裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

水曜日

やっぱり瀬古が好き

 国近もいいけど、やっぱり瀬古のあの天才的な走りが懐かしいねえ。朝、パソコンのデータをゴミ箱に捨ててくれと人に頼んだら、画面の中からポイとつまんで本当にゴミ箱に捨てた夢。あわてて拾い上げたデータが、テーブルの上で綺麗に綺麗に青緑に光っていた。7時35分、朝食。唐辛子ミソで焼きカボチャとトマトを。新聞で中島らも死去の報。昨日ネットで緊急情報が走ったし、夜のニュースでもやっていたが何か実感がなかった。あまりにこういう死が似合いすぎる人だったので、逆にフィクションくさく感じてしまったのかもしれない。また、私の中で最も強烈にイメージされていた中島らもは、学生時代、『ぴあ』で読んでいた『啓蒙かまぼこ新聞』の4コマの人、なので、それ以降の作家・中島らもと、イメージがつながらないままでいた せいかもしれない。

 なぜイメージがつながらなかったかというと、いわゆる全国進出を果たした後のこの人の発言や行動などのすべてが、私には演劇的に感じられていたからだ。和製ハードボイルド映画の主人公みたいに、そこに実体感がなかった。いや、なかったからこそまことにカッコよかったのではあるが。演劇畑の人によくあるタイプで、作り上げられた虚像を自分で見事に演じてしまっていたのではないか、そんな感じがした。しかし、例の逮捕以来(これも、ファンにとっては全く意外ではなかったであろう、とその逮捕のとき日記には書いた)、その彼の演技には、どこか実体との齟齬感がつきまといはじめた。空回りというか、痛々しさがそこかしこに見え隠れしはじめた。それでも必死で、周囲に彼は“いかにも「らしい」中島らも”像をサービスしていたのではなかったか。大阪人の、ひとつの典型的なパターンのように思える。70・80になり、老衰してなお、中島らもであり続けるこの人を、ファンとして見てみたかった気もするが、今は何か、やっとそういう演技から解放されたのだな、よかったな、 という、不思議な安堵感すらただよう。そんな死であった。黙祷。

 天気予報によると本日は夜から大雨だそうで、傘を持って出かける。8時台のバス16分に来たやつに乗る。冷房の送風口をダイレクトにこちらに吹き付けて汗を乾かす。仕事場着、昨日冷房を切って出たので蒸す。外は好天だが、気のせいか気圧が変動中のような。扶桑社からの再校ゲラを戻す。かなり細かい事実関係チェックが入っ ており、さすがキチンと仕事してくれているな、と感心。

 ミリオン『GON!』のSさんから電話、善後策をいろいろ話し合う。同じミリオンの『実話ナックルズ』の原稿ゲラもチェック、別段手入れ箇所ナシ。そのままダラダラと昼間で過ごす。のざわよしのりくんから湯浅監督追悼ライブの件で電話。あり がたい申し出あり。

 新聞に、いきなり『バジリスク・甲賀忍法帖』の画像が載っていたので驚く。しかも経済面である。読んでみると、JDC(ジャパン・デジタル・コンテンツ社)が、テレビ放映用アニメーションを投資対象とする日本初の個人投資家向け金融商品として『バジリスク』を販売するのだとか。一口5万からで、総額2億4千万を集めるのだそうである。一口馬主みたいなものだなと思う。何だろうか、大口投資すれば脚本や作画にも注文がつけられるのだろうか。それならば、と乗り出してくるマニアは案外多いような気がするが。

 弁当、鰻ツクダニがお菜。お茶を冷やしておくのを忘れたので、30分ほど昼飯時間をのばして、その間に冷蔵庫の冷凍室へ入れておく。セミのすだく声が窓外にかしましい。飯塚昭三さんからいただいた暑中見舞いによれば、昭和八年(飯塚さんの生まれた年)の山形県では40.8度という熱波が来て、木で鳴いていたセミがぼとぼとと落ちて死んだそうだ。それに比べれば今年はまだ銀メダル級だ、ということであ るが……。

 テレビ朝日『探偵ナイトスクープ』より電話。『ガラダマ天国』でとりあげた“エチオピア国家”と称される謎の歌(♪オーロレッチンオーローラー、オーロレッチンサルポニタン、ウッチンペクチンチョコロトポイト、アラレヤピッピッピー)について。何でも九州でこの歌を80歳の父親から聴いたという女性から、正体を探ってくれという依頼が来たそうな。正体といってもわからないが、私はこの歌を子供のころ母から聞き、母がこの歌を聞いたのが昭和10年代、教えた人はさらにその前の大正世代であろうと推理できる、こういう無意味歌謡というのは大正時代末期のマヴォ運 動などに関わっている可能性があるんじゃないか、と話しておく。

 それから数回にわけて、ここのディレクターさんから電話がかかってきて、ついに電話口でその歌を私の母に歌ってくれないか、ということにまで発展する。いろいろと説明するが、しかしテレビの人というのは、今回に限ったわけではないがモノを全く知らない。マヴォ運動などはまあ、知らなくてもいいが、それに関わった人として名を挙げた田河水泡を知らない。マヴォの歌を採譜してレコーディングした巻上公一もヒカシューも知らない。逆に言うと、あまりモノを知っていると、一般視聴者の常 識と乖離してしまい、番組が作れなくなるのかもしれない。

 そんなこんなで、夕方からやっと書き下ろし原稿やりはじめ、数本を幻冬舎にメールしたところで時間になってしまう。7時45分仕事場を出て、タクシーで帰宅、すでにS井さん、H川さん、K谷さん来てはじめている。S井さんの持ってきてくれた『水神』という、大辛口の日本酒やりながら、仙台野菜の会。トマト、枝豆、トウモロコシ。トウモロコシは後で掻き揚げにしたやつも食べる。さらに昨日実験したタコス、長野のモモに生ハムを巻いたもの。普通はメロンだが、夕張メロンは後でデザートで。少し遅れてロフトプラスワンの斉藤さんも参加。韓国の法酒(日本酒のように米で作った酒に、薬草成分をミックスした酒)を持ってきてくれる。これが口当たり がよくてまた飲みやすい。

 途中で例のナイトスクープからの電話あり、母を出す。電話口で試しにと歌わされていた。結婚話などをいろいろしながら、メインである仙台キャベツのポトフ、釜揚げうどんまでペロリと。いつもより遅めの時間までワイワイと話し食べ、かつ飲む。雨は結局今夜中には降り出さなかったが、湿気凄まじく、汗で身体がベトつくので、シャワー浴びて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa