18日
水曜日
夫婦円盤なことだ
ヒル夫妻事件。
朝7時半起床。入浴後、9時朝食。パンプキンスープ、ピオーネ、柿。日記つけたりなんだり。K子は今日は仕事場泊まりにする、という。
北朝鮮制裁関連のニュースを読む。最近はゲンダイネットの記事を読んで笑うのが娯楽みたいになっている。反政府、反自民をアイデンティティにしてきた団塊世代のボケにつけこんで、何であろうととにかく自民憎し、安倍憎しの記事を書くことで彼らの支持を集め、07年の団塊世代集団定年退職の先も生き延びようという戦略だろう。その強引さが実に香ばしく読んでいて楽しい。
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=103329&media_id=10
↑これなんかも、マツタケやウニが食えなくなることが核実験に対し制裁を加えるより重大事、みたいな感じで書かれていて、そこまでして政府の悪口を言いたいか、と、その旗幟鮮明さにむしろ感心する。mixi内にもゲンダイネットウォッチャーは多いと思うが、いちいちの記事に呆れ、怒り、ツッコミを入れながらも、実はゲンダイネットのファンなのではあるまいか。
ベッド読書にしてきたハヤカワポケットブック『黄金の蜘蛛』(昭和31年刊、高橋豊訳)、まったく読み進めず。古くさい文章は好きな方なのだが、これはいかになんでも感覚が現代のものと違いすぎて、会話など読むに耐えない。80年代に再版されているようだが、新訳なのだろうか?
昼は弁当、またハンバーグ。2時半、家を出て時間割へ直行。虫プロYさんと打ち合わせ。手塚治虫の長編アニメ(アニメラマ)三部作『千夜一夜物語』、『クレオパトラ』、『悲しみのベラドンナ』が12月に東中野ポレポレ座で上映されるので、それに合わせてトークをやってほしいという件。アニメ作品としての出来はともかくアニメラマそのものは“何故か”好きなので、それについて語れるのは嬉しい。ロフトでもイベントをやりたいというので、連絡先を教えておく。
事務所に一旦帰る。オノに明日明後日のスケジュールを聞いてあまりのツマリ具合に鬱になる。すぐとって返してまた時間割、エースデュースKさんはじめ猫三味線製作委員会。エージェンシーさんとのこの間のイベント関係の打ち合わせ結果を報告。それから、別件企画のざっとしたメモのようなものをKさんに渡しておく。ここのメモにはそこまで書いてないが、その後の帰り道で、どんどん具体的な起用メンバーなどに関するアイデアが湧いてくる。これまでに作った人脈が生かせるものになるはずだ。
事務所に帰り、ちょこちょことオノに指示を与えただけで、また出る。今度は下北沢で、『ゲーテ』誌の依頼で伊藤文学さんをインタビューするというもの。伊藤さんのご自宅で、ということで編集部からFAXされた地図を頼りに向かうが、担当編集のTさんの他にトテカワのYさんもいた。文庫本の編集をやったそうだ。唐沢俊一に伊藤文学と、顔に似合わずサブカル好きな編集者だなあ。伊藤さんが
「うちの仕事場はとても何人も入れる広さじゃないから」
と、行きつけの喫茶店『邪宗門』に車で向かう。伊藤さん、ヒザを手術して人工関節を入れているというがすでに杖なしで歩き、自動車も運転する。
『邪宗門』は店内に隠れキリシタンの古美術品や古武道の武具、火縄銃、ランプなどが所狭しと飾られている、古道具屋さんのような喫茶店。森茉莉さんが行きつけにしていた店だとか。隣の家が東条家。東条英機のお孫さんの由布子さんのお宅だそうだ。彼女も常連さんだという。奥の部屋でインタビューというか対談というか。
伊藤さんのスタンスは、常にホモの人たちと世間、家族というところに注がれている。今でもしょっちゅう、隠れホモの人たちからの電話があるという。小学校校長でありながら少年愛者であることを隠し通して定年まで無事に勤め上げ、その後脳梗塞を起して半身不随になりながらもまだ、二丁目に行きたいと相談してくる老人。全盲者でありながら、妻が三日間旅行で留守にするのでウリセンバーに行ってみたい、案内してくれと頼んでくる人。
そういう人たちに、伊藤さんは
「およしなさい。空想の中にだけとどめておく方が幸せですよ」
と忠告するという。
「若いうちからそういう遊びをしてきた人ならともかく、中年以降の世代が一度そういう世界を知るととめどがなくなって深みにはまる。カミングアウトをして、自分に正直になろうと思っても、その結果が必ずしも幸せになるとは限らない。長年自分を支えてくれた妻や家族を悲しませるだけに終る可能性の方が強い。秘められた性は秘めたまま墓場まで持っていくことがいい場合もある」
という伊藤さんの考えは、現在主流をなしている、性的嗜好のカミングアウトが自己アイデンティティの確立につながる、と称賛する傾向とは正反対である。若いゲイの間に、伊藤さん及び『薔薇族』批判の強い流れがあるのもよくわかる。しかし、東京やニューヨークなどの文化的尖端の都会にいてはかえって見えない状況があることも事実だ。いまだ地方においては、性的なマイノリティに対する、凄まじいまでの蔑視と差別が残っている。いや、中央でだって、例えば芸能界で、それを堂々と標榜することが出来るのは最初からゲテものとしてバラエティの飾り物となっているお笑いたちだけで、アイドル系、二枚目系など(伊藤さんは何度も本人たちから悩みを告白されている)ではそれはタブーであることはいまだにあきらかなのだ。
ゲイとはいえ社会生活を営んで食べていかなくてはならない、家族を養っていかなくてはならないという責任を持つ立場にいる以上、社会(世間)の中でそれを押し隠していくことも学ばねばならない。評価されることの少ない、こういう立場での伊藤さんの活動を、私は大事なことであると信ずる(もちろん、あえてカミングアウトする人々のことも理解できるつもりではある)。
いろいろと話をして、1時間ほど。そのあと写真撮影。今回は私は一インタビュアーなので写真は出さず、伊藤さんのもののみなのだが、一応二人のものも撮影しておく。さすが大人雑誌、いい感じに撮影された。しかし、『ゲーテ』って毎月コラムを執筆しているが、そう言えば送ってきたのを読んだことがない。今回、初めてああ、こんな判型の雑誌だったのかと知った。そもそも、送られてきているのか?
タクシーでTさん、Yさんと駅まで。途中、虎の子の近くになったので下ろしてもらい、珍しく暇な様子だったので一人でキミちゃんといろいろ雑談しながら酒。カキのオイル漬け、自家製スモークなどつまみに、日本酒と焼酎をやって、いい具合に酔う。米澤さん夫妻がこの店によく来ていたというのは初めて知った。そう言えば家が近くか。