裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

月曜日

地獄極楽エンマさま恐い

 明け方、サザエさんの絵で、ただし4コマでなくサイレントで、シュールなストーリーがえんえん連続するマンガの夢を見る。サザエさんの絵が出る夢はこのところ連続して見ている。子供のころの意識下への大影響が、こないだ読み返したことで再発したらしい。7時半起床、朝食、明太子マヨネーズ塗ったトースト。10時、E社最後のゲラチェック渡す。発売はちょっと遅れて15日くらいになる。ともあれ、完成めでたし。それ渡して、午前中は好調だったが、午後になってちょっと調子崩れ、肩のあたりがギワギワとこわばってくる。

 仕事中断し、新宿まで出る。夏ごろから改装してビル建設ちゅうの王ろじ(トンカツ屋)、もう再開しているだろうと思ったら12月半ばだとのこと。仕方ないので駅ビルで天ぷら割子そばというのを食う。ソバは毎日でも飽きないほど好きなのだが、隣の席に座った茶髪の若い男が連れの女に、“オレ、ソバってののどこがうまいのかわかんないんだ”と言っていた。それを聞くと、なるほど、そんなものかも知れない、と、口中のソバが味気なくなってくる。

 紀伊国屋の科学書売り場で資料本、趣味本あわせて数万円ほど買う。リチャード・ゴードンの『世界病気博物史』が平積みになってフリップが立っているので、へえ、こんな本に、と思って見たら、先日朝日に書いた私の記事を切り抜いてフリップにしていたのだった。たった3行程度触れただけのものだったんだが。

 帰って少し昼寝する。手がしびれる感じである。心臓かな? と心配になる。こないだ実家でもらった救心のサンプルがあったので飲む。気のせいか、やや回復したので、起き出して日経ヘルスの原稿やり出す。書いててまた肩がどんどん凝ってくる。

 6時、中断して出宅。K子と待合せ、銀座線で上野まで。上野スタームービーで石井輝男『地獄』見る。本当は今週末にでも見るつもりだったのだが、昨日野方で
「ヤバいですよあの映画、オウムの弁護士まで地獄に落としているんです、訴えられたら即上映中止ですよ」
 とか聞いて、そら早くいかねば、と思ったもの。スタームービーは例のホモ映画館世界傑作劇場の下にあるとこ(旧名スター座)だが、改装されてえらいシャレた映画館になっている。大学生時代、ここに入ったら最後列の席が、公園から持ってきたようなベンチを針金で床にくくりつけてあっただけだったのに驚いたもの。

 閻魔大王が女性で、しかも演じているのが映画史に残る“新東宝裾まくり事件”の前田通子、というのに仰天。年とったが美しさはかわらず。滑舌の悪さもかわらず。彼女の起用は大成功だが、そのセリフの中に“人間は死ねば天国か地獄へ行く”というのがあったのはいただけません。閻魔大王なら“死ねば地獄か極楽へ”と言わなくてはいけない。丹波哲郎、一言のセリフだが、その音吐のすばらしさはやはり他を圧している。鬼の腕を切るシーンで、切った腕はやはり水平に飛ばしてほしかった。明日死能主演の『忘八武士道』では、なぜか切られた相手の腕が水平に飛ぶのだ。エキストラで出た開田あやさんもちゃんと確認できて、ちゃんと脱いでる。
 K子は泥地獄のシーンにちょこっと出ていた林マスミ夫婦のソックリなことに驚いたと言っていた。実際に夫婦だそうな。

 見終わって、上野大昌園で焼肉食って帰る。

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