裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

水曜日

保守一徹

 なんだと飛雄馬、今回の選挙では革新に投票するじゃと? 許さん!(と、ちゃぶ台をひっくり返す)。朝7時15分起床。頭フラフラするのはゆうべの酒のせいであるが、悪い気分ではなし。夢で、ベギラマから“カラサワさんにちょっと紹介してくれって頼まれた人がいるので”と言われた相手から携帯に電話があり、それがどこかの教育関係のエラい人らしいが、忙しかったのでぞんざいな扱いをして切ってしまったら、春風亭昇輔から、“相手がどんなにエラい人かもわからないのに、そういう態度ではいけません”と説教される、という、キャスティングがわけのわからないもの を見る。

 入浴、上がってから体重を計ると64キロ、昨日朝より1キロ増。昨夜の暴飲暴食のせいであろうが、それにしたって、『メレンゲの気持ち』の頃は71キロ平均だった。昼を弁当にして外食を控えているのと、微々たる運動量とはいえ、通勤があるか らだろう。

 7時30分、朝食、キウリ・カボチャ・レタスのサラダ、ブロッコリのポタージュにピンクグレープフルーツ。通勤、8時19分のバス。車中、関口誠人『ホテル』を読む。このあいだの東京大会の後、笹公人さんを通じていただいたもの。1991年の角川文庫版だが、元本は1987年、CBSソニー刊。ホテルを舞台なりテーマなりにした10の短編を集めた連作集で、冒頭の『バイバイ・チェリーボーイ』は、あこがれの彼女とホテルの一夜を過ごすために頑張ってきた高校一年生の初体験を暖かく描いたスケッチ。ああ、こういう感じの短編集なんだな、と思って次の『テレビに首ったけ』を読むと、いきなりC−G−Bなるポップスグループが巻き込まれる地獄の生放送番組体験談という、楽屋オチ的スラップスティックになる。他にも怪談調のものあり、現在ではいささかヤバい内容の、エイズをネタにした近未来SFあり、かと思うと、〆切が近いと発展するストーリィも発展しない、と主人公がモノローグで言っている通りに話が発展せずに終わってしまう、という、メタ小説というか単なるヤケかと思われるものありと、よく言えばバラエティに富んだ、悪く言えばとっ散らかった印象の作品集。いずれもタアイない内容とはいえ、一旦読み始めたら最後まで読み切らせてしまうのだから、文章力と才気は大したものだ。ミュージシャンとか、タレントなどが書いた小説の強みは、この“軽み”にある。小説家たらんとして小説を書いている者の作品は、こういう、車中などで気楽に読むには重厚っぽすぎるので ある。

 暑い々々。仕事場に到着してすぐに発酵茶をガブガブ。鬱から躁に切り替わった状態だが、躁は躁でまた、いろいろ心の波立ちあり。要は、仕事は依然はかどらない。各所にお願いメールなど出す。雑用ばかりで時間が過ぎてゆく。昨日原稿をチェックした(書き忘れていた)『社会派くんがゆく!』、本日予告通りアップ。
http://www.shakaihakun.com/data/

 1時、渋谷井の頭通り『トゥルーサウス』でヘアカット。ここは客層が渋谷系の若い年代層から松濤の有閑マダムまで幅広い。そういう人たち全てに会わせて会話が出来る店員の皆さんというのはエラい、と感心する。技術が上手いだけでは客がつかない、というのはいずこの業界も同じ。客扱いがモノを左右する。文章書きもここのところよく考えるべし。帰宅して弁当使う。 肉じゃが。

 冷房をいくら入れても、仕事机のところに陽があたるので暑くてたまらぬ。寝室に非難して、そこで資料本を広げていたら、すぐグーと寝入ってしまった。これはイカンと起き出して、3時に家を出て、神保町へ向かう。頼まれていた買い物を、カスミ書房Yさんに手渡すため。幸い在店、こないだの東京大会の話しばし。出演者のテンションが、出てから次第に上がっていく、という指摘は面白い。山本会長などにそれが顕著で、『ちんつぶ』に評が集まったのも、後からの候補外作品の紹介の方でテンションが最高に達したせいではないか、と。開田さんとのトークライブの企画につい ても、あ、そうかと膝を叩くレクチャーいただいた。

 しばらく話して出る。カスミ書房さんはこのあいだから、表通りからひとつ中の方に引っ込んだ通りに店舗を移したが、この通り、カスミさんの他にも一店丸々時代劇専門の海坂書房とか、貸本マンガ系が充実のくだん書房とか、カルトな古書店さんがいくつも軒を並べている。そのうち、名物通りになるのではないかと思う。くだん書房さんで本を眺めていたら、さっき会ったばかりのカスミ書房さんが、発送の際の詰め物に使う新聞紙を借りに入ってきた。数冊買い求めて、××××円。

 買い物して帰宅。メールで連絡数本。畸人研究の今さんこと某受験雑誌雑誌編集長Iさんより、高校特集で札幌光星について書いてくれ、との依頼。まさか光星についてこの歳になって文章をモノするとは思わなかった。それから日経エンタからは電話で、インタビュー依頼。“作家のストレスについて”という、まさに今の私にドンピシャの依頼で、西手新九郎……と言いたいところだが、電話してきたライターのKさんは井上デザインの奥さんだから、この日記も読んで依頼してきたのかも知れぬ。

 9時半までダラダラして、いやいたわけではなくアレコレ動いていて、結果ダラダラしていたのと同じような仕事量。何なんだこれは。タクシーで参宮橋、くりくり。破裂の人形氏を呼んで、このあいだ薩摩揚げ貰ったお礼とする。ビールとワイン頼んで、いろいろ食べながら雑談。K子が今日はまた、いやに言葉にケンがある。普段ならまったく気にならないところだが、体力落ちて神経が過敏になっていると、こういうのがかなりこたえる。ルンピアにガーリック・スープ(夏バテ防止)、タルタル・ステーキにひな鶏半身、さらにチーズライス。母はその上に“私、ピッツァが食べたいわ”と言ってゴマ入りのを食べていた。K子が語学教室で仕入れてきた、ちょっと他言をはばかる噂話あり。なかなか面白い。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa