裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

火曜日

シンセいろいろ

 シンセいろいろ、電子楽器いろいろだ!(小泉純一郎・談)。朝、丸刈りになる夢を見る。何の隠喩だろう。バーでパイデザ夫妻とK子と飲んでいたら、そこのホステスが酒のかわりに電気バリカンを差し出して“いかがですか?”と言うので、丸坊主にしてもらう。丸坊主になった私は、かたおかみさおのマンガのキャラクターみたい な絵で、なかなかカッコよかった。

 朝食、スナックエンドウ、レタス、焼きカボチャを、昨日モモちゃんに貰った唐辛子味噌をつけて。うまくて、暑い日の食欲のない胃には最適だが、そのかわり食べた直後からもう、汗が噴き出てくる。昨日の“おれんち”でも出た話題だったが、22日の日記で書いた、散歩するミドリガメ、行方不明になったらしく、道筋の家に“亀探しています”の張り紙があった。ミドリガメの中でも大型のミシシッピアカミミガ メだそうである。

 仕事場到着、さっそく『フィギュア王』原稿にかかる。ベギちゃんこと牧沙織からメール届く。このあいだ桐生さんの『物魂』を送ったので(登場人物のモデルの一人と彼女は顔見知りなのである)そのお礼かと思ったら、それもあったのだが、陣痛が来て、これから病院へ行ってきます! とのことで驚く。たぶん、と小栗ちゃんに問い合わせてみたところ、うわの空のメンバーたちのところに送りまくっているようである。今や人は自分の出産を周囲に実況できるようになったということか。ここらへん、かつてのドンキホーテ・ライター時代のベギラマを彷彿とさせてちょっと嬉しく なる。まあ、病院は携帯禁止だからそうもならんだろうが。

 12時半、フィギュア王原稿完成させメール。それからちょっと最近停滞気味の、某企画に関して問い合わせメールして、連続してFRIDAYの夏増刊スペシャル用の原稿を書く。書いて一休みして弁当を使う。シャケの自家製ミソ漬け。うちは北海道住まいが長かったのにあまり北海道的な食べ物(ジンギスカンとかホッケとか)を 食べない家だが、シャケだけは別格でよく食卓に上る。

 食べて一休みしていたらWeb現代Yくんから原稿進捗具合問い合わせ(催促、とも言う)メール。そろそろ次の企画(朗読コンテンツ)の件も具体的に、と話す。こちらはスムーズにいけるようで気が楽である。それでは、と、すぐ間を置かず書き出し、4時半に完成させてメール。その間に、みずしな孝之さんから誕生日祝いを送ったお礼をメールでいただいて、返事を出したりなんだり。で、ふうと息をついて、また次の原稿。何か今日は凄い。『漢字天国』コラム、これまたバキバキと書く。四本目ですよ。資料調べるのにちょっと時間かかったが、これも7時過ぎには完成させてメール。

 ここまでで今日書いた原稿総字数、9520文字(原稿用紙29枚弱)。さてここから、とさらに書き下ろし原稿にかかる。ただし、これは以前書いたメモに手を入れる作業だから楽。ではあるのだが、それでも結局、ほとんどをだだだとメモ見ながら書き下ろしていくというのと同等の作業量になった。書いている最中に、ミリオン出版Sくんからメール。読んでみると、先日来進めていた『GON!』のサブカル誌へのリニューアルが、シュリンクがけをしたエロ本版のものが、予想に反して大変に売り上げをのばしたために“これならエロで出し続けていればいいじゃないか”という営業の判断で、取りやめになった、との報。ナンダイソリャア、である。

 連載企画とか巻頭企画とか、いろいろ関わることで進めていたのだが、これらはまだ企画検討の段階だったのでまだいい。しかし、イラストレーターさんだの、取材先だのに、とりあえずスケジュール押さえだけでもと連絡してしまっている。これらに対し、顔がツブレるのはこちらである。“そういう事情で”だけで済まされる問題ではないだろう。こっちの信義の問題にもなる(とりあえずサブカル版『GON!』も一冊、特別号で出すそうで、ティーチャ佐川さんのインタビューなどはこちらで出来るからいいのだが)。急いで電話かけてみたが、まだSくんもさっき聞いたばかり、というようなことでラチがあかない。編集長のHさんに伝えておいてくれるよう依頼しておく。そしたら追いかけでHさんから電話あったが、こっちはもう決定済みという感じでとりつく島もなし。なんか納得できない形で電話を切る。『GON!』は関わる人間の多い雑誌でもあり、若いライターなどはそこの連載を生活の道とアテにし ていた者も多かろう。こう朝令暮改では致し方ない。

 ……と、まあ、腹立たしくはあるが、しかし一方の目で見れば、シュリンクかけたエロ本がコンビニでこれまでよりも売り上げを伸ばした、ということが興味深くもある。かつてのビニ本ではないが、人間、エロに関しては、中に何が載っているかわからないという事実で、かえって好奇心が増すのである。これはエロというものが、モデルの顔の善し悪しなどはあっても、男性にとり、趣味がそれほど偏っている人間でない限り、それほど大ハズシはしない分野だからかもしれない。自民党政治に飽きた選挙民が民主党に票を投ずるようなもので、要は“どうせやることは変わらないのだ から、ちょっと未知数の方に賭けてみよう”という心理が働くのではないか。

 そんなことをダラダラと考えながら書いた書き下ろしの原稿を読み直してみて、さすがに文章が荒れているのが気になったので、一本だけとりあえず送り、後は明日のこととして帰宅する。このところ、いつも原稿をギリギリまで書いているので、帰宅はタクシーが多い。9時15分、夕食。こないだのポークビーンズのソースを利用してタコス、シャケのムニエル、モモちゃんからいただいた唐辛子味噌でキウリとトマト、それからNHKのYくんからのお中間のさぬきうどんを釜揚げにして。この釜揚 げが大変に旨い。うどんの滋味が舌に染みる。

 DVDで『アタックNO.1』第20話『許されざる特訓』。絵がもう、ひどいことになっていてギャグマンガみたいである。それから『みんなのうた』。みなみらんぼう作詞作曲の『ちっちゃな女の子が泣いています』。この歌、同じ作者の『僕は三丁目の電柱です』という東京電力のCMソングとメロディーラインが似かよっていて歌っていると必ずゴッチャになるのだが、静かなメロディーに比して、歌詞が凄まじく不安をかきたてる。団地の階段で女の子がずっとお母さんの帰りを待っているのだが、日はかげり、暮れ、夜になって星が出てもなお、お母さんは帰ってこない。月岡貞夫のアニメは、時間がたつに連れ周囲の情景が次第に不条理なものに変化していくという、女の子の不安を具象化したものになっていて秀逸。で、最後で女の子の顔が輝いて、お母さんがやっと……というオチになるのだが、歌の方はとうとう最後まで帰ってこないで、“ママは帰らないかわいそう”で終わるのだ。これを聞いて恐怖した子供たちも多かったのではないか。……まったく、トラウマソングの宝庫だな、こ の『みんなのうた』は。

 焼酎のレモンペリエ割で四杯。『みんなのうた』でもう一曲、『キャッツアイ・ラブ』を繰り返し聞く。これはトラウマというよりマイ・フェイバリット・ソングなのだが、所持しているレコードでは歌手が山田康雄&キャロライン洋子であり、これで繰り返し聞いていた。放映時のオリジナルは柳沢真一&キャロライン洋子。歌としては柳沢真一の方がそれははるかに上手いのだろうが、ちょっとこの曲にしては、再聴した限りでは、柳沢の歌い方は堂々としすぎている。夢の中の海岸通りで、宿無しネコとおじさんが出会って恋に落ちるというファンタジックな歌なのだから、もう少しフンワカとした歌い方でいって欲しいところで、そこらへんはレコードの、どちらかというと頼りない歌唱力の山田康雄版の方が雰囲気が出ていたように思う。と、まあマニアはうるさいことだ。

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