裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

木曜日

TOKIOを追っかける少女

少女ストーカーがタイムトラベルをする話。

※『ポケット!』収録、『アストロ劇団』二日目

朝8時起床。入浴して9時朝食。昨日の晩からのメール連絡等にそれぞれ返事。どうにも予定通りことが運ばないこと続出で頭が痛くなるが、出来るだけ考えないようにする。ラジオの収録に舞台と、細かいことに気を使っていてはやれないことが山積。なるようにしかならぬ、と、これまでの自分の人生の運の強さに期待しておく。

TBSに1時入り。ゲストは水道橋博士。明日の大阪行きで収録を一日早めてもらってなお、この売れっ子のスケジュールが空いていたことも運の強さ。収録はまず、バッドニュース・アレン死亡のネタから入り、プロレス絡みで“アントニオ猪木と百瀬博教が歌う『白いブランコ』のカラオケ、という、ホンマに流していいんかという曲をかける。もう、スタジオ爆笑。

続いてはやはり健康ネタ、それからマラソンネタなど。そのまんま東の話から、たけしが博士を知事選に出そうとしている、というようなネタも。凄いな、この気配り、と思うのは、自分が持ちネタを話すのをこっちが一歩引いて誘導したな、と思ったら、次にはちゃんと自分がフリをいれて、私に話す場を作ってくれるということである。これをちゃんとやってくれるのは、博士や省吾さんという、お笑いタレント系の人だけである。文化人さんとかはこれはしない。自分の仕事は話すこと、と割り切っている(それはそれで正しい)。職業により、話し上手にもさまざまな種類がある。

ポッドキャスティングのとき、“ウォシュレット症候群”のことを話したらショックだったらしく、
「ええーっ、もうあれがないと生きていけないのに」
と言われる。

番組の終ったあと、『博士の異常な健康』の次回作に、以前対談してネットに乗せた健康法談義を再録したい、と要望あり。また、博士のネットテレビに出演依頼される。お仕事を依頼して依頼し返されるというのも恐縮。

終って、事務所に帰り、大急ぎで挨拶文を書き上げる。後から考えれば、放送は今日じゃなくて明日なので大急ぎは必要なかった。書き上げて下北に向かう。

4時小屋入り。さすがに今日は緊張感、みんなにあり。本日、コントコーナーに、橋沢さんと映画で共演した縁で桜塚やっくんが特出するのだ。すでに下に並んでいるやっくんファンもいるとか。問合せ電話も多々。とはいえ、われわれはわれわれできちんと芝居をするしかなし。ダメ出しで何か要望は? との橋沢さんの声に鶴ちゃんが
「粘膜が弱いので、あまり楽屋でタバコ吸わないで……」
というのが出る。確かにこの劇団、喫煙率がやたら高くて本番になって廊下を閉めきると、紫煙の渦。

準備体操に余念のない鶴ちゃんに
「いま、日本で一番うまいパントマイマーって誰?」
と訊くと、予想通り、
「山本光洋さんでしょうねえ」
と。技術と芸術性があそこまで突出している人はちょっとない、と。そんな凄い人と昔、仕事したことがあると自慢できるのは気持ちいい。やはり、何でも若いうちにやっておくもの。

やっくんの事務所のマネージャーさんが先に来て、いろいろ打ち合せをしている。これだけの人気者を擁する事務所にもかかわらず、腰が低く、態度が非常にいい。

セリフ稽古、何度も。幕間風景も撮影している八木橋くんに、白手袋を
「やって正解ですね、ばっちりですよ!」
と褒められる。

6時半ころ、やっくん楽屋入り。さすがに楽屋に緊張が走る。何人かのメンバーが
「一緒に写真撮っていいですか」
と入っていくのが、わかるけどちょっと気の毒に思う。向うも初めての場所で緊張しているだろうに。

今回、やっくんがコントコーナーに特出するのは、『エンタの神様』に出てやるときのネタの確認のためだとか。アメリカでは、一流のスタンダップコメディアンが、場末のボードヴィルシアターに飛び入りで参加して、新ネタを大劇場でかける前に試験的にやってみて、観客のウケ方をはかるということが日常で行われているという。日本でもそういうことをやっている売れっ子芸人がいるとは。

さすがにやっくん目当ての客で開演が少し押す。例のエリザベスカラーをつけた衣装を身に着けたら、やっくんがいきなり
「先生、このカラーで何か雑学をひとつ」
とリクエストしてきたので(名乗ってなかったんで知られているとは思わなかった)、とりあえず
「フォークはエリザベスカラーが汚れないようにものを食べるため、17世紀に一気に広まった」
というあやしげなものをひとつ、披露しておく。やっくんはその後も、上手の袖のところから、じっと劇を熱心に見ていた。

で、私の役、今日はちょっとオーバーアクトを押さえ、説明役に徹する、ということで前半やってみた。そしたら橋沢さんからすぐダメが入る。やっぱりオーバーアクトでやってくれとのこと。後半は元に戻すが、お客さんは面食らったのではあるまいか。それにしても、やっくんファンの大部分は、2時間以上の時間、まるで聞いたことのない(多分)劇団の芝居を見せられ続けたわけだが、よく笑ってくれたし、後でブログを検索したら
「やっくんのファンでいるといろいろ面白いものが見られてうれしい」
というような書き込みがあった。ちょっと認識を改める。

後半の私の出を待つ間、楽屋でやっくんとちょっと話す。
「なんでカラサワさん、こういう芝居に出てらっしゃるんですか」
「実は、前に関係していた劇団の芝居に出たとき、客演していた橋沢さんと飲んで意気投合しましてねえ」
などと話す。やっくんと劇団ばなししばし。で、
「で、結局カラサワさん、こういうのに出るのがお好き、ってことですよね」
まさにその通り。金銭ずくじゃ出来ません、買えませんこの楽しさは。

後半はまずまず決まる。オチの『カリオストロの城』、昨日恵理ちゃんや大和さんが改善案を出していて、その通りにやって今日はしっかりと受ける。うーん、みんなプロだ。

で、やっくんの肝心のコントだが、受付の整理や、明日の大阪行きについて代演の向川圭介くんと打ち合わせしたりで、ロクに聞けなかった。残念。しかし、昼間に水道橋博士、夜に桜塚やっくんと、、二人もお笑いの人気者に会うというのはあまりない経験。最後に全員、衣装のままやっくんと記念撮影。

橋沢さんは、終演後、すぐやっくんを送って行く。明日のことなどが乾ちゃんから通達あり、別れて帰宅。まっすぐ帰る

寝る前にネット巡回。声優の小林恭治さん死去の報。なんということだ。脳梗塞で療養中だった最中にクモ膜下出血で死去、75歳。甥があの竹熊健太郎氏で、甥が脳梗塞で療養中に同じく脳の出血で亡くなるというのは、やはり一族共通の体質か? 竹熊氏も回復後、あまりはりきらないよう、自重を望みたい。

死亡記事、見出しにアニメ『おそ松くん』(1966年バージョン)のイヤミ役、と出ていたのは意外。普通は『ひょっこりひょうたん島』のダンディ役(記事中にあった)が代表作だろう。子供心に、この両者のまったく正反対の役柄が同じ人だと知ったときには驚愕したものだ。まあ、記事を書いた記者はまず、どっちも見ていまいが。私はアニメなら何といっても『ファイトだ! ピュー太』のワルサー七世。失敗して、最後に銅像のご先祖様のお仕置きを受ける、というパターンは後に『タイムボカン』シリーズがそっくりいただいていた。お仕置きを受けるときの
「悪役はツライねえ」
というセリフは耳に今でも残っている。

『スペクトルマン』のネビュラ指令の声、『ジョー90』のマクレイン教授、マニアックに行くなら『ウルトラセブン』のゴドラ星人、いずれもあの、ちょっとインテリぽくて高めの声が印象的だが、そういう声質が最も効果的に出たのが、科学番組のナレーションだろう。『レンズはさぐる』、『ウルトラアイ』での、
「さあ、よく見ていてくれたまえ……」
という口調が非常に印象的。“くれたまえ”なんてセリフがこうまで似合う人を私は他に知らない。要するに、典型的インテリ声なのである。ご本人の顔もときおりテレビでは見ることが出来て、NHK特集『日本の戦後』(1977)では、三木武夫役を演じ、大塚周夫、久米明、宮内幸平などという声優仲間と楽しそうに演技をしていた。あれは映像が残っているのだろうか。ともかく、大ショックである。
ご冥福をお祈りする。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa