裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

日曜日

カマの大魔人

 ア×ルストッパー新製品の商品名としていかがか。朝7時起床。夢の中で、白黒の古いヨーロッパ映画を試写室で見ていた。三人娘の出てくるコメディ作品で、大変にいい出来。日本公開のタイトルをどうしようかと相談されて、三人いるんだから『君の瞳は祖・庸・調』というのはどうか、とか提案する。なんだそれは。あと、かなりグロなアニメ(これも古物)も見た。私が夢の中で見る映画作品はどれも古いものば かりで、しかも凄まじく面白い。

 朝食、トウモロコシと枝豆。それとお馴染み二十世紀。『アバレンジャー』、今回は花嫁をさらう怪人が登場、主人公たちの仲間が花嫁とその父親に変装して囮になるのだが、父親になる奥村公延が“じゃあ、生誕100年記念・小津安二郎でいきますか”と言い、いきなり小津映画のあの布地の上に文字が浮いているタイトルになり、花嫁姿の娘が嫁入の朝、モーニング姿で茶の間にいる父に別れの挨拶をする、というシーンになる。奥村公延が笠智衆の物真似演技でもするか、と思ったが、そこまではしなかった。……とはいえ、誰がこんなパロディわかるのか。よく、スタッフが独りよがりなパロディを入れたときの批判に“子供にわからないギャグを入れるな”というのがあるが、小津安二郎なんて、子供どころか一緒に見ている親にも(今の20代なら、まず、ほぼ9割以上)わからないだろう。ここまでやるのは、むしろ数年後、十数年後に本物の小津映画(『晩春』でも『秋刀魚の味』でも)を見たときに、
「ああっ、この場面はあのときの……!」
 と、今テレビの前にいる子供が仰天することを見越したギャグなのだろうか。七年殺しみたいな技である。ちなみに、小津映画を紹介しているファンの研究サイトがあるが、ストーリィ紹介が“また、娘が嫁にいく話である”“例によって、娘が嫁に行く話である”などと、ファンであってもさすがにいささか辟易している様子がうかが えて、笑える。

 日記のみ、つけて、10時、家を出る。山手線で高田馬場、そこからタクシーで早稲田グランド坂。と学会例会であるが、いきなり会場入り口に『外観といじめ』と書いた看板が掲げられている。他の会議室で行われるセミナーのタイトルだが、オタクたちにはイタくないか、この題名。早めに到着してしばらく外で待つ。IPPANさん、眠田さん、皆神さんという順で来て、事務室に会場のカギを貰い、机を並べ替えて、誘導看板を出して、というような設営を行う。招いていた西原さん、高須院長父子、案外早めに到着。ロビーで少々待ってもらう。親子でと学会に参加したのは(植木不等式さんが以前、子供連れで来たことがあったが)高須父子が最初ではないか。

 西原さんと少し雑談、お父さんの方の高須ドクターの、お若いことに驚く。しかも彼女のマンガにあるように常にハイテンション。息子さんはお父さんに“いや、違うんです”“はい、そうです”という口調で答えている。親子の会話の口調と思うといささか奇妙だが、ハイテンション型人間とローテンション型人間の会話と考えると極めてなっとく。ゲストで来たスズキくんが真っ先に西原理恵子の元に飛んでいって、サインを貰っていた。後で見たら、色紙の端っこが点線で囲われていて、“高須クリ ニック利用割引券”と。

 例会、場は変われども人は変わらず、いつもの通り、いつもの盛り上がり方。最初にこの会場を提供していただいた早稲田のK先生から、この会場を取るにあたっての提出書における会の内容についての解説、“マルチメディアコンテンツの社会における受容と影響……”てなものだったとか。まあ、決して間違いではない。その後会長からはじまって、皆神さん(懐かしや、あの『念力家族』が本になったのを紹介)、植木さん、私、それから藤倉さん……と、連続して。藤倉さんがダイヤモンドに霊力がある、という内容の本を発表。その証拠に、著者はダイヤを仲立ちに最高のパートナーに恵まれた……と書いてあり、それが共著者の女性のことなのだが、これが不倫関係。まだ奥さんは離婚に応じてくれていないそうだが、その著者の名を聞いて、志水さん(おお、今日はそう遅刻していない)が、奥さんは音楽評論家のY・Rさんで すよ、と指摘。これにはみんな机の端を叩いて
「へぇ〜!」

 あとはもう、一々記憶していられないくらいのネタの洪水。ネコ関係の本が多く、そのいずれもが愛情が行きすぎてネコには迷惑だろう、といいたくなるもの(ネコにスター・トレックの衣装を着せるとか。私もネコのペインティングの仕方、なんて本を持ってきたのだが)が多く、植木さんが“食べ物を粗末にしてはいけません!”と言うのに爆笑。お名前をまだ存知あげないのだが、ゲスト参加された方で、エロネタ をニコリともしない口調で発表した人がいて、このキャラクターに感心。

 休息時間が来たので、西原さんたちの席のところにいき、“どう、こういうの?”と聞く。豪放な彼女などにはこんなオタクな集まりはどうかと思っていたのだが、満足したようで“いいですねえ、どれもツボ”とのことで、いささか安心する。そして後半に入り、いよいよ高須クリニック長男、R也氏の発表。自分がと学会例会に参加できた経緯などを説明した後、いくつかオタクグッズ紹介。そして、今回のために、わざわざ父の高須氏が金を出して、プロの脚本家を雇い、プロのビデオクルーを雇って、プロのナレーターにナレーション入れさせ、これだけはプロでない高須R也氏にレポーターをやらせた、大阪・来迎寺につたわる幽霊の足跡を追ったビデオを発表。
「これは、父の雇ったライターさんが書いたもので、私は出演しているだけです」
 とのことだったが、いったい幾らかかったのか、と見ていて仰天。こういうものを息子のために(息子の趣味のために)作らせる父、というのが本当にいるんだねえ、 と驚嘆した。

 今日は何故か時間が余り、追加発表。私も午前中にし損ねたネタ二つほど発表。他の人達のネタの中で、本郷ゆき緒さんの、台湾版『お兄さまへ……』の話が大変に興味深かった。これは昭和50年代に出た海賊版なのだが、その後出版された正式版のものよりずっと翻訳が上等で、日本語と台湾語をどちらもネイティブに使いこなせるクラスの人間が訳していると一目でわかる出来であり、中には池田理代子の原作を台湾コードで改変している場面が、そのセリフの巧みな改変故に、原作以上にいいシーンになっているところもある。その理由が、昭和50年代前期までは、日本統治時代に日本語を学んでいた世代がまだ現役にいて、彼らがお小遣い稼ぎに翻訳の仕事に手を染めたりしていたせいである、という分析は、まさに早稲田大学で発表するにふさ わしい、アカデミックな内容を伴ったものであったと思う。

 なんとかそれで時間も埋まり、二次会会場へと場を移す。西原と高須父氏は帰り、息子高須氏のみが参加。高須氏には会員のイットリウム氏が脇について、いろいろとレクチャー(?)してやっていた。開田あやさんからオタクホストくん(確かにコスプレが似合いそうなかなりの美形)の写真を見せてもらったり、皆神さんから、全部前半を聞いただけで答えるので家族から“お父さんは『トリビア』見ているときは向こう行ってて!”と排斥されている、という話を聞いたり。志水さんの席に植木さんがやってきて、志水さんが今日発表した文献についていろいろ質問していたが、この二人が並んで座ると、なにか重量級肉弾戦というか、ハッピー・ハンフリー対ヘイスタック・カルホーンというようなおもむきになる。そうそう、デブで思い出したが岡田斗司夫さんも二次会には顔を出して、雑談に加わっていた。何もデブで思い出すことはないが、あれだけ達成したダイエットも、何かほとんどリバウンドしてしまった ような気が。

 二次会場はこないだ下見した『土風炉』だったが、さすがに料理は一品で頼んだときのものより落ちる。おまけに日曜で忙しいらしく、店員のお姉ちゃんがマジギレ寸前といった風。それをK子がつついたりするので、二次会担当のIPPANさんは可哀想に、いろいろ気をつかってヘトヘトそうだった。彼の発表した、たがわ康之の狼男の寿司屋(普段はダメ男だが、満月の夜になると最高の寿司を作る)のマンガは最高にバカバカしくて笑えたのだが、これは二次会には関係ない。

 雑談果てもなく、10時、お開き。原田実氏に一本締めをお願い。高田馬場駅から新宿へと。以前の白山とかに比べるとさすが、都心で近い。あやさんが開田さんに電話したら、家の冷蔵庫が壊れたとのこと。人の不幸が生き甲斐のK子がまあ、と目を輝かせた。帰宅して、シャワー浴びて寝る。朝起きをしたので疲れた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa