18日
水曜日
ソニンに口なし
いや、英語弁論大会で優勝したそうですよ。朝7時目が覚めて、まだ寒いのでベッドの中で、昨日送られてきた『新刊ニュース』1月号、“2002年印象に残った三冊”など拾い読む。みんなつまらない本を読んでるなあ、と思う。睦月影郎さんが、『社会派くんがいく!』を取り上げてくれていた。感謝。8時離床。天候はいいが、冬の時期はこういう日の方が体調悪し。12月にどっと不調になるのは毎年恒例なので、じっと我慢するしかない。幸い、肩の鉄板は昨日で抜けたようで、いくぶん軽くなっている。編集諸氏にはご迷惑をかけるが、いましばらくお待ちを。
朝食、ゴマの冷ポタージュとクレソン(蒸して)。果物はブドウ。何とか少しでもテンション上げようと救心、麻黄附子細辛湯、アリナミン等のむ。脳だけがハイになり、ケッタイな感覚。K子がポーランド語教室の人たちと忘年会をするというので、 神田のろしあ亭のサイトから地図をプリントアウトする。
風呂あがりに、昭和23年のカストリ雑誌『オール・ロマンス』などが手元にあるのでパラパラと見る。ちょっと前の古書市で買ったものだが、気がつかなかったが徳川夢声が『話術豆読本』という漫談調の冗談エッセイを執筆しており、これは買い物であったと喜ぶ。夢声の高座はほとんど記録に残っていないのだが、その漫談内容を彷彿とさせて興味深い。金を借りるのに泣き言を並べるなどは詐欺に等しい、心ある紳士はむしろいばれ、という件がある。
「君、失敬だが一寸蟇口を拝見。おや、割に持つてないね。まア宜しい。このうち二千円だけ一寸借りる。足代と、コーヒー大とは特別を以て残しといてやる。なんに使ふんだつて御配慮御無用、決して無駄には使はんよ。今度、会ったら訳を話す。話したら君きっと驚くぜ。ハッハッハッハ。ではいづれ」
で、夢声曰く“而してこの間の指導精神は、金を借りるといふやうな卑屈な了見でなく、寧ろ、貸金をとりたてるというふやうな断固たる心構へで有るべし、である”とのこと。人生の秘訣かも知れない。高校のとき、クラスメートだったTという男が夏祭に行って、不良にからまれて金をとられたのだが、翌日、教室でその報告を実に 楽しそうにしていたことがあった。
「それが向こうが妙にこっちに恩をきせるんだ。サイフごと取り上げたあと“おい、帰りのバス代は大丈夫か、いくらか置いてってやろうか”とか言うんだよ。あまり心配そうだったんで、つい、“あ、大丈夫です、定期がありますから”とか答えちゃったんだ。そしたら相手が、“本当に置いてかなくていいのか”と重ねてきいてくるんで、“あ、あの、出来たら『少年マガジン』を買いたいんでその分を……”と言ったら“おお、そうかそうか。いや、マガジンは買わなくちゃいけないよ”と、180円だけ、こっちに返してくれたんだ。思わず、別れるとき、“どうもありがとうございました”って礼を言っちゃって……」
Tはそれをいかにも可笑しい体験のように、嬉々として話していた。あまりのことに遭遇すると、人は笑うしかないのだろう。
昼は冷凍庫の中の鶏肉を使って、親子丼。海拓舎H社長からメール、中断していた単行本、一月刊行で動いているとのこと。やや安心。郵便局に行き、ネット通販の代金、振込み。それから駅前まで出て、銀行で他の振込み。どちらもちょっと大口なものだったが、小遣い帳の残金はあまり減っていない。最近、本やビデオと食事以外に金を使う機会がないせいか。大盛堂書店に寄る。こっちでは新刊台に『カルト王』が 平積み。
4時、時間割にて村崎百郎氏と対談。村崎氏にはこないだ、某就職情報誌の人から氏の連絡先を教えてくれと頼まれて(氏は連絡方法がちとめんどくさいのだ)伝えておいたのだが、無事、伝わった模様。対談はいつもの如し。極楽とんぼが学園祭でパンツおろした事件の東京スポーツ紙の見出しが“極楽×んぼ”なのに爆笑。そのあとSカメラマンも加えて、単行本の打ち合わせ。装丁の古屋兎丸さんが、ちょっと和風でやりたいということなので、表紙をどうするか、という件。タイトルも、まったく新しくつけなければならないのだが、二人とも頭が回らず、『カバラ夏の光よ』とか 『海辺の株価』とか、だじゃればかりカマしてまとまらず。
帰宅してもうダラけて、ネット回りばかり。トゥーンMLで、こないだの『動物となり組』の熊川正雄の、タイトルをを忘れたアニメの話題を降るが、すぐ『ぽっぽ屋さん・のんき駅長』であることを指摘される。ホントに濃くて凄い。熊川正雄は『くもとちゅうりっぷ』から『わんぱく王子の大蛇退治』、『魔法のマコちゃん』『タイガーマスク』『リミットちゃん』などまでに加わった、日本のアニメの生き証人みたいな人だが、調べたらホームページがあったのに驚いた。しかも案内人がなんと『くもちゅう』のてんとうむし。キャラクター管理事業の『ジャンプ』という会社が作っているらしいが、しかし、作品タイトルを『クモとチューリップ』と表記しているのをはじめ、てんとうむしに“レディービートル”なんて名をつけているのがどうも。
http://www.kumakawa-masao.com/
ちなみにこの人の『魔法のペン』という作品、占領時代の日本がアメリカに(本心かどうかは知らず)とにかく媚びを売るために製作した、日本人なら見て何とも言え ない気分にさせられる珍品である。
8時、船山にてクリスマスディナー。和食屋でクリスマスディナーというのも変だが、前菜に小芋で作った雪だるまがついてくる、といった程度。あとはいつものようなお造り盛り合わせ、まぐろのアゴ肉の炙り焼き、鴨のしゃぶしゃぶ一口分、生桜エビのかき揚げ、鮭ハラス焼きとご飯、デザート。やたら大声ではしゃいだように喋るおばあさん客がいて、隣の席の若い客に酒をおごったりしている。また、その隣の男女三人連れも調子よく話をあわせている。ノリがいいのは結構だが、あまりに世慣れた感じの(業界人らしい)男の対応に、やや敵意を感じる。たぶん、彼と私は同類項であって、同族嫌悪的なものだろうとは思う。