裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

木曜日

古今亭・センチュリー・フォックス

 志ん生世紀の熱演、『王子の狐』映画化! 朝7時半、起床。風邪は8分通り回復した模様。鼻水も出なくなったかわり、乾燥していていけない。鍋に湯を沸かして、リビングに湿度を与える。鼻もかみすぎて、ヤスリをかけたように先っちょがザラザラになっている。オロナイン軟膏を塗る。朝食、スイートポテト二ヶ、青豆のポタージュ。スイートポテトは昨日、風邪で食欲がなくなったときのために、と買っておいたもの。食欲はまったくなくならなかったので、朝に食べる。果物はイチゴ。

 朝、珍しく永瀬さんから電話。母上の病気とその介護の話。昔、ガンダム関係のヒトから“ワタナベさん(永瀬氏のこと)はスカトロばなしフェチですからねえ”と、つくづく困惑した、という表情で言われたことがある。以前、氏が入院したときも、ナルホドと感じたが、今日も朝からステキな話をいっぱい。そのあと、と学会東京大会のうちあわせを、という話になり、では談之助・植木さんを誘って、一杯やりながら、というダンドリになる。談之助さんOK、植木さんNG。ちょうど、カスミ書房さんに行く用事もあるので、そこで引き合わせるために開田あやさん誘い、そのあと神保町で、ということに。なら夜咄乃むらだ、と予約の電話をかけるが、すでに今日は満席。では、と次点でホイリゲ古瀬戸を予約。K子はおなじすずらん通りの『ろしあ亭』でポーランド語教室の忘年会。待ち合わせは岩波ホール前で、と私が電話で永瀬さんと話していたら、K子“ウチもそこで待ち合わせ!”と。

 一行知識掲示板で、映画学校の授業で『サインはV』のプロデューサー、土井利泰氏の講義を受けた人からの書き込み。あのドラマの浅丘ユミは宮本武蔵、椿麻里は佐々木小次郎がモデルだそうで、“努力が天才を破る物語”がテーマだっただそうな。で、ジュンサンダースは沖田総司がモデルであり、“志半ばにして戦列を去る悲哀”を描いたのだとか。やはりこの時代のドラマは基本的に映画黄金期の時代劇からそのエッセンスを換骨奪胎しているんだなあ、という思いしきり。また、土井プロデュー サーの口癖は
「くさい芝居は良い芝居」
 で、テレビの限られた時間で微妙な芝居なんてやっていられない、オーバーアクトで臭い芝居は、何を伝えたいか一発でわかるからガンガンやる、というのが基本なんだとか。実にいい話で、私らモノカキにも通用する。短編と長編の違いの秘訣だな。

 オタク大賞のゲラに赤入れをする。250ページ以上ある大部のものに赤を入れ、必要と思われる部分に注釈を書き込んでいく。軽いと思っていたが、なかなか大変な作業となる。昼をはさんで3時近くまでかかる。同じことを出席者がオウムがえしにしゃべっているようなところは、編集構成者のハサミにまかせて、自分の発言部分のみに赤を入れた。

 間に電話数本。まだオフレコだが、年の瀬なのにいろいろと大変な状況のヒトもいるんだなあ、と同情したり。しかし、それでこっちの企画が延びてしまうのは困ったもんだなあ、と思ったり。ゲラチェックモードでいたので昼飯を食いそこねる。うーむ、こういうことならスイートポテトを朝、食ってしまわずに残しておけばよかったな。ご飯に卵をかけて半杯、かきこむ。

 Jフォンの人名登録などを少し。機能が多くてややこしくてかなわぬ。ネット古書でこないだ買った本が届く。こんな本が手元の操作だけで買えるとは! と感動した物件であるが、届いて読んでみれば、期待が大きすぎた分、さほどでもなし。とはいえ、この手軽さは、かつての古書収集のイメージをくつがえすものであろう。喪中欠礼の葉書また一通。もうすでに年賀状を出してしまった後の人。あちゃあ、と思うが以前志水一夫さんが“喪中とはいえ年賀状は欲しいので、25日過ぎてみんながもう出し終わったあたりに欠礼葉書を出す”と言っていた。今ごろ来るというのはそのデ ンかな、と考える。

 1月7日〆切のフィギュア王の原稿を書く。10枚、なんとか書き上げたところで時間。最終推敲を残した状態で家を出て、まずコンビニで扶桑社にオタク大賞本原稿ゲラを宅急便で出す。それから半蔵門線で神保町へ。6時半、さきにあやさんと待ち合わせ、カスミ書房へ。店主のYさんと顔合わせ。いろいろご面倒をかけたりかけられたり。伊勢丹古書市の話。あの、デパート古書市の開店時の殺気と人の暴走は、コミケ開館のときの殺気の比じゃないですよねえ、とかいう話。Yさん“そりゃ、どんな限定同人誌だって数百冊は必ずありますが、古本は基本的に一点ですからねえ”。

 ではコミケで、とおいとまし、また岩波ホール前にもどる。永瀬さん、談之助さんと落ち合い、ホイリゲ古瀬戸へ。さすがにお客はいっぱい、ここは店員さんが三人くらいしかいないので、最初の皿が出てくるまでたっぷり三十分はかかったのにちと、ジレた。出てきてからは順調、真鯛のオーヴン焼きレモンソース、鹿肉とエリンギのあっさりソース(とはいえかなり濃厚でおいしいソースだった)、ライスペーパーのキッシュなどなど。ワイン飲みつつ、と学会会場の件、出し物の件、スタッフ配備の件などいくつか必要事項。そのあとはひたすらな馬鹿ばなし。遅れて開田さんも別の忘年会からかけつけ、さらにK子も来て、カンバンまでねばる。地下鉄で新宿まで。そこからタクシー。ちと、今日新にカスミ書房さんから依頼の件につき、該当する人たちにメールして、K子が描くという“男ターザンもの(ヘンな言い方だが、女ターザンもののパロディだからこう言わなくちゃいけない)の資料などを書庫から出してきてやったりして、就寝、12時。

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