殴打、安田はそのままノビてしまって試合が出来る状態じゃなくなり、急遽くりあげで8戦目のルッテン・中西戦が行われた。その試合の後、フライとルッテンが安田出てこい、と挑発して、怒った安田が再登場、試合が開始されたが、ものの数分でフライの足固めに安田はギブアップ。あまりの情けなさに観客から控え室に抱えられて戻る安田にものが投げられたが、いや、プロレスの客もおとなしくなった。二十年前なら満場大ブーイングだったと思う(北尾のときなんか、勝っても凄かった)。M田くんは凄まじいマニアぶりを発揮、いちいちの技と選手データ(誰と結婚したとか、誰と因縁があるとか)を解説、K子“コイツ何?”と呆れていた。
見直したのは第四戦の全女の試合、とにかくプロレスはエンタテインメント、という原則を究極にまで押し進めて見せるその根性はショボい試合をしていた今日の若手にツメのアカでも煎じて飲ませたい。今井アナの声はやはり田中秀和よりずっといいぞ。第十戦目はチャイナが巨乳姿でレフリーという趣向でバラエティになってしまった感あり、演出を間違えたんではないか? 試合後、チャイナが何かマイクアピールしたら、全女のレスラーたちがリングに上がってきて、にらみあった。どういうやりとりがあったかは会場では聞き取れなかったが、Mくんが“新日の放送時間ワクに全女の選手が映るとは!”と、もう興奮状態で鼻息を荒くし、K子に“そんなことで感動してるんじゃない!”と叱られていた。そして第十一戦の高山善廣、以前から“アレはいい”と人に聞いていたので期待していたのだが、試合はさすがメインイベントらしい迫力、前の席にいた小学生が体を震わせて興奮していて、ヒキツケを起こさないかと心配になった。高山、筋肉美ばかり誇る最近の軟派レスラーと違いいかにもプロレス選手らしい体格で、永田の切り返しに敗れこそすれ見事な破壊力と面構えで大満足。かつての超獣ブロディを彷彿とさせる足技もいい。試合運びがちとタルいという、悪いところまでブロディ似なのが困るが。最後の蝶野、三沢はお互い故障を抱えた同士、動きにどうしてもじれったさが残るが、次々に技をかけあい、卍固め比べまでやってくれれば、これはセレモニーとしちゃ及第点でしょう。
満足々々で会場を出たが、4時始まりで終了が9時というのはいかに何でもクタビレた。総勢7人でタクシー分乗して東新宿、幸永。プロレス談義しながら肉食って、ホッピー飲んで。豚足が疲れた体に染みるうまさだった。K子は“最近のレスラーは個性がない、第一名前が平凡である!”と怒っていたが、M川くん(彼の名もちとユニーク)の会社のスタッフが出した名刺の名が“怒木(いかるぎ)”で、これはなかなかない名。その他いろいろ話がはずむ。M田くん、“今日はあれだけゲスト呼んだのだったら、ミスター高橋も呼ばなきゃダメですね”。1時半過ぎに帰宅。休日らしい(休日じゃないけど)一日であった。