裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

土曜日

山下形而上

金語楼の息子がロカビリー歌手というのは形而上的現実だねえ。

朝7時目覚めてまたウトウトする。夢、またいろいろと。覚えている中で面白かったのは自分の運の悪さを神に呪った男に、いきなり、“これまで願ったこと”全てが猛烈ないきおいでかなえられだす”というスラップスティック。

朝がスロースターターになったのは非常に困る。とはいえ、50近い年になってあまりに起きがけからテンション高いと、脳の血管が破裂しやしないかと心配になる。入浴、朝食は自分の部屋で(母の室にはナミ子姉などが泊まっているので)。ブドーとクロワッサン。

10時半には家を出るつもりが、またまた11時になる。どうしたものか。小田急新宿駅でロマンスカーの切符を買い、相模大野へ。車中『サライ』の壇一雄特集を読む。料理という、当時の男子が(それを職業にする者以外)女々しく思っていた行為にはまりこんで、しかも無頼派であるというその存在が興味深い。食と性という、“生”に固執する無頼派、というところが大宰に比べ複雑なところである。

相模大野駅について商店街を歩いていたら、快楽亭がいてもみ手をしながら近づいてきた。一緒に店まで。IPPANさんら、もう待っている。お母さんが飛び出してきて、熱い抱擁。しかしここのお母さんは元気だなあ。

店内に開田あやさんが焼き肉をほおばっている写真が。『実話ナックルズ』の2月発売号に、この店の取材が載るそうな。お母さん曰く、喜んで店に来た客にナックルズを見せ、
「今度この雑誌に載るのよ〜!」
と言ったら、
「何か悪いことしたんですか」
と驚かれたとか。呵々。

快楽亭とざっと打ち合わせ。釈台をテーブル使って都合したり、いろいろ。そうこうする間に、
「外にずらりとお客さんが並んでいるわよ」
とお母さんが驚いて報せにくる。全員入れるかどうか、心配になるが、快楽亭泰然たるもの。出て見てみたら凄い列。ぎじんさんとアスペクトのK田さんはこの店の『焼肉食べて100インチの映像体験』という看板の一種のシュールさに打たれたらしく、デジカメで撮影しまくっていた。

やがて私の方で予約入れてくれた人たち、情報得て来た人たち(しら〜、rikiさん、O内さん夫妻、jyamaさん、さらにQPさん、藤倉珊さん、堀有機さんなど)が入ってくる。オノとマドの夫婦はなんとお母様を連れてきた。ブラック聞かせて大丈夫か?
そうこうするうちに席がもう、ギッシリすし詰め状態。後から来たmikipooとその彼など、入り口のところで入れずに聞いている状態である。

やがて開幕。一席目はブラックの『紀子ほめ』。相変わらずアブナくて、大笑い。続いてあがって、『ブラック倒れるの記』。このあいだのをそのままやれば、と思っていたがやはり、今回でたぶんかけるのは最後だろうと思うので、中の医者とのやりとりの件などははしょって、オチまでたっぷりやる。つまり談之助説の、
「毛唐は肉食の遺伝子があるので血がネバついているのですぐ固まる。日本人は代々魚食っているので脳溢血にはなりにくいが心臓だと血が止まらずに死ぬ」
というのを紹介し、快楽亭は自分をみなしごの境遇にした父親をうらんでいたかもしれないが、その遺伝子のおかげで心臓の血管がサキイカのように裂けた大事でも血がすぐ止まり助かった。顔も知らぬ父の血がブラックの命を救った、ああまさに“血は水よりも濃し”という、感動の一席。終って降りようとしたらお母さんが写真撮るのでもう一回、と言って、もう一度上がって写真撮る。

三席目はまた快楽亭、そろそろ客の(自分も)腹が限界だろうというのでざっと『演歌息子』をやって、さて、焼肉に、というところで談之助が出てきて、トンデモ落語会のチラシを配っていた。

お客さんに手伝ってもらい高座を撤収し、テーブルを増やす。そうすると、満席ではあるが、店内にちょうどぴったりおさまる形でお客さんがはまる。快楽亭が
「いやあ、ちゃんとお客というのはハコに合わせて来るもンです」
と言っていた。第一回のトンデモ本大賞のときも談之助がそう言っていたが、これをハジケさせたときがブレイクというものなんだろう。

さて、いよいよコンロが置かれ、飲み物の注文があり、肉が出始めるダンドリになってくると、談之助が場仕切り奉行となって、自分から生ビールを配るは、コンロに火をつけて回るは、の大車輪。こっちはどっかと座ったきりで、まことに申し訳ない。快楽亭も“下手な前座よりよく働く”と感心していた。恐縮するが、店の真ん中で腰に手を当ててあたりを監視している様子を見ると、こういうことが楽しいのではないかと思う。jyamaさん、助手の如くつき従って手伝っていた。

生ビールで乾杯、しゃべった後だからうまい。それに、それまで締め切って熱気のこもっていた店内の、窓を開け放したので風が通り、すぐそこに小田急の走っているのを眺めながらジョッキを傾けるというシチュエーションもいい。さらに出てきたカルビ&レバの山盛りの状況、あちこちで知り合いの“うまい〜!”“これは凄い!”という声が。お母さんが台の上に立って写真撮影。豚トロ、ホルモンと続き、やがて今日のスペシャルメニュー、イノシシ鍋が、巨大な中華鍋いっぱいに山盛りになって登場。その“量の迫力”に一同愕然、一瞬後に大歓声。牡丹肉にゴボウ、葱、大根というシンプルな鍋だが、大根がよほどいいのか、肉の出汁がたっぷり染み込んでいるのにも関わらず煮崩れせず、野性味あふれるイノシシのエッセンスを吸収して実に旨味のある存在感。

実はそこで、今日は猪鍋なのでみんなのテーブルにはわたらなかったレバ刺しを、私たち出演者には、とこっそり出してくれた。さすがに周囲の人たちにはそっとおすそ分け。mikipooカップルとオノ・マド夫妻及びお母さんに。ここらへんは東文研、と学会関係の役得ということで。もちろん、大いに恩は売っておく。

さて、まだ後があり、肉と野菜を大皿にあけて、中華鍋に残った汁で煮たうどんを〆に。これが、上にさっきの牡丹肉と根菜類をのせて掻き込む。普通のうどんなら啜り込むところだが、すでに汁は一滴残らずうどんに吸い込まれてしまっているので掻き込むといった感じ。もうもう、当分イノシシはいい、というくらい、旨味の最後のエッセンスまで胃の腑に収めた。

店の外で写真を撮り解散、ではあるがまだ夕暮れ時、といった時間(6時)。rikiさん、K田くん、しら〜さん、ぎじんさん、QPさん、jyamaさん、私ともう一人ファンの人とで、rikiさん行きつけの下北沢のビアバー『うしとら』へ行こう、と決し、快速急行で下北沢へ。おしゃれな店内に、何故かCSTVでアニメチャンネル(キテレツ大百科とか)が流れているという。

rikiさんお奨めのブラウンポーターで乾杯、ところがそのあとすぐ、QPさんが携帯で呼び出され、帰宅。仕事がらみらしい。ひょっとして北の二度目の核実験か、などとみんなガヤガヤ。雑談いろいろ。つまみのキャベツ、酒盗を乗せたクリームチーズなども美味し。例によっての人物月旦の他、何かさんざ飲んで腋フェチの話とか、半田健人が生まれたときにみんなは童貞だったかどうか、とか、アホなことを延々しゃべっていた気がするが、これは酔いのせいらしく、解散が8時半くらい。新宿まで出て、タクシーで帰る。今日も、朝はタルくて、出るのがイヤだったが、出てしまうと極めて楽しく、時間が経つのが惜しいという、いつものパターンの一日だった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa