裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

月曜日

お座敷クォーター

 タイトルに意味はない(懐かしかったのでやってみたかったんです)。朝5時45分、起床。夢の中で飛行機に乗るが、その飛行機は20代、30代、40代以上と年齢で座る席が決まっている。私はなみきたかし(私のキップも買ってくれた)と隣り同士である。20代の席に座る筈の鶴岡法斎がなかなか来ない。20代の席というのは、土塀のような形をしており、飛行中ずっとその上に立っていなくてはならないので、40代以上には無理なのである。遅いな、と様子を見にちょっと外を除いた帰りに、空いているその20代の席に、まだ着けるだろうか、と思い、そっと上に立ってみる。若いころのようにすっくとは立てないが、何とか乗ることが出来る。俺もまだ若いじゃないか、といい気分になる、という夢。こういう夢を見たのは、まだ自分も老け込みはしないぞ、という意気込みのあらわれなのか、年をとっていく不安か。

 まだ外は暗い。台所で湯を沸かし、コーヒーを入れ、焼きサンドを作り、ヨーグルトを飲む。ゆうべ、ワインをかなり飲んだ筈だが、二日酔いの徴候はなし。ただし、メシを食ってすぐ風呂に入ったので、胃が少しもたれる。荷物の整理をして、7時にK子と家を出る。例年なんだかんだでバタバタするのだが、今年はまことに手慣れた感じで、あまりイベントの日、という高揚感もなし。タクシー、ねらったようにさっと目の前に来た。乗り込んでお台場ビックサイトまで。例年のように行列もあり渋滞もありだが、それにしてもいつもに比べるとウソのようにスムーズである。

 東館Uというのが入り口から入ってすぐ、大きな通路の真ん前。こりゃ寒いぞ、と思う。角がと学会、その脇が北朝鮮の本を売っているサークル、その隣が、何だかよくわからないがコピー誌をひとつおいただけの極めてシンプルなところ。そして私らの東文研、同じ机の隣がなんと以前私のスタッフをやっていた黒田のサークルであった。“今日一日、よろしくお願いします!”と挨拶される。黒田は『滑稽新聞』なる コピー誌を出しているらしい。

 今回はウチは販売物が極めて多い。自前の新刊『恐怖の巨顔女』と夏の売れ残りの『ジャック・チック本』の他に、UA!ライブラリー復刊の『妖女の奏でる夜想曲』も置き、これも夏の売れ残りの朗読テープ、開田さんのところからの委託の『特撮が来た!』と『猫津波』、さらに官能倶楽部のバックナンバー、そうそう、K子の『男 ターザン本』のペーパー。あやさん、岡くんたちと一緒に並べる。

 開場前に恒例の挨拶回り、畸人研究の今さんと河出本のことなど。藤野一友&中川彩子画集のサイトでの評判のことなど。今さんは大変評価に満足しているらしいが、私は、シュールレアリズムとSM画の二面性に触れた、きちんとした美術関係者の言がまだ少ないのをちと、遺憾に思っている。『週刊ポスト』に載った書評も、藤野の絵のことばかりで、中川彩子には“あえて”触れていないでいる感じだったし。あとたかはしさん(札幌の薫風さんの友達)からはあすなひろし本、氷川竜介さんからもロトさんの本(もう10号)いただく。金成さんのブースは人形のドレスとヤンキー 風俗研の合体というケッタイな様相。

 その隣が岡田さんのブース。今回は積み上げていないのかと思ったら柳瀬くん曰く“いや、あれ、米澤さんからマジで怒られたんです”とのこと。岡田さんはなんと黒のタートルネックに葡萄茶のスーツというおしゃれな格好。アロハでない岡田斗司夫を見るとは。しかも訊いたら、なんと昨日、母親が亡くなったとのこと。“それでも今日、来たの?”“だって、もう焼き場は休みですから、3日までやることがない。まだ家で死んでるんですよ”“そら、早すぎたからって生き返るわけにもいかないでしょうけどね”潮健児のときも死んだのが土曜日の晩で、休日と友引、焼き場の空きなどを待って一週間近く家に置いていた、というような話をする。と学会のブースに戻り、眠田さんに“岡田さんのお母さん、ゆうべ亡くなったんだって”と言う。眠田さん“ハア? それで今日、来てるの?”と流石に驚いた表情。よく何が何でも、という表現によく“親が死んでも”という言い回しを使うが、まさに“親が死んでもコ ミケで販売”。

 出かけるときもそうだったが、ブース設置の仕事類、どんどん手慣れていき、以前は7時半にサークル入場して10時の開場まで、なんやかやと忙しく立ち働かねばならなかったが、今回はやや、それまでの時間を持て余す。もっとも、うちと眠田さんとと学会、と三者のチケットをフルに使って作業人員を確保し、テカが多くなったこともある。GHOSTさんから、労作の『クレクレタコラ』紙芝居をいただく。ゆうべハンニバルの後に徹夜でプリントアウトしたという労作。手作りとは思えない出来 である。

 10時、恒例の拍手と共に開場。K子とユキさん(談之助さんのカミさん)を座らせてK子が手渡し&金の受け取り、ユキさんが売れたもののチェック、その後ろで私が補充、岡くんが計算、ブース前であやさんがチラシ巻き、という分担。例年、冬コミのときは評論のような地味なサークルは後回し、という感じだったが、最近は最初からカタログでチェックして来てくれる人も多いらしく、早くからカタログの切り抜き、コピー片手の熱心なお客が来てくれる。一時は行列が前に出来て、コミケスタッフから、代金受取の窓口を一人じゃなく二人にして、あまり列が延びないように(なにしろ大通路に面しているので、列の最後尾が、大手めがけて走ってくる客に轢き殺されかねない)要請を受ける。夏コミのときは知名度が低かったために、ポツポツという感じだったが、一回行うとその後、チェックする人というのが出てくる。『巨顔女』は順調にいくが、『ジャック・チック』もどんどんと売れ、中にはこれを目当て に来た人もいるようで、嬉しい。

『特撮が来た!』もどんどんハケて(岡くん曰く“これが売れてくれないと昨日のワイン代、足が出る”)、あやさんが、“次回から特撮より評論の方がいいかなあ”と感想。やはり最近の特撮はやおいでないとダメらしい。昨日、“『ゴジラ×メカゴジラ』というタイトルはやおいだと思わせる東宝の戦略では”などとギャグを飛ばした のだが。

 いろいろと例によりいただきものも多々。差し入れを持ってきてくれる人も多い。夏コミのとき日記に書いた学習院大学のサブカルチャー研究会もまた来てくれた。白衣を来てきて、“先生から真面目すぎる、と言われたので、今回はコスプレしてきました”とのこと。……何のコスプレだったんだろうか? 入院しているはずの串間努さんも、コピー誌の『日曜研究家』を持参してくれて、“原点に戻っちゃいました”と笑って言う。しかし、以前より太って血色もいいようだったので一安心。あと田川滋先生、啓乕くん、印口さん、伊沢くん、藤井ひまわりくんなど、毎度々々の知り合いも。美好沖野さんに“日本文芸社、もうちょっと待ってね”と言って苦笑される。どどいつ文庫の伊藤さんは三和出版の人を伴って。たつみひろし氏の『美しき神々の賜』のお礼を言われる。あれは評判になったそうで、いくばくかの助力が出来たかと思うと、うれしい。ベギちゃんも同人誌を持って来ブース。他に水民玉蘭さん、銀河出版のIくん、その他あの人もこの人もいろいろ。お名前漏れあったら失礼。

 行列は1時くらいをピークにうちのブースでは出来なくなったが、それでも三々五々、来てくれる。なにやら関西訛りで“うわ、ほんまの唐沢俊一やがな。ええもン見たなア、嬉しいなア、新刊二部づつ買うわ、サインしてもらお”などとひっきりナシにしゃべっている人とか。ファンもいろいろ。一行知識掲示板のレギュラーや、“日記、読んでます”という人もたくさんいた。日記の読者には“ダジャレ、何が好きです?”と訊く。『海はカメバズーカ、山はカメバズーカ』を挙げた人がいたのに喜んだ。あまりにバカバカしすぎるかな、と思っていたもので。今朝の夢にも出てきていたなみきたかしは、企業ブースで“周囲から浮いて手持ちぶさたにしてますよ”との こと。

 3時くらいに、K子と交代で昼飯を食う。伊勢丹で買った『点天』の焼きそばであるが、これが塩味で、キャベツだけの具なのだが、このキャベツも大変あまく、結構な味であった。3時ころ、せどりのU氏くる。頼まれたものがあったので渡し、その後もいろいろ話しかけてくるので、“あそこに藤倉さんがいますよ”と、共通の知人の方に回す。ささきはてるさん(星新一ファンクラブ時代からの知人)は来ないのかというので、4時ころ来るはずです、と言ったら、待っているうちに、喫煙所に置いた紙袋を不審物と怪しまれて、持っていかれてしまった、とぶーぶー言っている。何 かかんか、トラブルに巻き込まれる人である。

 ささきさんにはこっちも用事があって、3時15分くらいからの撤収作業中もずっと待つが、いっかな来ない。少しイラついたが、ギリギリにやっと来て、頼まれごとの件、無事解決した。義理を果たしてホッとする。ささきさんには悪いことをした。で、さらに悪いことで、藤倉さんもとっつかまってヘキエキしていたUさんを、ささきさんに押しつける。その間に、4時の終了アナウンスと拍手。今年はMー1との同時開催、爆弾予告(警察がずっと回っていた。Uさんの荷物が押収されたのもそのせい)など、いろいろあったが、何事もなく終了。アナウンスの“無事、終了いたしま した”という声に、みんなホッとした表情となって拍手。

 タクシーで一旦家に帰る。委託分の計算などして、1時間ほど休み、下北沢へ。トンデモ落語会であるが、これについての記載は明日。打ち上げ終わり、12時に帰宅して、さすがに疲れて、気持ちよくグッスリと寝る。四十肩だの風邪だのといった体調の不良にこの12月は悩まされたが、今日など、朝5時台起きで夜中の12時までテンション上がりっぱなしで、何の体調の異常もなし。やはりストレスの蓄積が原因なのかな、と思う。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa