裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

火曜日

上沼恵美子のマキャベリクッキング

 今日の料理はお芋のニッコロがしです。朝、7時40分起床。朝食は昨日と同じ生ベーコンとトマトのサンドだが、梨は例の1000円の千疋屋二十世紀。さすが、歯ごたえのシャリシャリ感と、ジューシーさは値段だけの価値アリ、とK子大喜び。

 新聞に訃報記事が二つ。チャールズ・ブロンソン81歳、穂積由香里(『積木くずし』のモデル)35歳。穂積由香里に関しては、やはりドラッグで肉体を痛めつけると早死にするなあ、という感想。父親の穂積隆信自身が、『積木くずし』ブームで金が入って、すぐに女をこさえてしまったりして、俳優だから仕方ない部分があるとはいえ、父親としては失格(俳優としてはかなり好きな方なのだが)だった。本人があまりに強く父親への反発心を持ち、自分を破滅させることで復讐を遂げた、という感じがして仕方がない。これは私見だが、親子が徹底して反発しあってしまった場合、娘と母、息子と父という組み合わせはまだ後に修復が効くけれども、娘と父、息子と母というのはもう、骨がらみで一生どうしようもない場合が多いような。手元にある『キネマ旬報日本映画俳優全集』79年版の、穂積隆信の項目の末尾“65年結婚、 一女あり”の記載が悲しい。

 チャールズ・ブロンソンに関しては、もう81歳か、と驚き、マンダムのCMをわけもわからずに真似していたあの時代の遠く去ってしまったことをしみじみ想う。それにしても、どうしてあの当時の日本人は、ああまであのCMにハマってしまったんだろう? 今から思っても異常な浸透の仕方であった。醜男であってもカッコいい、という存在がいることを、日本人が初めて知った(いることは理解出来ても実例がなかった)、その文化的ショックなのかも知れない。その一点で、クリント・イーストウッドだとか、ポール・ニューマンだとか、スティーヴ・マックイーンだとかとは比べ物にならない強印象をわれわれの世代に残していった俳優なのである。アラン・ドロンとの共演が有名だが、もう一人、彼とは名コンビだった俳優がヴィンセント・プライスで、『肉の蝋人形』『空飛ぶ戦闘艦』で共演しており、『空飛ぶ……』では頼りになる男役だったが、『肉の……』ではマッド・サイエンティストならぬマッド・アーティストの唖の召使い役、名前がもう、そういう役ならこれ以外ないでしょうと いう、“イゴール”であった。

 光文社文庫『江戸川乱歩全集』巻末エッセイのゲラチェック。原稿書いてメールしたときにはまとまりのない駄文にしか思えなかったが、こうして文字稿になったものに手を入れるとまずまずのものに思えてくる。もっとも、今日は仕事らしき仕事これだけ。気圧のせいにしちゃいけないとは思うが、本当に、ナニをやっていてもそのまま眠ってしまいそうで、どうにもならない。せめてネットでなにか有益な情報を仕入れよう、などと思っても、『バジリスク 甲賀忍法帖』のせがわまきのサイトの水着板(夏なのでキャラクターをみんな水着姿にさせたイラストをファンがお絵かき掲示板にアップしている)などという心底どうしようもない(褒め言葉)ものを、えへら えへらと眺めて時間を過ごしてしまったり。

 古書の代金払込もしなくてはいかん、神田陽司の真打昇進パーティへの参加の返事も出さねばならん、今日のインタビューの資料読み込みもしなければいかん、なにより〆切をとっくに過ぎているWeb現代の原稿を書かねばならん、と心ではいろいろ 思いつつも体が動かないというこのつらさ。

 1時半、東武ホテルロビーで『SPA!』編集Iさん、ライターのKさん他と待ち合わせ、時間割に移動してインタビュー。さっきざっとネットで拾って、これをもとに話そうと思っていた資料を全部忘れてきたので、頭にあることだけでなんとかやりくりして話す。陰謀論の作り方、みたいなこと。時間割の階段のところで写真撮る。後から“目の鋭さに圧倒されました”とメールが来た。私は鋭い目をしているわけで はない。目つきが悪いだけである。

 帰宅してメールチェック。フィギュア王からゲスラについての原稿依頼。原稿依頼というのもいろいろあるが、“ぜひゲスラに対する思い入れなどの原稿をお願いできませんでしょうか”という注文をしてくるのもこの雑誌ならでは、うけるのも私ならではであろう。原稿をとにかく片付けねばと、マッサージ予約はキャンセル、家での 食事もキャンセル。

 講談社原稿、とにかくふんばって書くが、2/3書いたところでダウン、寝転がって太田出版『人はなぜ異星人(エイリアン)を追い求めるのか』(ジョエル・アカンバーク)読む。こないだの『太りゆく人類』もそうだったが、向こうのジャーナリストの、インタビュー中心のレポートは読んでいてくたびれる。怠惰な我が身に比べて その精力的な取材のありさまに圧倒されるからであろう。

 8時半、下北沢『虎の子』。いったら元・店員のジャイアン氏が友人といた。またハーレーを買って、受け取りに東北まで行ってきたそうだ。こないだバイクでコケて骨折したばかり(まだボルトが入っている)というのにマニア道盛んなる哉。真鯛のカルパッチョ、地鶏焼き、自家製イクラ醤油漬けなどで、こないだ野菜会のときに持ち込んだ“豪放磊落”の残りをジャイアンさんたちにもふるまって。グルメばなしたくさん。三河島にかなりの質の焼肉屋を発見したとのこと。途中からジャイアン、かなり酔っぱらってきて、彼女とフケる。残された友人氏(ライターさん)と、犬を食う話になって盛り上がり、デハ今度大久保へ行こう、てなことをわめいて。この奇妙なノリの酔っぱらい方はやはり気圧酔い。ジャイアンも体にメスが入って、気圧の影響を受けやすくなっているんだろう。

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