裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

日曜日

男はみんなオキアミよ

 クジラに食べられてしまえばいいのだわ。朝、4時半起き。あわててテレビつけて『鈴木タイムラー』見るが、まだ風水コーナーもやっていない。少し遅れて始まったらしい。コミビア、今日は“ゴキブリ”。おぐりゆかが番組をとうとう“進行させない”助手になってしまった回。やはりおぐりはこういうときが一番生き生きとしてい る。今日のがこれまでのコミビアの中では最高の出来だろう。

 見終わって6時半までまた寝て、7時45分朝食。ラ・フランス、柿それぞれ二切れ、ブドー5粒。ポタージュティーカップ一杯。食べ終わってまた部屋のベッドに入り寝るが、胸苦しく、ゼイゼイと息をして目が覚める。胃の方に血が行っていたせい だろうか?

 10時半、家を出てタクシー拾い仕事場まで。その前にコンビニで買い物。例の女の子の店員、“日曜にちょっとお訊きしたいことが……”と前、言っていたが、確か に、行くと顔を寄せてきて、
「あの、テレビで言っていた、“樋口一葉は浪費家だった”ってホントですか?」
 と訊く。説明してやったが、しかし、なんでそんな質問を日曜まで引き延ばしたのか、よくわからぬ。

 原稿書きながらCD『思い出のメロディー』(ビクター)聞く。
http://d.hatena.ne.jp/asin/B0002V01CE
橋幸夫の歌う『江梨子』がトラウマになるかも。同名の映画の主題歌だそうだが、知らずに聞くといろんな最近の事件とかに関連したストーリィが浮かんできたりしてア ブない。
「だまされたって  傷つかぬ
 やさしい心の 娘だったが
 大人達が 江梨子よ
 わるいんだぜ 江梨子よ
 苦しみのない 天国で
 きっとなるでしょ 幸福に」
 ……“大人たちが江梨子よ、悪いんだぜ江梨子よ”と強く強く訴えておいて“きっとなるでしょ幸福に”と無責任に〆るところが何とも。

 さらに松尾和子の『再会』が暗くて凄い。
「みんなは悪い ひとだというが
 わたしにゃいつも いいひとだった
 ちっちゃな青空 監獄の壁を
 ああ ああ
 みつめつつ 泣いてるあなた」
 どうせこれも映画の主題歌だろ、と思ったらなんと、この曲は作詞の佐伯孝夫がカフカの(!)小説をイメージして作ったものだという。マジか。
http://naah.jvcmusic.co.jp/products/VICL-41053/VE2ML-10072.html

 週刊新潮から電話でコメントインタビュー。それで出るのが少し遅れ、5時50分上野駅不忍口到着の予定が10分ほど遅れる。関口さん、それでも無事拾えた。歩いて上野広小路亭。昨日が談笑、今日がうわの空と、私の贔屓はみな広小路亭に出るのかと思う。驚いたことに、開演30分前なのに、すでにお客さんが入り口前にズラリと。次の信号までもうちょっとで届くか、というところまで並んでいる。入って30人ちょっとだった頃から観ている身としては感無量である。受付の小池さんに挨拶して、関口さんを席に案内。まだ練習中であったが、スタッフのTさんなどと会話しつつ、練習も見せてもらう。水科孝之&宮垣雄樹のコンビが、ロビーで何度も練習して いた。

 やがて開場。次から次から次から次から人が入ってくる。海谷、開田夫妻、破裂の人形、みなみといった常連さんの他、以前うわの空を紹介した(携帯コンテンツのお仕事で役者さんが入用ということだったので)『怪奇トリビア』の中西さんも来ている。ベギちゃんが来て、私たちの席の前に座ったので、少し話す。Iくんの奥さんの 話をして、“彼らも出来ちゃった婚なんだよなあ”と言ったら、
「あ、そう言われてみると私の回り、みぃんな出来ちゃった婚ですねえ」
 と。最近の男女はたとえ肉体関係を持っても友達づきあいのままずっと行くから、子供が出来るというようなアクシデントがないと、なかなか結婚にまで踏み出すきっかけがつかめないのであろう。NHK新潟のYくんも久しぶりに。“よく来られたねえ”と言ったら、現地では、あまりのハードスケジュールに局員が倒れないよう、交替で休みをとらせてもらえるのだそうな。
「でも、誰かが倒れたらすぐ、交替要因で呼び返されます」
 今年の『ゆく年くる年』はやはり新潟だろうねえ、と訊いたら、その通りとのこと である。
「あの番組、分単位の制作費が日本一高い番組なんですよ」
 というトリビアも教えてもらった。私としては、早く彼に中央に帰ってきてもらって、番組にうわの空を使って欲しいのだが。

 開幕。おなじみの前説からはじまって、久しぶりの『港のヨーコ』。思えば初めてうわの空のライブを観たのがこのネタだったような気が。前説でも言っていたが、ここでもCCBをネタにして、島さんが“あ、関口さん、すいません”と舞台上からあやまるというギャグを。次がこのあいだのヘアメイクさんネタからシフトした感じの尾針ちゃんと座長の『転校生』コント。座長が尾針を可愛くて可愛くてたまらん、と思っている感じが伝わってきて、それはそれで微笑ましいんだが、ツッコミが村木藤志郎らしくもなく甘くなっているのに苦笑。村木さんのツッコミはガキ大将タイプであって、サディスティックタイプじゃないのである。尾針ファンとしてはホッとするものの、コントライブの客としてはもっと徹底してツッコんで笑いのテンションを高めてほしい。最後はグズグズになる一歩手前で、恒例のダンスで落としていた。

 それから島・おぐりの『コント・保健室』。牧沙織が抜けた後をおぐりが引き取って、(と、いうかもともとおぐりの位置だった役だそうだ)、新人の島さんを先輩がいびる、というパターン。保健室の先生役なんでおぐりは白衣に眼鏡という、完全なコミビア衣装で、島さんに“それ、コミビアですよね”と言われていた。二人とも、もう完全に手に入っている役割分担なので安心して観ていられる。どうしておぐりゆかは、こういうときはセリフがスラスラでてスムーズに演技するのに、コミビアのときはああタドタドしくなるのか? まあ、あれはあれで津島さんとの差別化になって いいことはいいのだが。

 続いて『座長と奈緒美さん』。なんと某氏から来た手紙の朗読つき。内輪としては大笑いできるけれどな。『恋の季節』を歌う、と言って両方ともキラーズパートを歌う、というようなベタネタを、少しテレつつやるところがいい。このライブの丁度いい息抜きである。そしてその後がおなじみの、というか、最近は全てのコントがこの前座扱いになってしまっている感のある『勝ち抜きクイズ大会』。司会がおぐりゆかで、後は各メンバーそれぞれ扮、のいろんな人たち。小林三十朗が金八先生の加藤@腐ったみかんを演ずるかと思えば、座長と尾針は『悲しみにてやんでぃ』の紋寿とみけ、久しぶりのパンパンピストル八幡薫は自作のオウムを肩にとまらせて、もう原型がどうだったのか想像がつかないUA。そして前回宅八郎で女性捨てたかと開場にパニックを巻き起こした島優子、今回は金八。まあ、髪型だけで出来るわけだが。しかも金八コンビが引っ込んだあと、今度は宅八郎リターンズ、前回に比べややバージョンアップで、今回は持っている紙袋がLeafのもの。森高千里フィギュアは秋葉原じゅう探したが見つからなかったそうである。誰か持っている方がいらっしゃったら 提供お願い。これとコンビ組むのは水科孝之の槇原敬之、もう定番。

 序盤はやや、おとなしめに始まる。このコントは出場者がアドリブで進行させながら、ひたすらおぐりゆかに笑いの神様が降りてくるのを待つ、という、普通のコントとは違ってナニやら神ごとみたいなハラハラ感がある舞台なのだ。途中、紋寿とみけが『ドラゴンボール』のクリリンネタで寸劇を始め、おぐりが本当に目に涙をいっぱい溜めてすすりあげるという場面あり、観客大喜び。……ただ私はこれ、駄目。ギャグでも女の子が目の前で本当に泣くってのは耐えられず、目を伏せてしまった。私だ けの個人的な感性なんだが。

 前半の神は、やはりCCBネタで降りてきた。イーグルス(楽天の)という答えのヒントに『ホテル・カリフォルニア』歌っていたバンド、というのをおぐりが出し、 それに座長が
「それって、ドラムがヴォーカルやってたたバンド? ……わかった、CCB!」
 と答えると、おぐり、思わず
「いえ、もっと世界的に有名なバンドで……」
 と言って口をふさぐ。そこで、実にいいタイミングで関口さんが
「悪かったな!」
 と舞台に突っ込んで場内爆笑。このタイミングが、リズム感があってライブに馴れている人でないと出来ない、最適な間のとりかた。しかし、おぐりもエラいのは、そこで萎縮せずにもう一回、開き直って
「ハイっ、もっと世界的に有名なバンドです!」
 と駄目押しをしたところ。この度胸は滅多な役者にあるもんじゃない。とにかく、それやこれやの混乱の中、前半終了。やや変則で、今回はその間に水科さんと宮垣の コントがはさまる。

 今までのコントはみずしなさんがボケというか、ちょっと狂気の役をやって、普通人の宮垣がそれに翻弄される、という役回りだった。今回は、家の鍵をなくして鍵開け屋を呼んだ一般人が水科、やってくる異常なノリの鍵開け屋が宮垣雄樹という、攻守ところを変えた役回り。ギャグが地味めなものから始まっていって、次第にエスカレートしていくという、コントの王道のようなもの。しっかり稽古してダンドリを完全に入れているのだろう、演劇的な進行が、アドリブ勝負的なクイズコントの間にはさまると、アクセントとなって、実に心地よい。前回の、ちょっと不条理な感じのコ ントもよかったが、今回のは誰にもわかりやすく、またシュールでもある。

 水科さんの心境にかなりの変化が訪れたのではないか、と思うのは、舞台上で笑いを取ることの面白さばかりでなく、自分が受けに回って、相方に笑いをとらせることの面白さに目覚めてきたのではないか、と見ていて思えたこと。コントの主導権握っている方が脇に回るというのは、これは実はコンビとしては最強なのである。それを楽しむことが出来るようになったとしたら、このコンビ、ひょっとして化けるか、と 思わせた。

 さて、これだけ内容のつまったライブを逐一報告するというのは荷なのであるが、地方在住の人で、この報告読んでうわの空に足を運んでくれる人もいるらしいので手を抜きたくない。とはいえ、最後の勝ち抜きクイズ後半、これが凄くて、とても私ごときの拙文ではその場内のカオス的状況は伝えられない。おぐりゆかの困ったところはここで、どこが面白いかと問われても、とにかく来て見てくれ、新幹線代使う価値くらいは十分に有るからとしか言いようがない。そして、ギャグの神様が降りるかどうかは、これは博打である。降りないときだってある。しかし、必ず代金分はきちんと笑わせて帰す、というプロの舞台もいいが、不思議なことに、博打要素があって、数回に一回しか爆発が起きない、という舞台の方に、どちらかというと人はハマるのである。文楽より志ん生に人気があった理由はソコである。おぐりは志ん生なのである。後半降りた神は“C.W.ニカウ”だった。もう説明する気にもならぬ。場内が 四次元空間になった。三次元の住人たる私には語る言葉がない。

 爆笑のうちにお開き、二次会へ。なにしろ年末進行の最中。開田さん夫妻は共に仕事あるので、と帰り、破裂の人形さんも体調不良とかで早々に帰る。関口さんも仕事が入っているとかで帰ってしまった。……まあ、これだけのもの見たから、もうあえて二次会見ないでもいいだろうと思ったのだろうが、これが彼らの間違い。私も迷った末に、中西さんが来ていたので、仕事の話が出来るかと思ってついていったのが、幸運だった。席を包囲されて
「お前ね、C.W.ニカウはねえだろう」
「え、でも、アウトドア評論家でC.W.ニカウさんって……」
 てなやりとりがエンドレスで続いた末に、シビレをきらした誰かが
「あれはC.W.ニコル! ニカウさんはアフリカの人!」
 と言った指摘に、やっと気がついたおぐりの、
「“……?”“……。”“……!”」
 の三段階表情変化がもう、ビデオに撮っておきたいくらいの傑作だった。おぐりの席の真っ正面に中西さんがいたのだが、本当に体を折り曲げて抱腹絶倒していた。打ち上げに来なかった人、お気の毒としか言いようがない。日食を見にきて、暗くなっ ただけで満足して帰ってしまい、金環食を見逃したようなものだ。

 ……とはいえ、出来れば打ち上げの席まで持ち越さずに、舞台上で降りきってもらいたいものである、神様におかれては。一観客としては大笑いだが、プロデューサーだったひには頭抱える。やはり途中で“電話が入りました。一人、倒れたみたいなの で……”と席を立ったYくんはこれを目にしただろうか。

 中西さんの友人で携帯コンテンツ作成しているK木さんに挨拶。コンテンツ関係のお仕事でうわの空を推挙したのだが、気に入ってくれたようでうれしい。みずしなさんに、今日のコントはよかった! と伝え、土田さんにはGBのイラストよろしく、と頼んでおく。いろいろと企画が実現していくのは実に楽しい。テンションもぐんとあがる。出来ればいつものように席をいろいろ移動してみんなと話して、としたかったのだが、体力なくてそこまで出来ず。これが限界。帰り、上野の駅でおぐりが
「ツーショットとりましょう」
 と言って携帯で撮ったが、この顔がいや、死人のような精気のない目の代物。ここまでヒドい状態か、とやや愕然となった。終電車で新宿まで行き、そこからタクシーで帰宅。体はくたくただったが、何か精神的なパワーは貰ったような気になった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa