裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

土曜日

訳だ来為度

 仕事、とっくに終わっているはずのものがいくつも残っている。でも気分が昨日までとは比べものにならないほどゆったりなのは、先行きが見えているからだろう。

 K子が着付教室の試験に出かけるというので6時半に起こされる。雑用すませ、11時にメシ食いに外へ。東急ハンズで新しいフライパン、魚焼き網、ミルクパンなど買う。大きめのパエリア鍋や、おしゃれな揚げ物用セットなどに食指が動くが、これ以上台所用具を増やしても置く場所がない。

 センター街の桂花ラーメンでターローメン。それから久しぶりにHMV、タワーレコード回って新譜チェック。雑誌売り場でコアマガジンの『トラッシュメン』。まだこういう悪趣味系の需要はあるんだねえ。ロリを禁じられた変態系の落ち着き先はコレかいな?

 大盛堂書店に回って、資料用の本を買う。あと、彩流社のマーク・トゥエイン・コレクションを全巻発作買い。大荷物になり、ヒーヒー言いながら帰宅。生きてるミイラ事件(ハムナプトラか)の自己啓発セミナー、ライフスペースのHPをのぞく。文章が“これに突いては”とか“引き起こ行た”とか“成る来為ども”とか“死亡orMummy駄と言う事成ので”とか“確認して欲れない可”とか、完全に翔ンでいて、大笑い。“訳だ来為度”など、なんと読むの可。
 ミイラが生きているという理屈も、
「TV報道では“ミイラ化して居る”と言って居たが、真実なら体温は0度で無ければ決してミイラ(mummy)化したとは医学上言え無いので、しかし、晨一さんは11度ほど有る筈来為等」
 など、すごいすごい。

 などとヨロコんでいたら、SFマガジンから早く原稿よこせと催促。あれ、土曜日も出社しているのか。資料をまだ読み込んで無い来為度、何とか月曜まで待って欲れない可、などと思ったが、そうもいかない(イラストの都合)ので、今回集めた資料は来月回しで、アリモノで書く。もともとこの仕事は書いてて楽しいので苦にならない。当初はさっと触れるだけの予定だったオスカー・ワイルド裁判についてちょっと長めに引用し、5時半までに11枚書き了る。

・原稿を書くという行為はつらいし苦しいし生活の手段として効率も悪いが、それを嫌にならずに務めるためには、“自分が作家である”という演技が必要である。ディズニーランドのキャラクターたち(を演じている社員)は、アクシデントのときでさえ、自分がミッキーやドナルドとして行動することを求められるというが、人生というゲームの中で、その職業を演ずるというルールを自分に課せば、〆切地獄もアイデアづまりも、そのゲームをリアルに楽しむためのシナリオとしてクリアできるように思う。編集者も、私の知る限り優れた編集者はほぼ全て、この“優れた編集者”という役割を演技しているし、回りの板前運転手大工大学教授俳優医者落語家、みな、それぞれの職業を演じて一流のものが一流になっている。“自分がここにいてもいいのか”という問いかけは、“自分はこの場にふさわしい役割を演じられるか”に置き換えられるのだ。演技もしようとせずに“いづらい”“自分をわかってくれない”などとグチる者のいかに多いことか。本当の自分は演技の果てに見えてくるのだよ。

 夜食8時半。タコとカブの煮物、自家製土鍋焼きビビンバ。タコは大根と煮ると柔らかくなるので、カブでもなるかと思ったら固くなってしまった。ボガートの映画が見たくなったので、久しぶりに『マルタの鷹』。小鷹光信のライナーによれば、この映画、あちこちにホモセクシュアルの隠喩があるとのことで、その視点で見るとなるほど、クローゼット映画としてもなかなか。黒くて硬くて重い鷹の像は・・・・・・。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa