裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

土曜日

演歌ナトリウム

 控えろとるなと言われても
 お前がなければもの足りぬ
 高い・高い・高い血圧 動脈硬化〜
 医者も女房も怒るけど
 食塩だけは手放せぬ
 塩味好きな男の意気地〜。
 朝、3時に目が覚めて、ノドの乾きに水一杯、飲んでまた寝る。入浴など済ませて7時半、朝食。ニンニクミソでレタス、キウリ。キウリは仙台のもので、能登の、外皮がツルツルしてウリみたいなものとは正反対の、ニガウリかというほどにイボのつ いたもの。トマトの冷ポタと共に。

 曽我ひとみさんとジェンキンズ脱走兵のキッスシーンが朝から何度も何度もテレビで流れる。実際はこれで北朝鮮は拉致問題の幕引きをねらっているわけで、日本人としてこれをヨカッタと言ってはいけないように心を引き締めてかからなければいけないのだが、テレビというメディアは、ああ、再会できてよかったねえ、と、どうしてもイメージがソコ止まりになってしまう。いくらコメンテーターがコンナもので国民を釣るのはけしからん、と怒っても、視聴率を上げるためには放送せざるを得ず、新聞もその場面の写真を掲載せざるを得ず。結局われわれは表層的イメージの奴隷なのであり、逆に言えばそういうイメージからものごとを説き起こしていかなければ、社 会というものは語れない、ように思う。

 今日も暑い。気分を変えて地下鉄で通勤。新宿で少し買い物をしてから、タクシーで渋谷へ。メールを関係各位にいろいろと出す。11時半、参宮橋『道楽』でミソノリラーメン。汗をかいて塩分が体に不足しているせいか、きわめて美味しく感じられる。食べ終わって、初台駅まで歩く。かつてレディースバブル期に住んでいた参宮橋マンションの前を通る。あの頃この入り口の前には、いつでも発車できるように運転手が乗り込んだ、黒塗りの外車が停まっていた。持ち主が遊びに行きたくなったときに、すぐにでかけられるよう、エンジンかけっぱなしで常駐させていたのである。退屈そうな運転手が可哀相だったし、無駄なことをするものだ、といつも思っていたのだが、その持ち主の女性の名を聞いてアア、と納得したことであった。現在彼女は某 トップアイドルの奥さんをやっている。

 都営線で半蔵門まで。今日は古書会館の古書市は休みなので(七夕入札会)、個々の書店さんで少し資料を買い物。80年代前半のエロ本などを収集。うーむ、やはりこの時期というのは、私自身が本当にこれらのエロを実用にしていた時代なので、懐かしいというかやるせないというか。今みたいにエロ本のモデルがアイドル化しておらず、どこかにうらぶれた影がある子ばかりで、それでもその前の70年代とかに比べればはるかにモデルの質が向上し、“つくづくいい時代になった”などと喜んでいたのである。ちんちんの先っちょに指でちょんと触っている『E.T.少女』という のがあって抱腹絶倒。時代ですねえ。

 そういうのばかりでなく、真面目な社会学の本なども購入して青山まで地下鉄で。そこからタクシー。乗ったとたんに雨がパラつき出す。帰宅してひと休み、5時に時間割。土曜の打ち合わせは珍しい。ミリオン出版Hさん。先日(あの新幹線が止まった大阪から帰った翌日)スッポかしてしまったやつ。『GON!』がリニューアルするというので、それへの参加依頼であった。巻頭特集のスタッフに加わって、10月 から数回、なんかいろいろやることになる。

 打ち合わせ終えて、扶桑社『トンデモ本男の世界』、すでに植木さんなどはゲラ校正などもやっているらしい本の、原稿を一本。書き上げてメール。時間を見ると、すでに8時45分。あわててタクシーに飛び乗って帰宅。今日は井上の薫と真琴がそれぞれカレシを連れてやってきているのであった。豚肉入り春巻、ガーリック・ステーキに同じくガーリック・ライス。結婚ばなしなどになり、
「俊一兄さんは晩婚というイメージだったけど、考えてみれば二十代で結婚したんだよねえ」
 と言われる。まあ29ではあったが、周囲のオタクたちに比べれば極めて早い方。昔から老けキャラだったので、独身時代がやたら長いように思われているのだろう。薫の彼は青林工藝舎の志村くんに似ている、とK子が言う。真琴の彼はアメリカ人だけあって、デザートに母が作ったカスタード・プリンのホイップクリームかけを嬉しそうに食べていた。彼に言わせると、日本のお菓子というのはさっぱり甘くなくってお菓子じゃないみたいだそうだ。

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