裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

29日

水曜日

去年宇宙の旅

 2002年限定題名。朝6時にやはり目が覚めてしまい、起き出して日記つけ。7時半朝食。マカロニサラダサンド。メールであちこちに連絡。ウイルス、いまだ猛威をふるっている。海拓舎から電話、廣済堂からFAX。いずれも急いで仕事しなくてはいけないところ。FAXなどでの連絡も取るが、なかなかつながらずイラついて仕事の能率を下げる。

 モノマガジンNくんが教えてくれた情報。例のテロ事件の被害者救済チャリティーオークションに、ジャネット・リーが“サイコのシャワーシーンで使われたシャワーカーテン”を出したとか。映画マニアの感涙思うべし。どれくらいの値がつくだろうか。しかし、ただの安物のシャワーカーテンなのだが。オタクを論じるときに忘れてならないこのブツ信仰(フェティシズム)。これを理解できないとオタク、いや、人間は語れまい。

 昼は稲荷寿司4ケにサツマイモの味噌汁。『評伝・SFの先駆者 今日泊亜蘭』をパラパラと拾い読む。『光の塔』を早川の銀背で読んだ四半世紀前、そのひねくれたスタイリッシュぶりに驚嘆し、これこそSF、いや科学小説の最左翼、と舌を巻いて文体模写などをやったものだ。その興味で読み始めたが、改めて認識したのは、スタイリストの極致を行く生き方というのはまた、凄まじく自分勝手で痩せ我慢の必要な生き方だということである。私には野田昌宏が今日泊に徹底して入れ込むその気持ちが非常によく理解できるし、また、かつてあれだけ親密であった星新一や矢野徹が結局、彼のもとを離れていった心理もわがことのようにわかる気がする。

 河出書房新社『文藝』編集部から電話。今度Dちゃんの特集を組むにつき、対談をお願いしたいという依頼。日程をちょっとつめて、3日の夕方ということにする。河出と言えば例の中川彩子本も本決まりになったそうで、担当Aくんから高揚したメールが先日、来た。6時買い物に出て、晩の材料などちょこちょKP買い込み、帰宅。 雑仕事いくつか。

 8時半、夕食。鍋はこのあいだの肉鍋の残りを冷凍しておいたやつをもどして。鯛が豊漁で安いので鯛飯。それと冷蔵庫に残っていた大根を貝の出汁で柔らかく煮たもの。LDで『フランキーの宇宙人』。1957年公開で、冒頭の空飛ぶ円盤の乱舞はじめ、当時の宇宙ブーム、原水爆ブームへの風刺は前年公開の超大作『宇宙人東京にあらわる』よりよく出ている。熱気だけは後の黄金時代以上だった当時のSFブームはこの日記の四月三十日の項に書いたが、まさにそのさなかの公開で、なかんずく、前年の『禁断の惑星』、前々年の『宇宙水爆戦』などのSF映画から宇宙船内部のデザインを(逆三角形のテレビ画面など)かなりパクっている。パクりではあるが、当時これだけパクれれば大したセンスで、逆に今見ると、ここは『未知との遭遇』、ここは『スター・トレック』と、逆にパクられたんじゃないのかというようなシーンが続出する。ギャグ担当の永六輔・神吉拓郎、原案のキノトール、監督で出演もしている菅井一郎たち才人の面目躍如。躍如しすぎて後半はストーリィもギャグもとっちらかってしまった。安部徹がコミカルな二枚目役というのも凄いし、ヒロインの高友子(後に悪名高い大蔵映画の大蔵貢と結婚した)の可愛さも注目度高し。冒頭の宇宙ロケット『ピカ一号』(すごい名前だね)の実験が失敗したとたん、“予算不足だ!”と博士が叫ぶシーンが、現在見て一番笑えるギャグだろう。嗚呼、45年たってわが国の宇宙開発は何も進歩してない。なお、ナレーターはこのあいだ亡くなった高橋圭三が務め、名調子を聞かせてくれている。彼の名がノンクレジットになっている、としている資料もあるが、ちゃんと“解説”名義でスタッフのところに出ている。そう言えば、ナレーターを出演者に入れずスタッフに入れる習慣が、ついこの間まで日本映画にはあったな。

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