裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

木曜日

お前なんか三時前

 この宵っ張り野郎め。朝、5時に目が覚めてしまい、かと言って本を読む気にも、ネットをのぞく気にもならず、無聊のままぼんやりと時を過ごす。冷房を切っているが、それでも涼しい。7時半、起きだして朝食。トウモロコシとカボチャ、カリフラ ワ等のスチームをちょっとづつ。果物はスイカ。

 植木不等式氏の日記のシャレはチカチーロ。読んで、落語の『よかちょろ』のパロディで『ちかちろ』というのはどうかと思いつく。“露助ながらも殺しの時は、ハッハ、チカチロ、人が変わりてシリアル・キラー、チカチロスーイのスイの、ペドして殺(や)っちょる、味ょ見てチカチロ、しげちょろパッパ……”誰がわかるか。

 ウダイとクサイが射殺された、という報道にはふうん、という感じで心もまったく動かなかったが、邸内に米軍が廷内に突入したとき、最後の生き残りであったクサイの14歳の息子が彼らに向けて銃撃を加え、米兵の反撃で射殺された、という産経の記事にはちょっと衝撃を受けた。と、言うより率直に言うと、感動したのである。日本で言えば中学三年生の少年が、父と共に戦い、父を殺した敵兵に、せめてもと一撃を加えて射殺される。例え父が悪人であれ賊であれ、親子の死に方としては最もドラマティックなものであろう。こういう死に方をする少年がいない国は平和で幸福である。しかし、そういう平和な国に、幼児の性器をハサミで傷つけた挙句にビルから投げ落とす12歳の少年が出現する。平和々々と人は唱えるが、では平和とはいったい何なのか。平和でありさえすればいいとだけしか考えず、われわれは平和の“質”をこれまで問うてきていなかったのではなかったか。……と、チカチロの替え歌を作っ た同じ頭でそういうことも考える。

 午前中からずっとWeb現代原稿。今回は外に出ないで書ける原稿。10枚弱を2時間半で。もっとも、その間に昼食をはさむ。金沢丸一からのハチバンラーメン、これで最後の一玉。キュウリ繊切り、掻き卵、それとOTCからお中元のハムの千切りを具にして冷やし中華。そう言えば北海道では昔は(少なくとも私の子供時代は)、一般には“冷やし中華”という名称は使わず“冷やしラーメン”と言っていた。ラーメン王国北海道ならではのこだわりだろう。高校生になると、これがイヤで私は断固として冷やし中華と呼称していた。大学に入ったら上京して、『全冷中』に入会するのが夢だったのである。タモリや山下洋輔がカルチャー・ヒーローという、純朴な東 京(新宿・赤坂方面限定)あこがれ少年だった。

 原稿書き上げ、少し休む。今日は植木氏、太田出版H氏と会合であり、たぶん夜が遅くなるであろう故、寝不足を解消しておこうと思ったのである。洋雑誌数冊持って寝床に横になって拾い読みしてたら、そのまま沈没。3時半に目が覚める。4時、時間割にて村崎百郎氏と『社会派くん』対談。もう、ネタが多すぎて、“あれだねえ、農家が出来すぎたキャベツをトラクターでひきつぶしている写真とかを見て「もったいねえなあ」とか思っていたけど、こうネタが多いと、ああいう気持ちわかるねえ” と話す。

 対談内容は後日更新されるサイトを見ていただきたいが、村崎さんも私も、鴻池大臣の例の暴言、最初の“市中引き回しウンヌン”は否定、その後の渋谷監禁自殺事件の“どっちが犯人かわからん”発言は大いに肯定、と、別にあわせたわけではないがピタリと符合したのにはちょっと驚いた。長いこと対談をやっているので、思考のパターンがお互い合ってしまっているのかも知れない。対談途中、MD録音機が故障してしまい、編集のKくん、急いで“テープレコーダー買ってきます”と店を出る。ほどなく、“ナカヌキヤにありました”と戻ってきたが、その待っている最中、村崎さんと私が、雑談を交わすでもなく、お互いにニヤニヤしながら、時折話してもボソボソという感じで、居心地悪く押し黙っていたのが可笑しかった。どちらも、ここで雑談して、エネルギーを放出してしまって本番のテンションが下がるのを怖れていたの である。

 6時半、終わって外へ出る。一旦家に帰って汗になったシャツ(気温はさして暑くないが湿気がひどい)を着替え、7時、『船山』へ。太田出版Hさん来ていた。やがて植木不等式氏、K子も来て、と学会東京大会2004に関する打ち合わせ。もっとも、打ち合わせは太田の協力体制のこと、それから次回の物販のこと、今回の反省点等のことなどについて、最初の三十分くらいで終わって、そのあとはトメドもない雑談大会となる。植木氏の日記などを読むと、さすが氏の主催する飲み会は教養人の清談といった体で、会話も極めて知的ユーモアに富んだ馬鹿話という感じであるが、私はやはり裏者で、地べたを這いずる知人友人有名人の噂真的ゴシップというあたりの方が、酒がうまく飲めるタチなのである。基本がこないだの立川流同人誌の座談会みたいなトコロにあるわけだ。まあ、もっとも、マトモな話も少し。河出『なぜ怪』の永瀬さんの原稿が力がいい具合に抜けていてトテモいい、とか。

 今日はK子が飲食予算に関して船山のご主人と徹底してメニューなどを組ませたらしく、“いつもお世話になっているから”と、カニがサービスについた。これが甘くて実に美味。お造り、イチジクのごまだれ椀、牛肉の石焼き、イカとトウモロコシのかきあげ。最後は稲庭うどんかお茶漬け、というので、それよりアヤメ米のうまさを植木さんに味わってもらいたいから、と白米のご飯にしてもらったが、どうもお茶漬けように、固めにご飯を炊いていたらしく、そのまま食べると(アヤメ米にしては、 だが)少しバリバリした。失敗々々。

 K子はそこで帰ったが、飲み足りないので植木氏、H氏さそって花菜へ。焼酎そば湯割り飲みつつ、またもや悪趣味なゴシップ多々独演する。我ながら好きだねえ、どうもという感じ。聞いていた二人も呆れていたかもしれないが、個人的には大変に楽しかった。ネタにされた文壇人諸氏にはまことに申し訳ない。最後にもりそば一枚すすりこんで、1時半頃帰宅。

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