裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

火曜日

♪僕らのクラブのリーダーは、三亀松、三亀松、三亀三亀松

 都々逸パレード。“鼠とり 仕掛てやりたい新所帯 陰でチュウチュウ音がする”……ってね。朝、7時半起床。朝食、貝柱入り粥、スグキ。ゴールデンキウイ。服薬黄連解毒湯、小青龍湯、百草胃腸薬、救心二粒如例。読売の朝刊に坂口祐三郎死去の報。61歳とはまた若い。尤も、数年前から生まれ故郷の九州に帰っていたというから、俳優業はほとんど廃業していたと言っていいだろう。新聞にも『赤影』のことしか書いてなかった。新撰組血風録とか、水戸黄門とか、キカイダーとか、桃太郎侍とか、土ワイとか、必殺シリーズとか、探すとちょこちょこ出ているんだが。『壬生の 恋歌』では桂小五郎役だったな。

 子供の頃からワキ好みだったんで、赤影も敵方の忍者ばかり見ていて、主役はほとんど注目していなかった。大学一年あたりで、つきあっていた女の子が“でも、あの坂口祐三郎って絶対ヘンだよー、首筋がやけに細いしさー、目キラだしさー、唇色っぽすぎるしさー”と熱心に主張してから、そうかと思って改めて見てみると、なるほど、これはヘンだった。役者においてヘン、というのは褒め言葉である。ああいう、中性的な魅力というのは、現代だったらもっとさまざまなドラマに応用が効いて用いられていたのではないか(竹内義和氏は赤影はホモ人気に支えられていたと主張している)。また、一時ライターに転業し、東スポにナンパ記事や玉門占いなど書いて、東映の先輩に怒られたりしたらしいが、これだって今ならもっと話題になり、バラエティ番組などに用いられていたろう。時代が早すぎた、のかも知れない。ちなみに、ワープロで“あかかげ”と打ったら、“赤陰”と出た。玉門占いならこっちの名前の方がよかったか。

 午前中は夏コミ同人誌のゲラチェック作業。やっていて楽しい。冬コミのネタも考える。それを終え、1時半までかけて、日記本の駄洒落タイトル選出作業。MLに流して、外出、サムラートでナンとカレーで昼食。それから東急本店の紀ノ国屋で買い物。帰宅して、K子からFAXされた、新たな書き足し部分のチェック。テレ朝のコメント代請求、やっぱりいろいろ連絡関係などトラブル。支払いは経理の方にしてくれと言ったのに、こっちの電話に留守録が入っているし。トラブるほどの額ではない のがまた、情けない。

 SFマガジン原稿をガリガリとやる。珍しくネタ本が全部、探した場所にあった。こういうときは嬉しい。5時までに書き上げてメール。井の頭こうすけ氏に送る図版用ブツを荷造り。それを送ることも含め、雑用いろいろあって新宿に。タクシー利用したのだが、乗りがけに確認したら、細かいのがない。“お支払い、大きいのでよろしいですか”と聞いてから乗車したら、立川談幸みたいな顔した運転手さんが、“ああ、そう言って確認してご利用してくれるお客さんはうれしいですねえ”と言う。
「いるんですよねえ、ついてから一万円出されて、お釣りがないというと怒り出す方が。最初に言ってくだされば途中で両替するんですけどねえ。あと、カードでの支払いを、車がどんどん入ってくる狭い路地でやる方。いくらクラクション鳴らされてもそういう方は平気なんですねえ。こっちは後で通報されやしないかと思ってビクビクものなんですけどね。一番ひどいのは、一万円くずすために乗って、数メートル行って降りる人もいますねえ。そういうときに細かいのがないと、もうアウトでしてね。……でね、こういうことやるお客ってのは、まず、女性ですね。ええ、こりゃ別に差別発言でもなんでもない。私ゃ毎日、家に帰って必ず乗務日記つけてますからね、事実なんですよ。女性ってのは細やかな心遣いが出来るってえますけどねえ、ありゃ、身内に対してだけですね。女性は身内を守る観念がとにかくありますからね。そのぶん、ソトに対しては気配りも気遣いも、まったくしない人が多いですねえ。ええ、もちろんそうじゃない女性もいますよ、いるけどね、平均をとるとそうなんですね。これは私、十何年運転手やってての、数百件のデータもとに言ってるんですよ……」
 何か、よほどたまっていたのか、とまらないという感じでしゃべり続けていた。ちなみに、お釣りがないから、という理由で断っても、乗車拒否は成立してしまうそう である。
「弱い職業なんですから、私たちゃ、ええ」

 雑用スムーズに済む。そのままサウナ&マッサージ。さぞや汗が噴き出すかと思ったがそうでもない。先生はいつものソフトな揉み方の人で、“強く、強く”と注文するが、どうしてもソフトになる。とはいえ、今日は非常にそれが心地よくて、揉まれながら眠ってしまった。帰宅、8時。夕食の準備にかかる。アジの干物を焼き、大根を繊切りにしたものとアブラゲを入れた湯豆腐、それに、ハチバンラーメンを使ってチャイナハウスのリーメンもどきをこしらえる。チャイナの緑色の麺は特製なので、とても家庭では太刀打ちが出来ないのだが、ここの麺なら、と思い、茹であげて水にさらしたものに、ゴマ油、ザーサイ、チャーシュー、ネギ、それとロイヤルスープストックを味付けに加える。もどきはもどきだが、家庭で食べる分には申し分ないものが出来、K子が合格点をくれた。湯豆腐のタレ、干物にはすだちをたっぷり絞って。缶ビール小一本、日本酒のロックに、すだちジュースをうんと絞って加えた、すだち酒。夏の涼味。

 ビデオで、スーパーマンのアニメ。中古ビデオ屋で買った、FDLビデオである。このFDL(フューチャー・デメンション・リミテッド)は、古典映画のビデオを製作販売する会社で、あの『ブルー・シャトウ』や『ブルーライト・ヨコハマ』を作詞した橋本淳氏の設立した会社。まだあるのだろうか。このあいだ中野ZEROで見た『スーパーマン横浜に現る』が最初に入っていたのは,ヨコハマつながりだからだろうか? ちなみにこの作品、原題は“THE ELEVENTH HOUR”なのだが、このビデオでの邦題が『亥の刻の襲撃』。時代劇じゃあるまいし。あと、これも中野でそのスーパーマンとの対比で上映された『ニッポンバンザイ』に、南洋の土人たちの踊りが影絵で描かれていて、案外いいと感想を書いたが、このビデオには、やはり土人の踊りがシルエットで描かれる“JUNGLE DRUMS”という作品が収められている。時代もほぼ同じで、ナチスが南洋の土人をだまして神様といつわって支配しているという内容。踊りのシーンはつかまったロイス・レーンの火あぶりの場面にあり、ジャズっぽい表現とモダンな映像処理でなかなかなもの。これも対比上映してみたら面白いかもしれない。

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