10日
火曜日
アニータ アニータ アニータがいてほしい
もしも私が家を建てたなら大きな家を建てたでしょう。扶桑社のK氏からアニータの自伝『わたしはアニータ』を送ってもらって読んでるが、なかなか凄い。十三歳で七○の爺さんにキスさせたり体をさわらせたり、汚れたパンツをあげたりしてすでに小遣いを稼いでおり、その後は盗み、売春、なんでもあり。もっとも、その全てが、貧しい国のしかも最下級層で生まれた彼女には、“やらなきゃ食えない”当然のことだったのだ。十七でもう母親になってるし。初体験がなかなかうまくいかなかったことに対し“いまでもそうだけど、私はとても締まっているから彼のが入らなかった”のだ、とぬけぬけと言っているのにはゲラゲラ笑った。とにかく、こういう位地から成り上がった人間に、お坊っちゃん育ちになってしまった今の日本人は絶対にかなわない。読めば読むほど“だまされた方が悪い”としか思えない。年間数十冊もの本を送っていただくが、最近面白かったのはこれと、ミリオン出版の『東京裏路地〈懐〉食紀行』(藤木TDC、ブラボー川上)の二つ。どちらも、日本人が豊かになった代償に失ったパワーというものに対し、考えさせてくれる(変な誤読をされないために言っておくと、だから“豊かになってはいけない”と言っているわけではない)。
朝食、オニオンスープに鶏肉団子入れて。果物はポンカン。朝、世界文化社原稿。Web現代のとダブリでやっていると結局アブハチでどちらも進まない。ネットで、知り合いの作家さんが雪道で転んで捻挫したと知る。北海道人が東京人に優越感を感じるときというのは、雪で交通機関がマヒしたり、すべって転んで骨折したりというのが続出の報を見たときで、“ケッ、だらしないもんよ、この程度の雪で”とそのたびに思っていたのだが、こないだ正月に帰省したときは見事にスッテンコロリンと転んで腰を打ってしまった。すでに東京に毒されてしまった体になっている。
井上デザイン井上社長から電話。年賀状印刷あがったとのこと。考えてみれば、今年もあと21日しかない。ゾッとする。装丁のお礼。『お父さんたちの好色広告』はかなり売れるのではないか、と話す。石原さんからも電話、明日幻冬舎Sくんに会ってくるとのこと。まずよかった。くすぐリングスへの登壇の件は断る。
Web現代取材を兼ねて、中野に行く。その前に東中野で昼飯。大盛軒で肉メン定食。食っている最中にK子から電話。何かと思ったら、“明日、何か用事ある?”と言う。“あるよ”と言うと“ずらせない?”。どこかへメシでも食いに行こうというのかと思ったら、“さんなみに、山鳥が入ったんだって”というから仰天する。食べにくるか、とメールがあったんだそうな。“明日、11時の飛行機で……”“まてまて、行きたいのは山々だが年末進行の最中だ”“だって刺身としゃぶしゃぶよ〜!”“いや、そうかも知れんがオレはとても行かれない。キミ、行きたいなら誰か友達と行ってきなさい”“この師走に行けるヤツがいるわけないじゃな〜い!”。なら、なんで私が行けると思ったのか。ただ、単に一度行きたいと叫んでみたかったらしい。電話している最中に熱はさめたみたいでおさまる。やれやれ、さんなみのお母さんも罪作りな。
中野ブロードウェイを取材。ここもますます魔窟化が進んでいる。今日は普通に取材のみ、の予定であったが、アメリカン・パーティ&ジョークグッズの店が来年1月で店じまいとあるので、つい、大荷物になるほど買い込んでしまう。本は最近、バカ買いに自制が効くようになったが(まだアレも読んでない、コレも読んでないと頭に思い浮かべて浪費を慎む)、グッズはハマったのが新しいだけに、まだハドメが効かない。ここに来るたびクロレラ牛乳(緑色で粉が沈殿している不気味飲料)を地下の牛乳屋さんで飲んでいるのだが、今日行ったら、そこの店のおばさんが売上金を盗まれた、と騒いでいて、人だかりがしている。あまり物欲しげにのぞいていると犯人と思われるかもしれず、退散。
帰宅して原稿続き、と思ったが、クタクタに体が疲れていて、あくびばかり出る。腹具合も少しおかしい。ネットを見ると、他にも腹具合がおかしいと騒いでいる人が何人かいる。風邪で、腹に入るのが流行ってきているのではないか。先月末、山本会長の娘さんが猛烈な腹下しをして、結局風邪だと診断されたそうだが、それが東京に 侵攻してきたのでは?
それやこれやで原稿書けず、と学会のMLに東京開催のコンテンツを上げたり、料金設定のことをやりとりしたり、雑事にまぎらせていたら、おおいとしのぶくんから日東新聞(特撮ファンクラブGの会誌)の原稿催促。サイトを見たら、私の原稿待ちという状態らしい。あわてて書いて、メール。結局、今日、完成させたのはこの一本きり。情けないこと。ちなみに、向こうからの依頼は特撮関係一行知識原稿で、タイトルが『人工生命M一行』。さすが、『糖尿人間と酒男』のポスターが南條竹則氏の『酒仙』に採られた会だけのことはある。
9時半、東新宿までタクシー飛ばして『幸永』。安達Oさんの日記に“幸永がさほどでもなくなった”と書いてあり、いつの間にかラブホ街に支店まで出すようになってやはり味が落ちたか! と思い、確認してみよう、と出かけた。フィン語終えたK子とも待ち合わせだったが、なんと店内ガラガラ(となりは6分の入り)。さてこそ客の舌は正直よな、と愕然としたが、運ばれた肉を食べてみると、スライステールがややお子さま向けの味になったかな、という以外、そう味が落ちている、という感じでもなし。豚足などは相変わらずのうまさ。ただし、最初にハマって、週に一度はいかないと、という禁断症状が出ていた頃の至福感はさすがになくなっている。これが肉のせいか、こちらの舌が肥えたせいか、ちとわからず。空いているのは、2号店とここと分店とに客が分散しているからで、この本店が一番すきま風がひどくて寒いからではないか。焼肉はどちらかというと、夏のさなかに汗をかきながらムサボリ食う性質の食物だと思う。ホッピー二本、〆メは寒いので冷麺はよしてクッパ。
帰宅、おおいくんからの原稿受領の留守録を確認して、さて寝ようとしたら永瀬さんから電話。ちと家族が医者から出してもらっているお薬についての質問。わかる範囲でいくつか答える。彼もなかなか私事大変である。あと、トンデモ本大賞について懸案の事項をいくつか話す。