21日
土曜日
ライダみつを
改造人間だもの。ここのところ日記タイトルが三日続けて偶然仮面ライダーネタであった。別に他意はない。こないだ国際法関係の文章を読んでいたら“自国大使”という言葉が出てきて、どうしても大使が三葉虫みたいなマスクをかぶっている図を想像してしまったり、あと西神さんという人が博士号をとったら西神博士かとか突如思いついたり、まあそんな平凡な日常である。
朝、8時起床。6時に目が覚めたときはノドがパンパンに腫れていて、これは声も出せないかと心配していたが、その後二時間寝たら、イガイガはしているが、まあ、通常の生活は出来る状態に回復していた。眠りは偉大だ。6時の目覚めのときに見ていた夢は、ネットで検索していたら“グノーシス派公式サイト”というのを見つけてのぞいてみる、というもの。そしたら、美少女Hアニメ系のキャラがサイト案内をしていて、異端とはいえキリスト教の一派の公式サイトが、こんなことでカウンタ稼ぎをしようとしているとは情けない、と憤慨したところで目が覚めた。で、もう一度寝て、また見た夢では、私がその夢のことを日記に書いて、用事があって出かけて、パソコンの前に戻ってくると、その日記に、“われわれへの誹謗中傷は神がお許しにならない”と書き込みがしてある。まだアップもしていないのに、なぜ彼らは私がこのことを日記に書いたのを知ったのか、またどうやって私のパソコンでこれを書き込んだのか、と戦慄して目が覚めた。これはこないだテレビで見た、北朝鮮で拉致されかけた引田天功のインタビューで、日本に帰ってきてから、仕事で泊まったホテルで、朝、目が覚めたら鏡台の前に、いつの間にか金日成バッジが置いてあった、という話を記憶に止めておいたために見たものだろう。
朝食、K子には野菜のオーヴン焼き。私はローストビーフサンド半分。朝から雨がさめざめとふりしぶき、寒い々々。雪になるのではないかと思えるほど。中野貴雄のサイトを見たら、昨日、007の新作を観てきた、とある。しまった、昨日が特別試写だった。招待状を貰っていて忘れた。まあ、まだ一月にも試写会はあるのだが、こういう映画は人より一日でも先に観た方が勝ち、みたいなものである。小野耕世氏も“007映画は人より先に観て、「知ってるかい、こんどの映画ではボンドがさ」と教えてやるのが値打ち”と言っていた。これはシリーズものの特性をよくわかった言葉である。
その耕世氏の父君の小野佐世男(画家・漫画家)の短編小説、というのでもない、コント(スケッチ)集とも言うべき『女體戯語』(昭和28年 東和社)をこのごろポツポツと拾い読みしている。品のいいエロおとし話、みたいな雰囲気の肩の凝らない半創作だが、冒頭の引き込みのテクニックと、登場人物たちのネーミングが抜群にうまく、しゃれている。『貞操帯の美女』の主人公、伝吉のあだ名の呆助伝というのもいいし、『あの世の話』のヒロイン、蝉代夫人というのも実に色っぽくて素敵な名前だ。『サイレント夫人』の書き出し、
「雀が何万羽か二手に別れて、合戦を始めている。傷ついた奴が、雨が降るように落ちてくる。こいつを焼いて、一ぱいやると馬鹿にうまい。君はすゞめ焼が好物と聞いている、とても油がのってうまいぞ、合戦が終わらぬうちに早く来たれ。
こういう速達が、突如、旧友、南孫助からとゞいた」
というのなどは奇想天外でありながら自分も是非行って食ってみたい、とつい思わせて読者を話の中に主人公と共に引きずり込んでしまうしまう魅力を持っているし、『新興十字教』の冒頭の
「東京駅のプラット・フォームで、あわただしい、手品師阿部徳三氏に会ったのは、日曜日の朝。
『オー、ちょうどよいとこで会った』
汗をふきながら彼はポケットから銀色の小さな、十字架を出して
『君! 君ね、僕は、女房の親父が、毒茸(どくたけ)を食って、急死したので、これから長崎まで行かねばならぬ。それで、問題はこの十字架だが、実は今日の一時にコロンバンで女に会う約束をしたのだ。一つ僕のかわりに、行ってくれぬか』」
というのも、短編の導入部分として申し分のない、まったく無駄のない文章だ。阿部氏の職業が手品師というのは、その後の展開には何の関係もないのだが、実にどうも人を食っていて、冗談とも真面目ともつかぬこの話のムードを作るのにこれ以上はない、という設定である。こういうのを“都会的センス”というのであろう。もちろ ん、昭和28年の都会的、ではあるが。
12時、氷雨の中、家を出て教育会館古書展。今日は新興古書会(かの反町茂雄の作った由緒ある古書会)で、和本中心であり、私ごときが入れるようなものではないのだが、それでも、一般書は普通の古書展より安く値が付けられている場合がある。ざっと回ったが、博文館の『繪本稗史小説』全集(大正九年15版)の、持っていないものが何冊か、一冊400円であったので買い込む(これが雑本扱いである、というところがこの会の凄いところだ)。その他、雑本ばかり4500円ほど。出て、久しぶりの『乃むら』で鶏せいろ。大盛を頼んだが、大盛で普通の蕎麦屋なみ。あっと言う間に食ってしまう。近くの歯科医の先生と看護婦さん二人の三人連れが昼食で来ていて、いろいろ雑談していた。
「ねえ先生、あの、患者さんにかける前掛け、あれって何て言うんですかぁ?」
「さあなあ。“前掛け”でいいんじゃないか?」
「患者さんに前掛けって言ったら、前掛けなんて子供みたいだから、“もっとカッコいい専門用語で言ってほしい”って言われたんですよぉ」
「じゃあ、“専門用語で『よだれかけ』です”って言ってやれよ」
今日は本を買いに出たわけではなく、神保町交差点のところのビデオショップで、ちと資料用にどうしても必要なビデオを探すために来たのだが、ここに無ければ新宿のビデマに、と思っていたが、見事カンが当たって発見。しかも1500円という安値で買えた。もっとも、他の(これは趣味の)ビデオも買い込み、結局1万円行ってしまったが。渋谷まで帰り、HMVで『サインはV』の最新巻(5、6)買い、さらに東武地下で食料品買い込み。
風邪は重ったわけではないが、やはり疲れてくると頭がボーッとする。『トンデモ本 男の世界』の原稿を書き出すが、気分が集中できず。『ラピュタ阿佐谷』から、『プロフェッショナルが選ぶ日本と世界のアニメーションベスト150』というのを 決めるのでアンケートを送ってくれ、と言ってきた。
9時、夕食。鯛チリと牛肉のすきやき風煮付け。鯛チリ用におろしてもらった鯛に小さな卵がついていたので、薄口醤油とショウガでさっと煮付ける。ねっとりとしてしかしあっさり風味で、これはホンの二口のものだったが絶品だった。DVDで『サインはV』。ジュン・サンダースが、チームに受け入れられたとたん、フツーのいい子になってしまった。解説で、主題歌を歌っている麻里圭子は『ゴジラ対ヘドラ』に出演して例のボディペインティングで踊っていた姉ちゃんである、とある。ますます特撮つながりが。もっとも、『サインはV』自体も、稲妻サーブが白光を発しながら飛んできたり、特撮っぽくなってきたが。そのあと、K子にアニメ『茶目子の一日』のビデオを見せる。大正時代の少女の一日を描いた(アニメは昭和6年)内容で、今観るとすさまじくシュールな珍品であるが、ビデオ版は残念ながら(まことに残念ながら)茶目子が読む読本『釜盗人』の、いざりのくだりがカットされている。正しい歌詞は、ここのサイトでごらんください。
http://kan-chan.stbbs.net/retro/audio/chameko.html
その後もいろいろビデオ見ちらかしつつ、11時50分まで。風邪のせいか、心臓がバクバク言い出したので、救心を二粒。