裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

日曜日

ツキジです

「ツキジデス。ペロポネソス戦争がなかなか終わりません」
「ツキジデス。トゥキュディデスって言ったら、自分で舌噛んだとです」
(BGM『ガラスの部屋』)。
 朝、目が覚めて時計を見たら4時半。あわててテレビをつけたらちょうどコミビアやっているところ。おお、おぐりゆかが番組を進行させている、とアタリマエのことで感心してしまったが、これはすでに収録が12回まで終わっており(今回放送分は4回目)、進行どころか番組のコンセプトを破壊するまでにパワーアップしているおぐりを知っているから。

 またベッドにもどって、本数冊拾い読み。7時32分、食事のベルで台所へ。バナナ、リンゴ、ラ・フランス、ポタ。少し早めにバスで出勤、日曜なのでかなりゆったりと座れる。K子にさんざ催促されている『男の部屋』、すぐ書き出して11時半に 完成、編集部&K子にメールする。

 1時、島さん来宅。とりあえず先日原稿渡してざっと読み合わせだけした『ラーメン屋』と、『杉野兵曹長の妻』の二本、読み合わせ。当然だが先日よりずっといい。こちらのイメージを押し付けることはせず、島さんの解釈に合わせてふくらませていきたい。とはいえ、浪曲などは最初に読み合わせたときからは格段の差で人物が出来上がりつつある。まだ未完成だが、次回は確実に島優子バージョンの杉野りう子に出会えるだろう、と思うと無性に嬉しい。『ラーメン屋』は初回からバッチリ。これは村木さんの芝居の世界にすごく近いと思って選んだんである。そう言ったら島さん
「ああ、なにか妙に自分と相性がいいように感じたのはそのせいですか!」

 そこらでメシを食いに出る。こないだは新楽飯店だったんで、今回はと、サムラートに連れていって、バターチキンカレーを勧める。その後で、ルノアールで少しダベり。今後のうわの空のこと、おぐりはじめ、それぞれ個体としての役者さんを売り出すことと、うわの空全体の上昇とを摩擦なく進めるか、ということなどなど。後ろの席での携帯の会話、“ああ、いや、テストでの彼の力量にこちらでも感心しまして、それで、単に警官の役ではなく、もっと演技していただきたいと思いまして、死体の方の役を……”映像関係者と役者のプロダクションとの会話だろうが、なんでウチの 役者が死体の役なんだ、と文句つけてきた先方への言い訳が笑える。

 4時、東武ホテルで関口誠人さんを拾い、仕事場へ。さっそく『杉野兵曹長の妻』を聞いてもらう。関口さん、聞きながらギターつまびき、見事に最後はあわせてしまう。さすが、浪曲に凝っている(ドンキホーテなどでディスカウントされている広沢虎造のテープなどを買いまくって聞いているそうだ)だけのことはある。しかも、浪曲だからといってそれが三味線の代用ではなく、ギターならではの、一見(一聴?)ミスマッチぽくて見事に内容にあっているものになっている。さらにうれしいのは、そこまで浪曲にハマっている関口さんから、
「唐沢さん、しかしよくそれだけウナれますねえ!」
 と感心されたこと。単なる聞き覚えだし、しかも最初に人生で聞いた浪曲が、曽我町子が『オバケのQ太郎』のソノシートの中で歌っていたもの(東京ムービー企画作詞・広瀬健次郎作曲『ぼくは正太だい』の中に、Qちゃんが浪曲を歌うひとくだりがあって、母が“しかし曽我町子って女優は達者だねえ”と感心していた)という程度 の浪曲歴なのだが、それでも“らしく聞こえた”とすれば嬉しい。

 続いての『ラーメン屋』も、聞きながら即興でホームドラマのBGM風のものを演奏してくれる。島さんが“ホントに今、作ったんですか?”と驚嘆していた。さすがである。今日はその二つのみを何回か繰り返しての練習だったが、いや、これは出来が非常に楽しみになった。二回目三回目と繰り返していくうちに、このライブは私の ライフワークになるかもしれない。

 8時ころ練習を終え、出て『駒形どぜう』に入る。ここで雑談しつつ、音楽論、演技論など。関口さんの生い立ちなども聞いて、うーむ、人生のバックボーンには、本当に人それぞれいろんなものがあるなあ、とつくづく思う。関口さん自身、今、さまざまなことへの挑戦に燃えているようで、その時期に、笹公人さんを通じて私と出会い、私を通じてうわの空と出会い、ということに、
「来たか、いよいよ」
 的なものを感じてくれているらしい。運命論者として(人間の一生は所詮、才能があっても努力があっても運命が味方してくれなければどうしようもないし、この運命に関しては人間がどうあがいてもどうしようもない)、いま、この出会いがあるということは、この次に何か凄いことが待っているような気がする。今回のライブは宣伝不足やなんかでちょっと客入りが不安なのだが、これを起爆剤にして次回につながる 可能性は十二分にある。

 どぜう鍋、鴨焼き、などを食べ、凍結酒を飲んでかなり酔いは回るが、出たときにまだ9時半。二人を見送ったあと、ちょっと『サンクチュアリ』の取材の件でご迷惑をかける挨拶に行っておこうと思い、幡ヶ谷に足を延ばし、『チャイナハウス』に入る、と、
「うわ、今噂していたんですよ!」
 と、何か西手新九郎あったらしく、石橋マスターとジュンさん、それに植木不等式氏が驚いていた。聞くと、『サンクチュアリ』のクルーから、取材の連絡あったばかりだそうだ。どうかよろしく、と改めて挨拶し、それから蟻酒すすめられ、植木氏と乾杯。私はいいかげん凍結酒が利いてレロっているが、植木氏もすでに白酒でだいぶメートルがあがっている。例により駄洒落の連発になり、あと何かヨタを飛ばし合っていたような感じでもあり、なにかジュンさんがケラケラ笑っていたようであるが、もう茫漠とした蟻酒・ドリームの彼方である。炙り鶏と黄ニラ炒めなどいただき、タクシー相乗りして帰宅した。多分タクシー代は植木さん持ちになっていると思う。申し訳なし。ベッドにもぐり込んだらK子が
「うわっ、酒臭いッ!」
 と叫んだ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa