裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

月曜日

「水木先生の家に落ちた爆弾は破裂したのかい?」「不発(ふはっ)!」

『笑点』みたいだな。朝、7時15分起床。昨日最後に日本酒飲んだせいで頭がちとピンピンと痛むが、おかげで朝からの凄まじい雨でも、かえって神経はシャッキリしている。朝食、トウモロコシ、カリフラワ、カボチャを少しづつスチーム。ゴールデ ンキウイ。

 昨日、早稲田通りを高田馬場に向かって歩いていて、“昔、この辺に名画座があったよねえ……”と話していたら、なんとそっくりそのまま、という形で早稲田松竹が残っていたのに驚いた。確か、閉館したという話を聞いたが……と思っていたのだが調べてみると、02年の3月に閉館したのだが、復活を望む早稲田の学生やOBの声で、その年の12月に再開を決めたらしい。私が通っていたころは確か、スクリーンの両側に花が飾られている、古びて汚れてはいるが、しゃれた映画館だった。キュー ブリックの『博士の異常な愛情』とかを、観た記憶がある。

 若い頃通った店や、映画館や、劇場や、そういうところがのきなみ無くなっていくのは本当に寂しいが、しかしまた、これが全部残っていて、若い頃の自分の愚行や悪行の記憶が全部、そこに濃縮されていたら、ちょっとたまらないだろうな、とは考える。以前(もうだいぶ以前)、浅草東宝のオールナイトに十年ぶりくらいに出かけたら、そのエレベーターの上に飾られている造花までが昔のまんまで、懐かしいというよりはソラ恐ろしくなったことがある。人間は記憶を美化させながら生きている。美化されない現実が残っているうちは、それは懐かしさとして脳内にストックできない のではないか。

 雨、昼頃には小降りになるが、しかし降り止まずえんえんと。その中を傘さして出て、郵便局で通販の古書代金振込。それから青山まで。舌郎で牛たんランチ。兆楽のルースーチャーハンもここの牛たんも、とにかく肉というだけでうまく感じる。朝飯を最近は完全菜食にしているせいであろう。わが家の猫も最近はずっと餌は魚肉ばかりなのが、たまに肉缶をやると、鼻息を荒くして飛びつき、ガツガツ食っている。獣肉にはアナンダマイドという快楽物質が含まれているそうであるが、それが実感され るのである。

 紀ノ国屋で明日のベジタブル朝食の買い物して帰宅。扶桑社のゲラ再校を仕上げ。日記本のために、この日記の過去のものをずっと再読。飯を食った、どこそこへ出かけた、ということはちゃんと覚えているが、時折語られる時事風俗への批評や慨嘆、皮肉などは、“へえ、こんなことを言いましたか”というもの多し。読み返して感心 してしまったりする記述もあり、苦笑。

 雨降り続き、気勢上がらず。昨日の日記で、不思議の国のアリスの作者をディケンズなどと書いている、と開田あやさんから指摘された。脳に血が行ってないのかも知れず。後頭部の嫌な頭痛も残っている。マッサージすればすぐなおることはわかっているが、仕事があるのでそうも行けない。血圧用には紀ノ国屋でアミールSを買って きて、これから毎日飲むことにした。

 いろんな件であちこちにメール出したり、FAXしたり。スケジュールがかなりどれもタイトになってきている。タイトでないと動く気になれない悪いクセもありはするのだが。9時、家を出る。傘は持って出たが、雨はやんでおり、外は肌寒いくらいである。『華暦』にてK子と食事。今日はほとんどお客がおらず、ガラガラの状況。“今日はお刺身がお勧め!”と女将が強調。入れた魚をとにかく使いたいのだろう。ハタ、イシモチ、カクアジ、それにアカイカ。アカイカがとろけるようで殊に美味。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa