10日
木曜日
スキャンダルのスターシア
古代守とくっついたときには怒ったなあ。朝、6時に目が覚める。まだ早朝は肌寒い感じだが、その寒さがゆうべの酒のかすかに残って火照っている皮膚に心地よい。8時朝食、トウモロコシ1/3本、それにカボチャ一切れを蒸して。果物はスイカ。長崎の事件、帝京大の臨床心理学の専門家だという伊藤隆二という人が“ゲームやビデオの強い刺激の影響”とか例によって例によってなことを読売新聞でコメントしていたが、残念ながら犯人の少年はゲームおたくでも残虐ビデオマニアでもなく、『三国志』のファンだったとテレビでは報道。三国志のような、ポコポコ人を殺す作品を読んでいたから殺人を何とも思わなくなった、とでも言うのだろうか。小室直樹が天安門事件の際に、“中国人の愛読書は『三国志』だからこういうことをして当然”と か言っていて、どうだかなあ、と思ったのだが。
それにしても、犯人が12歳ということを少し新聞もテレビも大きく扱いすぎではないか。12歳には人を殺す資格がないとでも言うのか。子供が殺人を犯さないというのは、体格が矮小で力もないから、なかなか人を殺すまでには至りにくい、というフィジカルな理由に過ぎず、殺意とかなら平気で抱くと思う。私も小学・中学の頃のクラスメートにはよく殺意を抱いた。殺意を抱く率で言えばその当時の方が今よりも ずっと多かったはずだが。
朝から雨。『アマデウス』で皇帝ヨーゼフ二世、『ハワード・ザ・ダック』で暗黒魔王、『スリーピー・ホロウ』で牧師の役を演じていた俳優、ジェフリー・ジョーンズが、14歳の少年に金を渡して猥褻写真を撮っていたとかで、5年の保護観察処分と、性犯罪者としての生涯登録の判決を受けた、とのニュース。好きな俳優だっただけに残念だが、また、そういう退廃的性欲者とかに実にピッタリのイメージの人だっ たことも事実。
性同一性障害とか、性の多様化に今の社会は寛大化しているが、しかし、少年愛、少女愛という嗜好が真性の人というのは、どうしたらいいものであろうか。この性癖は永遠に異常という烙印を押され続けるのか。だとしたら凄まじい差別であろう。カミール・パーリアなどは、“幼児にだって性欲はある。だからチャイルド・ポルノはオッケー”と凄いことを言っていたが、長崎の事件はあれはどう考えても変質者の犯罪である。すでに現在は12歳でも変質者になり得る時代なのだ。この問題についてそろそろ真剣に討論しないといけない時期に来ているにもかかわらず、少年法の壁により、討論しようにもデータが与えられないという状況はどうしようもない。
犯人の少年は、12歳の中学一年とはいいながら、高校生にも見間違えられるほど体格がよかったそうだ。冒頭にも書いたが、少年犯罪が増加しているのは、栄養状態がよくなって、以前なら犯罪を犯せなかった筈の年代がどんどん暴行や傷害を犯せる体力・体格を持ちはじめていることが大きい。性犯罪の増加も同じ理由だろう。こういう事件が起きるたびに、メンタルな部分ばかりが取り上げられるが、殺人とか性犯罪というのはそもそもフィジカルな行為であり、そっちの方を問題視しないのはカタ テオチではないかと思う。
昼は昨日の残りご飯で、冷や奴、アブラゲ焼き、マグロ中落ち、大根の味噌汁という純和食。2時、家を出て、コンビニで『愛のトンデモ本』編プロにゲラ送付。それから『ブックファースト』一階の喫茶店でゆまに書房TくんとK子を引き合わせる。9月発売予定の『カラサワコレクション・少女小説傑作選』の巻末に、付録として貸本少女マンガを載せるためで、その構成とツッコミを彼女が担当するのである。Tくん、“日記などでK子さんは怖いというイメージが刷り込まれてしまっているんで、 境は大緊張してます〜”と言う。そんなに怖がらなくてもいい。
帰宅、まだ3時半だが夕方のような暗さである。河出書房Sくんから電話。来週、怪獣官能本見本刷り出来とのこと。ベギラマの『乙女失格』に感動した、とのこと。河出で売り出してやってよ、とハッパ。メール数通。開田あやさんから、昨日の日記に“夏コミ用の原稿は全てアップ”とありましたが、さんなみツアー本の原稿がまだです〜、と催促。あ、あれは向こうで私の日記から勝手にとって載せるんだと思っていた。すぐに2月の日記からコピーし、冒頭と末尾の文章を書き足し、中の記述にもちょこちょこと手を入れて完成させ、送る。これで、完璧に夏コミ原稿は全て完成。もっとも、馬鹿ホラーマンガの解説に、少し手を入れたい部分が出てきた。まあ、補 遺的なものなので、コピーしたものをコミケで配ればいいか。
もう一つ、読者の方から、バディ・イブセンが『オズの魔法使い』で降板したのはライオンではなく、ジャック・ヘイリーが演じたブリキの木こりだ、という指摘。これはまさにその通りで、こちらの記憶違い。この件については以下のサイト参照。
http://www5.plala.or.jp/ozdarake/ebsen.html
原稿を書いていたら電話、テレビ朝日からで、例の長崎事件で、三国志と少年の残虐性の関連について何か話せ、という。“『三国志』には確かに残虐描写もあるが、今まであれを読んだ何億人という人間で、あれに触発されて殺人を犯したなんて人間はゼロと言っていい。まずナンセンス。しかし、われわれの世代以上が『三国志』を読んで感じる、国の興亡のロマンや、忠君愛国という美学、戦いに自分の存在意義をかける人物像、争いの中での男同士の友情などという要素は、現在の個人主義アイデンティティ重視、平和第一主義の教育の中では理解できにくくなっている。そういうことを外した目で三国志を読むと、単に殺伐とした殺し合いのドラマとしてしか読めなくなっている可能性はあるかもしれない”と言うと、これから撮影に行くので、テ レビカメラの前でそれを話せという。あわただしく時間設定など。
6時、クルー着。マンガ版の三国志を中心に話してほしい、と言われたので、横山光輝のもの、王欣太の『蒼天行路』、それとこれはなくもがなだったが、片山まさゆきの『SWEET三国志』などをテーブルの上に並べて、上記のようなことを話す。どう編集されるかしれたものではない。『蒼天行路』を広げたところも撮影されたから、“唐沢はマンガが今回の犯罪の原因だとテレビでしゃべった”などと誤解される危険性もあるかもしれないが、まあ、馬鹿に曲解されることを怖がっていたら何一つ出来なくなる。この日記などに対しても、ときどき、文章以前に字が読めないのではないのかと思える誤読をして批判してくるヤツがいる。そういうのには笑うしか対処 のしようがない。
あわただしくやってきてクルー、あわただしく去る(カメラマン氏は、“以前、ここのお宅は『トゥナイト』でお邪魔しました”と言っていた)。ふと気がつくと、コメント料のことを言うのを忘れていた。向こうの方も、そういう点については一切、口にしなかった。テレビというのは心底、そういう基準で動いているところなのだなあ、と思う。そう言えば、フジテレビからも、『トリビアの泉』のビデオがまだ届いていないということについてのお詫びの電話があった。以前の放送枠のときと担当が変わっていて、私の住所がわからなくなっていたらしい。で、メールが来て知ったのだが、その電話番号を、『すごいけど変なひと』のサンマーク出版に電話して訊いたらしい。どうにもバカげている。こういう連中が作ったものが、日本で一番の影響力 を持ったメディアなのである。
7時半、曙橋、井上デザイン事務所。井上くんに怪獣官能本の表紙デザインの、初案と改訂案、見せてもらう。初案のは、私が最後に撮らせた、ヌードの女性がゴジラスタイルで暴れているところで、これが実にもっていい出来。ところが出版社の上の方から、“表紙に毛を出してはまかりならん”とお達しがあり、ごく普通のヌード写真が表紙になってしまった。なるほど、Sくんが憤慨していた気持ちがよく理解でき る。これは何か、別のところで使いたいなあ、と思う。
K子と三人で、近くの居酒屋へ。もと焼鳥屋『どど』だったところが、そっくりと居抜きで居酒屋になっている。何かガランとして寂しい感じ。装飾にかける予算がないのかもしれない。青林工藝舎の手塚さんも来る。今日はK子が、薫風書店の娘さんの描いたマンガを、手塚さんに批評してもらうために誘ったのである。原稿に関しては手塚さん、うーん、の評価。しかし、『UA!』の巻末にのせたマンガは、“あ、 このタッチは面白いじゃないですか”と。
そのあと、例によりいろんな業界困ったちゃんばなしで盛り上がりながら酒。ここは黒ホッピーがあるのがいい。三バイ飲んでしまう。しかし、どうも素人商売ぽいところがある。“甘エビ唐揚げ”というのを頼んだのだが、いつまでたっても持ってこない。中国人らしいおネエちゃんに確認すると、つけ落としだったらしく、あ、すぐ持ってキマス、と言って厨房に走った。ところが、それからしばらく立っても、まだ持ってこない。どうしたと訊いたら、“あ、作ったんですが、間違っテ他のお客さんに出しちゃいマシタ”というのには呆れた。