裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

火曜日

リベラ〜ル麦茶♪

 ケリー候補も飲んでます。ところでケリーはフランス語に堪能で、一方のブッシュはスペイン語(テキサス訛りだが)が出来るそうな。うちの母がイタリア語を習おうとしていて、こないだCDつきテキストを私に注文させたが、もう“難しくてダメ、スペイン語に変える”とか言っている。これでマスターできなければブッシュ以下で すぞ、母さん。

 朝6時45分起床、調子がよくない。原因はわかっていて、気圧の乱れである。しかし、こうまで気圧に左右されると、もう長くないんじゃないかと思えてくる。そう言えば今朝の夢に、小学校時代の友人、Fが出てきた。ひょうきん者で有名だったFくんである(と、言っても誰も知らない)。仲はよかった方だが、小学4年のときに同じクラスになってつきあっていただけで、5年になってクラス替えがあり、やや疎遠になって、しかもその半ばあたりで彼が転校していってしまってから、一回も会ったことも、音信があったこともない。なんでいま、彼が夢に出てくるのかさっぱりわからない。

 ちゃんと、彼も歳相応の顔になって出てきた。私がテレビの取材かなにかの仕事で地方に行くと(その地方の風景が地中海風なのがいかにも夢だが)、そこの地方の青年団かなんかのとりまとめ役をしていて、それなりの顔役であるらしい彼が宿に訪ねてきて、しきりに再会をうれしがり、昔の級友の成功を心から喜んでいる風で、酒や菓子を大量に差し入れてくれる。私も嬉しくないことはないが、はっきり言って地方の青年団の活動ばなしを長々聞かせられても別に面白くもないし、とややヘキエキしてつきあっていると、彼の世話している部下だという青年二人を紹介して、その青年の一人の家で作っているという栗鹿子を持ち出して、食べてみろ、うまいからと押しつけてくる。仕方なくひとつつまみ、まあまずくはないが押しつけも困ったもんだ、 と思いつつ、彼の手前
「やあ、これはうまい」
 と使わなくてもいいお世辞をつかい、際限なく続く彼のラチもない昔話に耳を傾けつつ、“しかし、これが普通一般のつきあいというものなんだろうなあ”と、心のう ちで苦笑しつつ、私は栗鹿子を囓っていた。

 最近、こういう、忘れていたような級友や仕事上の知人が突如登場して、再会を喜び、彼らと食事をしたり、飛行機に乗り合わせて機内で長々しゃべったりという夢をよく見る。もう先行きが長くないので、せめて夢の中で昔の知人・友人にいとまごい に回っているのかしらん、とか思ってしまうのだが。

 入浴。ごく普通に入って体を洗い、出たらマットにポタ、と血が垂れた。鼻血だと思い顔に手をやって鏡を見たがその気なし。痔でもないし、どこに傷が? と全身を点検したら、色気のない話だが陰嚢の裏側からの出血だった。ニキビみたいなものが知らないうちに出来ていて、知らないうちにつぶれたらしい。こんなところから案外 血が多量に出るものなのだな、と変な感心をする。

 朝食はパンプキンの冷ポタ、焼きカボチャというハロウィンみたいなメニュー。テレビ撮影用の酒、いろいろ持ってタクシーで仕事場。仕事関係のメール、朗読ライブ の件のメール等多々。幻冬舎Nさんから電話。原稿の催促。

 白夜書房Mさんからメール、朗読ライブに来てくれるとのこと。早川書房Aさんから電話、ネット連載の件。話題の(?)楽天で。来年春からで、早川で単行本にまとめることを基本にしてのもの。あと、ダ・ヴィンチのSくんから原稿催促。催促多々 である。その合間に昼飯、シャケと梅干しという不思議なオニギリに納豆。

 体がとにかく動かない。気圧のせいである。3時、たまらずにマッサージに行く。女性の先生(初めての人)だったが、これが女性とあなどっていたら、効くこと効くこと。うひゃーっと悲鳴あげるくらいきつく揉まれた。いい気持ちではある。帰りの エレベーターの中で、同じく治療を受けた帰りの老婦人から、
「ここは効きますわネ。いろいろ回ったけど、ここ、一番効くワ」
 と話しかけられた。

 7時半、島さん来。朗読ライブの稽古をする。女浪曲天中軒雲月の『杉野兵曹長の妻』、三回目読み合わせ。これまでは、さすが上手いな、とは思いつつも、なぞっているだけだったのだが、今日は一緒に演じながら、こちらが舌を巻いた。出来た! という感じである。こっちのイメージ通りの杉野りう子が眼前に現出した。前二回とは雲月ならぬ雲泥の差だ。家でよほどしっかり読み込んだんだろう。入る前には一回こっちが見本で読んでみせただけなのだが、こっちの意図をこれほど的確につかんで 役を作ってくるとはやっぱり島優子、凄いなあと改めて感心。

「演出とは妥協の謂である」
 というのはつかこうへいの言だったか、確かにこちらが期待しただけのものを相手が返してくるって経験はほとんどない。と、いうか、これまでつきあってきた演者というのは、ベギラマにしろ宇多まろんにしろ、それからおぐりゆかにしろ、こちらの意図をいい意味で裏切る手腕に長けた人ばかりであった。島優子はそれとは全く異なり、こちらの意図に密着した上で、自分らしさを出す。ただ残念なのは、これだけ役を作る時間を朗読コンテンツのときには作ってあげられなかったことだ。この次から は何としても、と思う。

 ここまで終わったところで、9時、日テレ『サンクチュアリ』スタッフ来。いろいろと仕事場やコレクション類を撮影する。こないだも『世界一受けたい〜』で同じところを撮影したばかり。その後、島さん同道でチャイナハウスへ。すでにK子、そのポーランド語教室の友人さん、S山編集長来ていて、これに島さん加え、ここで会食している様子を撮影。石橋マスターが素材の蛇、カイコのサナギ、蟻などを見せ、それを撮影している。面白い絵は撮れるだろうが、チャイナが“ゲテ食屋”として紹介されてしまうのはまずい。せいぜい、食べるシーンではおいしいを連発。猪とコゴミの炒め物が絶品、薄味なのにこの濃厚な肉の味は何か。あと、蟻をまぶしたサツマイモの飴煮。要するに大学芋だが、黒いツブツブをゴマだと思うとこれが蟻。しかし、蟻の酸味が飴と芋の甘さを引き立てていて、これはK子はじめ島さんS山さん、全員が絶賛。しかし、撮影の注文で蟻酒を三杯もあおったので、かなり酔っぱらってしま い、帰りには何もワカンナクなる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa