裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

土曜日

お茶漬けの味

 朝、シーザースサラダとコーヒー。F書房の短編小説に取り掛かるべく、メモ類をいろいろ引っ掻き回す。来週でイッキに片付けるつもり。

 なをきと前後二回に分けて長電話。資料の貸し借りの件ちょっと、あとは膨大な人のウワサばなし。十数年マンガ家やっててある程度売れているのに、こないだ昔の友人から“こないだ初めてお前のマンガ見たけど、ホントにマンガ家やってんだねえ”と電話が来た、とのこと。書店に行かないのかこいつらは、とフンガイしていた。

 私も一年ほど前、渋谷でイッセー尾形の一行に偶然会って、“いま何してんの”と言われたことがある。同じ出版社の文庫に並んで著作が入っているではないか、お前のより売れてるぞ、と怒鳴ってやろうかと思ったものである。

 なをき曰く“新聞とかテレビとか、向こうから家に届くメディアに顔が出ないと知名度などというのはまず、広がらない。本なんてのは本屋に行かないとない、というだけでアウトなんだよね。ましてインターネットのホームページなんかオタクがのぞくだけで、まったく自分の世間的認知には役に立たねえもんだよ、ありゃあ”。

 昼は実家から送られた塩鮭とツボ漬けたくあんで御茶漬け。小松左京の『お茶漬けの味』のような作品を今のSFに期待することはできないのかな。日本SFの衰退はブームにのって小説世界をグローバルに広げ過ぎたことで、日本人作家にしか描けない日本を描くことを怠ってきたため、ということも理由のひとつだろう。日本を描けば私小説になってしまう、という実は誤った認識も原因のひとつか。ラテンアメリカ諸国の小説の、あの濃厚強烈なラテンの香りが、逆に国際的作品としてかの国の文学を世界に認知させていることを思え。

 2時過ぎ、八重洲まで出てブックセンターで資料あさり。ここは最上階の文庫売り場へはエスカレーターがなく、階段のみなのだが、そこに『足を鍛えましょう』というハリガミがしてあった。余計なお世話だ。

 本棚を見ていたら、と学会員のA氏に会う。喫茶店で明日の例会のネタのことなど話す。彼はメニューに“ガンに効果がある”クマザサアイス、というのがあるのを見て早速頼んでいた。と学会員てのはとにかく、珍しいものがあると体験してみる性質を有する。別れて、八重洲地下街の古書店回り、大阪ネタの浪曲のサワリ集など買って帰る。

 帰って明日のネタ仕込み。今回は新ネタをもう原稿などで使ってしまったので、古いやつをリサイクルして発表することにする。K子に着物着付け教室から資格認定試験の合格通知。本人はこれで成人式のラブホテルで着付けのアルバイトができる、と喜んでいる。

 9時、新宿新田裏の寿司屋。お酉さまで新しい熊手がかかっている。ご祝儀ワリバシにはさんで飾る。白身、甘エビ、アナゴ、コハダなど。イカの軟骨の周囲の部分の肉をおつまみにしてくれるが、コリコリプツプツした歯触りと何とも言えない甘味があって結構。ビール日本酒焼酎チャンポンでかなりヘロヘロになった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa