裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

鬼平年賀状

「郵便遅配改方、長谷川平蔵である!」

※『ザ・スズナリ』で観劇 文藝春秋社原稿ゲラチェック ルナティックサーキット打ち合わせ

明け方目を覚ますが、そのまま布団の中でぐずぐず。
とにかく眠い。ムチャクチャ眠い。
こういうときに限って玄関チャイム鳴る。
正月用お色直しで、マンションのドア部分のペンキ塗り替え。
30分ほどそれで朝食をのばしてもらい、さらに寝る。

10時朝食、バナナリンゴジュースとトマトスープ。
新聞に翁家さん馬死去の報。まだ60代。師匠であり
養父であった9代目文治の世話を最後まで見て、師匠の
住んでいた長屋に住み、江戸の噺家の匂いを守っていた人だった。

自室に戻るが、塗り終ってしばらくはドアを半開きにしておくように、
という指示なので、廊下が凍るように寒い。
手首から肘にかけての部分が両腕とも痛い。
酔うとその翌朝がこうなる場合が多い。
最初は、酔ってよろけるから無意識のうちにどこかに手を打ち付けて
いるか、体を支えるのに突っ張っているので、その筋肉痛だろうと
思っていたが、やはり血行などの問題だろうか。

メール、いろいろ。
年末の状況がさまざまに変化する。
ヒマな方に変化すればいいのだが忙しい方にしか変化しない。
逆エントロピーの法則。

弁当使い、下北沢まで。
車中読書、川端康成。
1時半、ザ・スズナリにて、別府明華ちゃん客演の劇団桃唄309
公演『おやすみおじさん3・草の子、見えずの雪ふる』を見る。
スズナリは以前来てからもう十年以上たつか。
階段が相変わらず狭くて危ない。
客席についてしばらくしていたら、S崎くんが来た。
彼も明華ちゃんに声をかけられたらしい。
いつものようにさまざまな劇団のチラシ、折り込みされているが
川上史津子ちゃん出演のProject Nyx 公演『星の王子さま』(寺山
修司・作)のフライヤーがあった。

このあいだ乾ちゃんも言っていたが、明華ちゃんのパワフルさと
いうか、出演する舞台の多さにはびっくり。
ひとつの公演が終るともう、すぐ次の舞台の台本を読んでいる。
若いということもあるだろうが、吸収が楽しくて仕方ないのだろう。

で、芝居。いや、めまぐるしいというか、入り組んでいるというか、
母親と二人暮らしの読書好きの中学生友貴は、このところ毎晩、夢の
中で、山登り途中の男の人に出会う。ある日、彼は懸賞で当たった
旅行で母と福島の山奥の旅館に一泊旅行に行くが、その旅館には、
あやしげな人々が次々に投宿する。なにやら、近くで発掘された
遺跡の周囲に事件が頻発し、それをネタにしようという作家や、
祓い屋のような者もいる。もっと不思議なのは、そこに確かにいるのに
特定の人にしか見えていない者たちもいる。しかも、その中の一人の
女性に、友貴は愛を告白されたりする。母とはぐれて、山の中を
歩いているうち、友貴は奇妙な小屋に住む、図書館の司書と名乗る
男に出会う。その小屋には『赤紗文庫』と看板があり、司書の
説明では、そこに収められている本には、これまで起ったことや
これから起ること全てが記されている、という。
友貴は、そこの本を見せてもらううち、夢に出てくる知らない男が、
実は自分の父親らしい、ということを知る。
そして、友貴に愛を告白した女の持つ“力”のせいで、大雨が降って
土石流が起り、母や旅館の泊まり客が大勢死ぬことになっていることも。
彼はその本を書き換えて、未来を変えようとするが……。

という話。これでもだいぶ端折ってある。過去と未来、しかもあった
過去と、なかったはずの過去、あるべき未来と改変された未来などが
時系列をジャンプして次々に現れ、バックは森の木々や旅館の壁などが、
登場人物たちによって移動され、瞬時にして場所が変化する。
最初は話のあまりの復奏ぶりに観ていて頭がクラクラしたが、
話が進むにつれ、パズルのピースが次第にぴしっと合ってくるような
快感が感じられてきた。後で聞いたら、場面展開が1時間50分の
芝居で70いくつ、あるそうだ。目が回りそうである。
こないだ観たカラーチャイルドの芝居もかなり目まぐるしかったが、
それを上回る。
「いろんな芝居があるんだなあ」
と、ひたすらに感心して観ていた。
それにしても、“赤紗文庫”とは。
いったい何人の観客がこの元ネタをわかったか?

終って明華ちゃんに挨拶、S崎くんと近くの喫茶店で
少し話す。それから、一旦仕事場に行き、文藝春秋社原稿ゲラ。
担当Kさんからは繰り返しお褒めのメールいただき、いやそんな
大した原稿ではないので、とちと恐縮。

背中に鉄板を入れたみたいになる。
あわててタントンに連絡、6時からなら、というので
ハッシーには7時の会合、ちょっと遅れる、とメールし、
飛び込んで45分、揉み込んでもらう。
いや、楽になった。鍼とかカイロプラティックとかの類いは
『懐疑論者の事典』では出来の悪いプラセボ程度の扱いだが、
プラセボでも何でも、治れば結構。急場には文句なし。

終ってまた下北沢にとって返す。
喫茶店『ブーフーウー』でルナティック・サーキット打ち合わせ。
集うものハッシー、T田くん、しら〜さん、S崎くん、本多慎一郎さん。
大きなことから細かいことまで、いろいろと打ち合わせ。
ふとした冗談が“それ、面白いじゃない”と、具体案になることもあり。
打ち合わせというのは面白い。

その後、店の向かいの『あんご』で打ち上げ。
メヒカリの唐揚げと、ミョウガとジャコのおかか和えが
大変うまかった。
T田くんが飲んでる焼酎、しら〜さんが飲んでる日本酒が
旨そうだったが、なにしろ実はつい1時間前まで二日酔いだったので
ビールで我慢する。ハッシーに最初“元気ないじゃないですか”と
言われたが、次第にテンション上がってくる。

二軒目はトムズ製麺。つまみでとった数品がどれもうまかったので、
つい紹興酒をクイクイと行き、大変なイキオイになる。
元気相当に回復。しゃべるは、笑うは。
〆はみんなが辛い辛いマーボラーメンに挑戦しているのを尻目に、
スープチャーハンにする。今この店のマーボを食べると明日は
トイレで悲鳴をあげることになる。
スープチャーハン(写真)、カニ風味スープで非常に旨し。

ふと気がつくともう1時過ぎ、明日は早いのに、と呆れる。
よほど楽しかったか。しら〜、ハッシーとタクシー相乗りし、
帰宅。交差点のところで降りて家までのホンの十数メートルのところで
急激な便意に襲われ、冷や汗をかいて家にたどりつき、
大慌てでトイレに駆け込む。
幸い、一過性のものだったらしく、後は安眠。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa