裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

水曜日

トーマス・マンはブッデンブロークな稼業ときたもんだ

魔の山いってもヴェニスで死んでも ノーベル文学賞ガチャリととれば 何とか恰好がつくもんさ

※幻冬舎原稿(続き) 朝日新聞書評委員会

朝7時半起床。頭蓋のてっぺんあたりに、ひきつるような感覚の痛み。それほど鋭いものではないが。入浴し、日記つけ、9時朝食。オレンジ、イチゴ、アスパラガススープ。

英国女性殺害事件、被害者の女性が色っぽくて(そういう写真しかなかったんだろうが)しかも若い男と課外授業を約束していたとなれば、こりゃ事件が起こらない方がおかしい、と“期待”してしまう心理が働く。

『課外授業』と言えばキャロル・ベイカーの映画が有名だが、ロック・ハドソン主演の同名映画(監督は『バーバレラ』のロジェ・ヴァディム)もあり、これがエロチック・ミステリーで、やたら生徒にモテる女子高の教師(ロック・ハドソン)が実は殺人鬼、というこの事件とは逆のパターンの映画だった。天下の二枚目、ロック・ハドソンを連続殺人犯にしてしまう(ネタバレではなく、コロンボみたいな倒叙もの。しかも、それを追う刑事がコロンボならぬコジャックのテリー・サバラス、署長マクミランのハドソンは女子高の教師で、その同僚で色気過剰の女教師が女刑事ペパーのアンジー・ディキンソン)のに驚いたものだ。安っぽい作品だったが案外面白かった。DVD出ないかな。

ずっと幻冬舎原稿。昼は母の室で鶏キャベツそば。スープが絶妙。ほぼ全部飲み干したら汗が吹き出る。原稿、結局7000wを4時に送る。それから家を出て、事務所。『ピンポン!』出演、今後も来ると思われるので、真っ黒づくめでなく、昼の番組出演用の明色系スーツを買っていいか、というお伺いをオノ通しでK子に立てていたのだが、無事よろしいぞよとのお許しが出たよう。それにしても、大きなプロジェクトで、いまだ向うから連絡ナシの件いくつか。イラつくことである。

6時より、朝日新聞本社にて書評委員会第一回打ち合せ。お車代が出るはずなので、ぜいたくにタクシーで築地まで。本館の受付で名前行って入館許可証にサインしていたら、ちょうど担当のKさんがそこに来た。受付は新館だそうである。

6時になると、受付も通路ももう閉まっていたりするところ多く、迷路みたいにたどって打ち合せ会場へ。『風雲たけし城』並に社のツクリがややこしいのは、過激団体などの殴り込みを迷わせるため、と冗談めかしてK氏言う。
「玉音盤奪取の軍人たちが皇宮御所の迷路みたいな構造に迷って見つけ出すことが出来なかった故事にならったんですかね」
とか感想述べる。

書評本選定システムは公表していいものかどうかわからないので書かないが、ずいぶん贅沢に本を選べるものだなあ、と感心。さすが天下の朝日新聞。貧乏な書評委員にとっては本代をかなり節約できるだろう。書評委員で知り合いは巽孝之氏くらいか。金沢での地震遭遇を心配してくれた。

で、候補本の決定の打ち合せの前に軽く弁当が出る。高級そうな弁当だが、この時間(6時台)にあまり腹をふくらしたくないので半分くらい食べて残す。お吸い物の具(浅蜊剥き身を射込んだ練り物)がおいしかった。K氏によればこの弁当が運搬の際の振動で中身がグッチャグチャになる“ピラフ事件”なるものがあったとか。ご丁寧に、編集長からの挨拶の中に
「嫌いなもの、食べられないものなどがあった場合はお早めにお教えください」
というセリフもあった。

そのまま、打ち合せ突入。北田暁大氏の隣の席だった。100冊以上の本を、18人の書評委員の“この本書評したい”という希望にそって、ダブったものはお互い譲りあったりするので、かなり時間がかかる。巽氏と一冊、“気鋭の現代思想家”の著書をお互い希望で出していてカブッたが、譲られる。
「私が評するとかなり辛口になると思いますが」
「いやいや、それはご自由に」

その後、私の他数名の新委員の写真撮影(入館証作りのため)あり。大阪市立大学の橋爪紳也教授と雑談。かなりの特オタで、ウルトラマンメビウスの話で大盛り上がり。大阪万博の専門家でもあり、これはいい人と知り合った。社内のレストラン『アラスカ』(古川ロッパ日記に登場するアレ)で簡単な懇親会。もっとももう店は閉まったあとで、飲み物とおつまみだけ。

斎藤美奈子さんが選んだ、葬儀関係の本についてみんな話が盛り上がる。山下範久さんは私の日記をどうも読んでいるらしく、
「(タイトルで)“箸にもファインディング・ニモかからない”が面白かった」
と言われる。意外(いや、そのシャレが気に入った、ということではなくて)。

帰り、Kさんと連れ立って、下北沢の虎の子でちょっと飲む。いろいろと今後の話などしつつ。さらに食い足りず、東北沢の一貫まで行き、以前虎の子の上で一緒に花見した女性とパアパア話しつつ、コハダ、ヒラメ、ウニなど。ここはワリカンで払うが、帰りのタクシーもおごっていただき感謝、感謝。話が楽しかったせいか、頭痛も出ず。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa