裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

土曜日

ひょっこりしょこたん島

ハカセ、ギザカワユス。

朝8時半起床。まあ、今日は遅くて当然。母も出かけていていないので、10時近く、用意されてた朝飯を母の室から持ってきて食べる。クロワッサンにママレード、ニンジンとポテトのスープ、みかん一顆。

仲谷昇氏死去の報。77歳。学生時代、紀伊國屋ホールの舞台で氏の率いる劇団・円の『から騒ぎ』を観たが、仲谷氏はドン・ペドロの役だった(明治初期に舞台を設定しているので日本人になっていたが)が、そのうまさにとにかく感服したのを覚えている。理知的な役柄の似合う人だったが、私生活ではかなり常識知らずの役者バカだったらしい。昭和45年に奥さんの岸田今日子と仲良くキリンビール
「♪どういうわけか君がいて、どういうわけか僕がいて、どういうわけか君と僕、どういうわけかキリンビール」
というCMをやっていたが、その後、どういうわけか離婚してしまった。個性派の女優男優でいいカップルだと思ったのだが。その後また別の女性と結婚して離婚、このときには一方的に女性に去られたらしく、独りでコンビニで弁当を買って帰るところをワイドショーに迫られたりしている。その後さらに73歳で若い奥さんをもらい、死はこの奥さんに見取られたようだ。まあ、孤独の死でなかったのが幸いか。

テレビでは『天下御免』の田沼意次が代表作だろう。映画ではなぜか台詞なしの、ワンシーンのみの出演が多く、『戦国自衛隊』の九条義隆、『小説吉田学校』の岸信介、いずれもワンシーンの顔出しのみ、しかし印象が極めて強い。小林正樹『怪談』のラストエピソード『茶碗の中』の式部平内はちょっと台詞があったが、ほとんど茶碗の中で(そう、タイトルの“茶碗の中”にいるのは仲谷昇なのである)薄気味悪く笑っているだけ。それで十二分に怖かった。そういえば、札幌でヤマト再放送嘆願運動をやっていた頃、どこだったかの雑誌で“ヤマト実写化キャスティング選考”というお遊びがあって、デスラー総統はこの仲谷氏がダントツ人気だった。“顔を青く塗ったらソックリ”がその理由だった。

テレビ世代には『カノッサの屈辱』の教授役だろう。この番組の人気をかって行ったイベントで、生れて初めて若いファンにとりかこまれてサインをねだられるという経験をした仲谷氏、興奮してしまったそうだ。ここらも役者バカのエピソードっぽい。

食べて風呂入って、また寝る。1時ころ、K子、猫の世話のための一時帰宅。結局、ホテルをとっても授業で出てばかりで、寝に帰るようなものだという。

『DVDデラックス』原稿のために、1972年の東京三世社の雑誌『実話とマンガ』読む。34年前の雑誌だが、今読むと、マンガ執筆陣がやたら豪華。はらたいらにモンキーパンチ、多々良圭に白木卓、高井研一郎といったメンツである。北山竜の四コマで、地面に開いた穴に指をつっこんだら抜けなくなり、
「ツチケイレン」
と矢印があって書いてあるのに笑う。

記事で、石橋蓮司の子供を妊娠した緑魔子の話が出てくるので、そこを使うことにする。アングラ演劇のカリスマだった石橋の台詞が72年調。
「いまの演劇はすべて世間に媚びたもので、インチキだ。思想もなければ個性もない。われわれは、こうした既成演劇と闘う」
 仲谷昇氏などがやっていた演劇活動と対極にいたのが
石橋蓮司だったのである。若かったなあ(当時石橋さん、30歳)。
「ぼくたちは結婚もしていないし、夫婦でもない。子供ができるといっても、ぼくや彼女の責任ではない。ただ、ぼくたちの共同生活に一つの変化が起きたというだけだ。別に変わったことじゃないよ」
 ……子供が出来たのは“ぼくや彼女の”責任だと思うのだが。

昼飯は昨日食べなかった弁当を使う。飯が少し固くなっているが問題なし。原稿なんとか書き上げるが、そこでダウン。体力がなくなったか、気圧のせいか。杉&鉄の打ち上げに行こうかと思ったがあきらめ、新宿で買い物。家でDVD見ながら飲む。

DVD、『昭和44年紅白歌合戦』(神野オキナさんからのいただきもの)。今日は徹底的にレトロである。うわあ。完全に記憶しているよ、クレージーキャッツやドリフターズの応援合戦まで。月の家円鏡がギャグをスベったところまで。女性組の初出場がいしだあゆみ、カルメン・マキ、奥村チヨ、由紀さおり、森山良子、高田恭子と6組もいるのに男性陣・白組は初出場が二組だけ、しかも内山田洋とクールファイブ、キング・トーンズという渋いベテラン揃い。アイドル時代以前の歌謡界というのはかくも落ち着いていたのですな。ネットを探したら、この回の紅白の詳細なレポートをしているサイトがあったが、たぶん開設者本人の手になるツッコミに、知識と認識が欠けているのがちょっと。カルメン・マキを
「完全な一発屋でなぜ受けたのかわからない」
とか言ってみたり、坂本九が菅原洋一のことを
「日本のハンバーグの名前を世界に広めた」
と紹介したのを
「果たしてCMでやった程度でそんなに効果あるのかいな? と思う」
と見当違いなツッコミを入れてみたり。菅原洋一のあだ名が“三日前のハンバーグ”(命名者はたしか前田武彦)だったのも知らないのだろうか。

黒ビールとフグのひれ酒、それにホッピー。肴は串カツ、エビフライ、鴨南蛮。さらに『トムとジェリー』のDVDを見る。『ジェリーとジャンボ』『人造ネコ』が懐かしい。ビデオ時代は新しい吹替えがイヤで見られなかったが、音声切り替えで言語版で見られるようになって本当によかった。英語字幕にすればほぼ、内容も把握できる。『ブルおじさん』で、スパイクが自分を助けてくれたジェリーのことをGood Samaritan(よきサマリア人)と呼んでいた。教養がないとわからないアニメだったのだ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa