裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

ドクトル・オーバー悲しいけれど終わりにしよう

 特オタばなしはキリがないから。ちなみにドクトル・オーバーは特撮版『ジャイアント・ロボ』で安藤三男が演じた悪役です、非オタクの方々。朝6時45分起床、またいつもの日常に戻る。入浴その他如例、7時半朝食。セロリ、ニンジン、キャベツ 繊切り等にニンニクミソつけて。ポテトのポタージュなど。

 あだち充の兄でマネージャーだったあだち勉氏、18日に癌で死去していた由。赤塚不二夫のチーフアシスタントを経て、自分もかつてはギャグマンガ家として活躍していた。と、いうか、充の方はマンガ家になっても、絵柄がおとなしすぎてなかなかヒットに恵まれず、原作つき作品ばかり描かされていた。デビューが昭和45年で、初めてのヒット作『陽当たり良好!』の連載開始が昭和55年。芽が出るのに十年もかかっている。それに比べると勉の方は第一回のジャンプ新人賞出身という華々しい登場の仕方であった。二人兄弟の関係ではよくあることだが、兄は努力家というより天才肌、弟はコツコツとマイペースの努力家肌、というやつだったように思う。そして、天才肌の人間というのは気分屋で、自分の興味あることがコロコロと変わる。全盛期の赤塚不二夫につきあって山下洋輔やタモリなどと遊び回っているうちに、マンガよりそっちの方が面白くなってしまったのではないか。そのうち弟が『タッチ』、『みゆき』で大ヒットマンガ家になると、一時期広告代理店勤めをしていた経験を生かして、さっさと自分はマンガ家を廃業、弟のマネージャーとして有能ぶりを発揮する。だいぶ前のことだが、スポーツ新聞に連載されていた赤塚不二夫の交友録エッセイで、この勉氏が登場、スーツにネクタイをしめて弟のプロダクションの名刺を差し 出す姿に、赤塚は
「彼は彼なりに大変充実した毎日をおくっているようだ」
 と書き、
「だが、本当にそれで満足なのか」
 と、首を傾げていた。赤塚の世代には理解できないことだろうが、後の世代であるあだち勉にとっては、マンガによる自己表現は、自分の人生と等価にはなり得なかったのであろう。そして、ついでに言うと、デビュー前後が好調すぎた人というのは、どうしても、その後のねばりというものが不足しがちなのである。マンガ家としてたぶん最後の仕事は、弟の姿を描いた『実録・あだち充物語』だろうが、実録ドラマと しての人生でいえば、勉氏の方がずっと興味深い一生だった気がする。

 9時25分のバスでまた通勤。FRIDAYの四コマ、差し替えネタを送る。過激すぎるか、とちょっと思っていたが、気に入ってもらえたようで即OK。某社N氏から電話。いつぞや打ち合わせをしてからずっと連絡なく、ボツったとばかり思っていた企画が、実は進行していて、まとまりそうだという話。しかも、実際動き出すかもという時期が、聞いてみるとやたら早い。ちょっと驚く(ここには驚かされてばかりである)。スケジュールのかなりの調整が必要になるかも知れない。とはいえ、具体 的なことはまだこちらには何もわからない。

 弁当、早めに久しぶりにリビングの方で使う。味噌漬けの豚肉焼きとタラコ。仕事場と住居を分けてからとっ散らかっているばかりのリビングを少し(ほんの少し)片づける。1時、どどいつ文庫伊藤氏来。昨日の件を謝し、出版企画のことを少し打ち合わせる。途中電話が入る。出てみると、ミリオン出版のHさん。今日1時の打ち合わせだった。うわあ、と顔から血が引いた。伊藤さんの件でいっぱいで、こちらのことをコロリと忘れていたのである。とはいえ、いま伊藤さんが来ているのを放ったらかしで駆けつけるというわけにもいかない。三拝九拝して、来週に日延べをしてもらう。参った。伊藤氏には、お詫びの印に、お中元で某出版社から届いたカンヅメセッ トを進呈する。

 伊藤氏と入れ替わりといった感じで某氏来宅。ルノアールに場所を移して、しばらく話す。上に書いた某社の企画と、ちょっとからむか、という感じの企画の話。バッティングはしないようなので、こちらも進めておいていいと言っておく。来るときにはまとめて来るなと思う。ナンにしても、周囲がいろんなことで動き出してはきてい るという感じ。あとはヨタ話。

 4時ころ帰宅してメール見たら、文藝春秋F氏から原稿依頼。戦後のベストセラーについていろんな人間が語るという企画。私には多湖明『頭の体操』を受け持ってもらいたいとのこと。さすが、こういうヤツはこういう本にハマったろう、という目の つけどころが的確だな、と感心し、すぐ応諾の返事を出しておく。

 ゆまに書房のカラサワ・コレクション次回刊行作『黄金孔雀』の解説文にかかる。内容を三つにわけ、仮面論、島田一男論、女の子の夢論とする。これらをただ並列させるのではなく、有機的にからめてツナゲていくところが腕のふるいどころである。ガリガリと格が、ルノアールでの打ち合わせ(正確には馬鹿話の方)が長くなりすぎて、今日のうちに完成はさせられず、自宅の方のパソコンにメールしておいて、タクシーで帰宅する。K子が言うには、『UA! ライブラリー』の1から13までをまとめて注文してきたメールがあったので、“ああ、この人は最新刊の14で『にくしみ』が出たのを知らないのね”と思って名前を見たら、京極夏彦氏だったとのこと。『にくしみ』を進呈して気に入ったので、全巻揃えようと思ってくれたわけですね。

 9時、夕食。今日は家族のみ。冷奴、肉のミソ炒め、それから金成さんから頂いた明石のタコのスルメを使った桜飯。昨日に変わる今日の質素さよというところだが、家での飯はこれでちゃんとおいしくいただけるのである。桜飯のタコが柔らかく戻っていた。DVDで『アタックNO.1』第16話『おごれる英雄』。サッカー部の三田村というキャラクターが出てくるが、こいつが“バッキャロー”が口癖のナイスガイ。おごるこずえたちを諫めようと学校新聞に批判記事を書いた一ノ瀬に腹を立ててぶんなぐる。昔はこういう風に、体育会系と文化系のキャラがはっきり別れていたの で、ドラマが描きやすかったのだよなあ。

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