裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

木曜日

冬のコミケ

 シャレになっているのか、いないのか。エロ業界ではすでに『冬のスマタ』というのが出ているらしいが。朝6時半起き、入浴その他雑事如例。朝食とって家を出る。週刊誌買おうとコンビニに立ち寄ると、この間話しかけてきたお姉ちゃんが、“日曜日にはいらっしゃいますか? 訊きたいこと、あるんですけれど”と言う。すっかり 顔なじみになってしまっているな。

 少し会話交わしていたら遅れてしまい、停留所まで急ぐがすんでのところで逃し、仕方なくタクシーにする。次のまで15分近く間が空くのである。高くついた雑談であった。しかも、マンションについて、さてと思ってポケットを探ったら、カギがない。家に忘れてきてしまった。普段は自宅のドアにカギをかけてから来るのだが、今日はクリーニングに出すものを母の部屋に置きにいくことなどに気をとられ、うっかりそのまま出てきてしまったのである。あわててまたトンボ返り。バカバカしい。

 これで機峰を折られたというか、仕事用のテンション上げるキッカケを外したような感じになっていたが、机の前に座ってみるとそうでもなく、漢字天国原稿、案外とスラスラ書き上げる。時事風俗の中の漢字、というネタだったので選んだテーマが、“韓流”の“韓”。韓の字そのものには“井桁”という意味しかないが、井戸の周囲を木で囲むというイメージから、“取り囲む”という意味が生まれ、さらに“優れたもの、優れた人”という意味が付与された。優れた人やものの周囲は常に群衆が取り囲むから、である。韓国というのは“優れた国”という美名なのである。で、取り囲 むと言えばおお、今のヨン様来日の状況を見事に表しているではないか。

 昼はオニギリ。シャケ、納豆、ワカメの味噌汁(カップ)。食べてすぐ今度は朝日新聞ピンホールコラムにかかる。昨日、ネタ出しをしてどうしてもコラムの形にまとまらなかったのだが、これも時事とからめ、ドラえもんの声優総交替を頭に持ってきて、それから話を“人の交替”にふくらます。きれいにまとまって、ホッとする。書きあげて送る。ここらで今日のエネルギーは使い切ったか、ガックリとダウン。本来はさらにFRIDAYのネタを出さねばならないのだが、そこまで出来ず。

 仕方ないので連絡いろいろ。今日あげた『漢字天国』の元の担当、Sさんから別件でメールが来たのはちょっと西手新九郎。またGBのイラスト、土田真巳さんに依頼メール。ロフト斉藤さんに島さんとの朗読の会のスケジュールの件の連絡。うわの空関係が続くが、おぐりゆかからは『ゴミビア』前書き原稿が届いた。なんだかんだで冬コミ準備が進む。で、今日はこれから神保町で古書すがやさんの古本小説大賞授賞式。須賀さんはこのサイトでも自伝(?)のようなものを執筆しているが、やはりこ の大賞にもそのテのネタで応募して、見事大賞を受賞したのである。

 半蔵門線で神保町、岩波ホール前でK子と、皆神龍太郎さん(本業の方で、以前に古書店主さんを紹介してくれと頼まれたことがあり、須賀さんを紹介したご縁)と待ち合わせ、そこから会場の居酒屋『八羽』に。なないろ文庫不思議堂の田村さんなどがいて、須賀さんがいない。アレ? と思ったらトイレに入っていた。この席、この後も誰か人(審査委員の坪内祐三さんとか)が来るたびに、須賀さんはトイレに入っていた。この、“世間とのタイミングのズレ”がいかにも須賀さんらしいと皆神さん と笑う。

 古本の濃い話がいろいろ飛び交う。“なぜ大学の先生というのは本代を払わない人ばかりか”という問題、それから業界の困ったちゃん情報。前回(第三回)古本小説大賞受賞者の成瀬正祐さん(聞けばみんなへぇと驚く名家の子孫)は貸本マンガのコレクターで、私やK子と話があう。やはり大学関係者の某氏の困った話になり、成瀬氏、あの人はシャレにならない、と本気で憤慨していた。私もこの人物には攻撃受けたことがあり、その狷介な人格には前から困っていたので、大いに盛り上がる。はっきり言ってプライドの肥大した、地方在住の研究者によくあるわがまま坊やにすぎないのだが、それが若手マンガ研究家たちには“深い愛情にあふれるあまり熱情がほとばしる、尊敬すべき研究家”になっちゃうのだ。皆神さんが“しかし、怖い業界だなあ”と感心(なのか)していた。超常現象業界のオーソリティの皆神氏に感心される ほど奇人変人が多いのが古書業界なのである。

 ところでびっくりしたのは、こういう居酒屋で行われる会なのだから、これはてっきり、どこかのパーティ会場で行われた授賞式の二次会だと思って出かけたのであるが、なんとここが正式な授賞式の場なのであった。田村さんがおもむろに立ち上がって賞の授与を始め、私に来賓としてスピーチをもとめる。いかにも貧乏物語を書いて受賞した須雅屋さんにふさわしい。須賀さん、そこで自作の詩を朗読する。おお、何か青春文学ぽい。ただし、読んだ詩はなんだかよくわからず。授賞式に読むようなも のでもなかったような気がする。

 皆神さんの携帯に植木不等式さんから電話、会社の仕事が終わってやってくる。何かK子が呼んだらしい。まだ須賀さんは古書店なかまと話があるだろうから、こっちはちょっと外で腹に何か入れてまた迎えにきます、と言い置いて、外に出て、ぶらぶら歩く。へぎそばのK庵があったので、本当はここはあまりうまくないのだが、まあチカマでもあるし、と入って、つまみ数品注文。植木さん、本日は(本日も、と言いたいところだが本日は特に)ダジャレ製造マシーンと化している。雑談しながらいろいろ食う。“豚のスーチカ”というわけのわからんものがあり、植木さん当然のように頼むが、品切れ。沖縄風の角煮みたいなものらしい。最後のへぎそば、やはり新宿 の昆に比べると月とすっぽん。

 そば湯割り焼酎数杯、かなりベロとなって閉店で追い出されてまたさっきの八羽に戻ると、ちょうどここも閉店で、追い出されて須賀さんとか出てきた。彼をタクシーに同乗させて中野まで。母の部屋の簡易ベッドに寝せて、こっちも寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa