5日
月曜日
田園にシスの暗黒卿
これはこの世のことならずはるか銀河の昔なる星の世界の物語
朝8時起床、9時朝食。アスパラガスのスープとセロリのスープ、半々づつ。スイカ復活、それにブドー。トンデモ本大賞の日の日記つけ、自分でも呆れるくらい、いつまでたっても終わらない。
なぜ私はこんなに詳細な日記をつけるのか。詳細と言えど限度があり、日々の見聞、思考全てを記載しようなどと思えばノイローゼになるだけなのだが、例えばアンディ・ウォーホルなど、一時は常にカメラとテープレコーダーを持って、自分の一日の全てを記録しておこうという衝動にかられていたという(『ファントム・オブ・パラダイス』のスワンが悪魔との契約で自分の24時間を記録にとっておくことを義務として課せられているのを見ても、こういう思考の人間は多いのだろう)。ウォーホルもまた、
「日常こそアート」
という思想の持ち主だった。私はアートとは思わないが、
「日常こそ一番面白い」
とは思っている。こんな面白いものを記録に残さずにおくものか、である。
12時に弁当を使う。冷蔵庫にK子が買っておいた小カブがあったので、葉と共に味噌汁の具にする。大変に美味である。お菜はサンマ。
ニュースで村上世彰氏の会見の模様を見る。目つきの悪いミッキーマウスという感じ。この人、会ったことのある人に聞いたら、会議とか会見におけるカリスマ性は凄いんだそうだ。会社では彼を神様の如く尊敬している人もいるとか。本人もまた、自分の才能をよほど信じているのだろう。“プロ中のプロ”と何度も言っていた(あれを聞いて、昔、ネットで自分のことを“議論のプロ”と称して荒らしをしていた女性がいたのを思い出した)。しかし残念ながら私の見るところ、そのカリスマはせいぜいが社内、仲間内、ヒルズ居住者にしか及ばないものだったように思える。テレビや新聞などのマスコミを通じてわれわれが見聞できる村上氏のイメージは、せいぜいが狡っ辛い小悪党、金の亡者でしかなかった。
こういう人物が悪いとはいわない。ファンドという世界で生きるにはそういう、金儲けのことばかり考えるスキルが必要だろう。しかし、世の中のキャスティングとしては、そういう人間はオモテに出てきてはいかんのである。黒子に徹し、
「誰も知らないけど実は世の中はボクが動かしているのさ」
と、ブランデーグラス片手に闇の中でほくそ笑むのがニンである。オモテにはオモテに立つ適役者がいる。大舞台で喝采を浴びる能力を持った(ただし、裏のことは何もわからない)オミコシ役が。ホリエモンも村上氏も、狭い自分の周囲の中でのカリスマ性に酔い、自分を表舞台でも通用するキャラだと思い込んでしまった。そこに、彼らの失敗があった。分をわきまえなかった、のである。
世の中で成功する(あるいは、失敗しても叩かれず同情される)には、自分のキャラ(分)というものを考え、それにあった役柄を演じきることが何より大事だろう。これは彼らに限らない。直に世の中と相対峙する職業全般に言えることである。
3時出社、一回の応接間じゅうが段ボールの山で、その中でバーバラとオノがせっせとテーブルを組み立てている。これまでコタツが置いてあった場所に“いくらなんでも事務所にコタツはないだろう”と、テーブルと椅子を置くことにしたのである。こういうことがあるとなんかウキウキして、ウキウキはいいのだが原稿が書けなくなって困る。結局、プロント原稿の書き足しのみ。
9月からのワークショップ(文サバ塾)のこと。すでにバーバラが場所までおさえて来る。岡田斗司夫さんは、
「私が成功したら自分も始める」
と言っているそうである。“落語の『河豚鍋』みたいだ”と笑う。東京スポーツからインタビュー依頼があったとのこと。著名人インタビューコラムみたいな欄なのであるが、見本で送られてきたその著名人の顔ぶれがちょっとビミョウ(著名と無名のギリギリの線というか)で、私もこの列か、と苦笑。
6時、植木不等式さん来。カメラマンの大内さんの撮影もかね、バーバラの夏コミ用同人誌対談。対談と言ってもお題が『満漢全席』であるので、私がインタビュアーとして植木大人のお話を伺う、というカタチになる。何か深くてコクのある中華スープの海の中をただよっているような、そんな感じ。
せっかく大内さん来たので、こないだ出来てきたばかりのマッドハッター帽子でのコスプレ写真も撮ってもらう。リニューアルするHPに置くつもり。
9時近くまで対談し、それから植木、バーバラ、大内さんと出て、どこにしようかと迷ったが結局新楽飯店。イカボール。卵焼き、水ギョーザ、豚足煮込み、フクロタケと豚肉の炒めものなど。あと、ワークショップのことなど雑談一束。バーバラが某人のこと徹底否定するのが興味深いオノのことは絶賛。
「カラサワさんに無くてはならないスタッフ」
という。珍しく愛人疑惑の皆無な女だからであろう。酒はビールに紹興酒、さらにこの店特製の正体不明(密造?)五粮液飲んで植木さん
「この、何か安っぽいプラスチックみたいな味が面白い」
と喜んでいた。大内さんは紹興酒を、表情をトロケさせるようにしておいしそうに飲んでいた。
あと、座った席の後ろでお母さんが夕食をとっていたが、ここの賄い飯はいつ見てもマカフシギなもので、いつぞやの昼はラーメンの麺を茹でたものに納豆をかけて青菜を載せていたし、今日は皿いっぱいの手羽元煮をおかずに、御飯の上にグリンピースを山盛りにして、上にゴマ塩をせっせとふりかけていた。
11時半ころ店を出て、小雨パラつく中タクシー。植木さんに送らる。車中、トンデモ本大賞の件につき、植木さんより過分極まる御褒めの言葉をいただき、恐縮というより恐くなる。植木さんのような本物の文化人に賞賛される資格など実はない、エセ文化人としては(昔からエセ文化人を目指してきた。エセの方が人生が楽しそうだったからである)そのような讃辞を受けると尻のアナがムズムズしてくるのである。擬態がうまくいっている、ということで自賛してもいいのかもしれないが、いかに面の皮が厚い私でも、良心の呵責というものはある。