20日
日曜日
因果UFO
ユングの研究。朝8時起床。朝食、クレソンとピーナッツスプラウトのスチーム。ゴールデンキウイ。服薬、黄連解毒湯、小青龍湯。百草胃腸薬が切れたのでタケダ胃 腸薬、それとこのあいだから血圧のためにアミールSを朝、一本。
新聞の読書欄をチェックするのはずっと昔、呉智英が読書家の基本事項とか書いていたのを読んで以来の習慣なのだが、最近、自分が新しい本をあんまり読まなくなってしまっているのは、これをやっているからではないか、と思ってしまう。魅力ある紹介文がほとんどないのである。どれも、ああ、前にもこんな本読んだ読んだ、とかデジャブを起こすような型にはまった紹介か、紹介者だけが自分の興味の範囲内で大感心しているだけで、こっちにその面白さが伝わってこないものか、あるいは簡潔直截に内容をまとめていて、まとめすぎてそれでこっちも納得してしまって、その本を買って読もうという気にさせない紹介ばかり。昔の書評って、百目鬼恭三郎のものでも向井敏のものでも鮎川信夫のものでも、たとえけなしている本であっても、一度読んでみようか、という気にさせるような批評をしていたし、筒井康隆の『みだれ撃ち涜書ノート』などは、一冊々々の書評のスタイルを全部変えているという、凄まじい表現の工夫をしていた。褒めるにせよけなすにせよ、人に自分の考えを伝えなくてはいけない、という意識の高さが全く違っていたのである。“ここまで言われたら読まねばなるまい”とこちらに言わせるまでに頑張らないと、人は勧めてても本など買ってくれない、と、ちゃんと認識していたのかも知れない。読書人口というものが減ってしまった故に、逆に今の書評家には、本好き同士の仲間内でのナアナア的な感覚が 宿っているのかもしれない、と考える。
全然性格は違うけれども、中野貴雄の『国際シネマ獄門帖』を読んで感心してしまうのは、その、映画の面白さや駄目さを伝える、少なくとも読者にその文章をフックしてもらうための、サービス精神の旺盛さだ。『ドーベルマン』の主役ヴァンサン・カッセルが“フランスの松田優作”と称されていることに対し、じゃあ“「何じゃこりゃー」は「ケスクセー」か”とギャグ一発で見事に茶化し、ハードアクション映画の雄『リーサル・ウェポン』も10年たって4作目にもなると、すっかり『釣りバカ日誌』と化す、とシリーズもののたどる特性をその対比ひとつで表す。これはよほど 娯楽映画の本質をわかってないと出来ない技だ。
ギャグばかりが目立つけれど、よく読んでいくと、『プライベート・ライアン』にすっかり感動“させられてしまっている”映画評論家のセンセイたちに、だまされて はいけない、スピルバーグはジェットコースター職人なのだ、何を作っても
「“さあ貴方を恐ろしいサメや恐竜の世界へご招待!”“さあ貴方をいわれなき差別に苦しむ黒人たちの世界へ”“さあ貴方を悲惨なユダヤ人収容所の世界へご招待”するジェットコースターなのである」
と本質を容赦なくあばきたてた指摘をぶっつける。アジア映画というと、“眼鏡のフチの赤いマニア女たちは”アンディ・ラウとか金城武だとかばかり追いかける、似非インテリ系の連中だとウォン・カーウェイだなどとトホホな名前ばかり挙げる、誰も、最もアジア映画というカラーを体現しているジャッキー・チェンのことを語らない、という風潮に
「日本人は水と安全とジャッキーはタダだと思っているのでは?」
と苦言を呈する。苦言くらいなら誰でも呈するが、こういうパシッと決まった表現はなかなか出来るものではない。書評・映画評に限らず、ある作品を文章で人に語りたい、と思っている文筆業志望者にとって、この『国際シネマ獄門帖』は最良の“新 しい国語教科書”だろう。
日記つけ、私用メール数本だし、書庫でコピーなどとって、と雑用しているうちにもう午前中は過ぎてしまう。2時過ぎに外出。宅急便を出し、昼飯は簡単に済ませよう、と、すき家でキムチ牛丼。食べていたら、凄まじい音響で右翼の街宣車からの罵声が響く。渋谷交番前の通りを三台くらい大型車で連なって通ろうとして、放置自転車や止めてある作業車などの多さにキレたらしく、
「うだぁやぁっ、うぉい警官っ、この法律違反のぉ馬鹿どもを何とかしろぉっ!」
と叫んでいる。それが脅しにならず、渋谷という街の混沌の一風景として飲み込まれてしまっているのがなんとも哀れだ。コギャルやガキどもは面白がってたかってき ていた。
東急本店で買い物して帰宅。体だるくて寝転がっているうちに、仕事のことで少しばかりあぐねていた懸案事項の解決策が思い浮かぶ。うん、これはいいや、と考えているうちに寝入ってしまった。まあ、読んでいたのが18世紀フランスの記録文書の翻訳という、ブロバリンなみに睡眠作用のある退屈なものだったので無理もない。
5時ころ起き出して、アスペクトの前書きとかを書く。楽勝で一時間もあれば、と思っていたのに、つい、資料の夏目漱石の倫敦日記とか、瀧澤馬琴日記とかを読み込んでしまい、あと少しというところで家を出る時間になってしまった。タクシーで、7時というのにまだ昼間みたいな明るさの中、参宮橋『クリクリ』へ。仙台からあのつくんがやってきたので、その歓迎会みたいなもの。K子のML仲間など、総勢8名になる。今日はクリクリ、絵里さんが歯を抜いて体調を崩してしまい、寝ているというので、ケン一人。野菜と帆立のスープ、キノコのホットサラダ、海老の背割りオーブン焼き、羊のロースト。あのつくんは以前ここで食べた羊のローストの味がずっと忘れられない、と言っていた。ビールとワインをやりながら、いろんな話題で沸騰。10時過ぎまでワイワイ。