裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

木曜日

レジュメ百まで踊り忘れず

 梗概をきちんと作っておけば頭に入るということ。朝7時起床。今日はK子が平塚くんの事務所で同人誌の作成作業をするので、早く起きなければならんのである。朝食用のパンを買ってなかったので、スパゲッティで。果物はリンゴ半個、ポンカン半個。研いでおいた米を炊飯器にかけて、炊きあがったところを握り飯にする。おかずに、おとついの残りの里芋の煮物をつける。

 気圧のせいか昨日テンションをあげすぎた反動か、どうも調子が悪い。早起きのせいかも知れず。と学会MLで、永瀬さんが、サニーホールのあるホテルラングウッド で宿泊コンベンションが出来ぬか、と張り切っている。私が氏に
「ここって、同じ建物がホテルになってるよね。宿泊こみのコンべンションに使えないかな?」
 と発言したそうだが、言ったかも知れぬが記憶にない。コンベンション大好き人間の永瀬さんのSF者魂に火をつけてしまったらしい。やるというならそれもいいかも知れないが、と学会の運営レベルでそれを仕切るとなると、よほど一般会員から有志スタッフが集まらない限り、火を噴くことになる(運営スタッフは全員、他に本職を持っているのだ)。頭を抱える。私は早寝の人間なので、そもそも宿泊型イベントというのは苦手。永瀬さんが宿泊型が好きなのはあれは宵っ張りだからなのだな。

 一方で、ありがたい申し出もあり。サニーホールは立川流落語会が定期的に行われているところなので、そのクチから申し込むと、幾ばくかの割引料金になるという。K子と、サニーホールを会場にするなら談之助さんを実行委員メンバーに招聘すべきだろうな、と話し合う。

 1時、時間割にてちくま書房Mくんと。『お父さんたちの好色広告』(元題『お父さんたちの好色広告博覧会』)の見本刷りをいただく。『カルト王』と同じく井上デザイン事務所の装丁だが、まったくオモムキが異なる。多才なことである。オビ文が『股間ふるわせたあの頃』というのの大笑い、大喜び。“あの”ちくま書房の本にこのオビ文という取り合わせが妙、である。以前紹介した『歌う白骨』にあった“ふるほん小唄”にも、“本は筑摩か岩波か、帯の文句じゃないけれど……”という歌詞があるくらいの出版社である。権威主義のアカデミシャンには、講談社や文藝春秋などから出版以来が来ても、“オレは岩波書店か筑摩書房以外では出さないんだ!”と、ケンもほろろの人がいるという。そういう連中がこのオビ文を見たら憤慨するであろうと思うといい心持ちである(このオビ文会議の模様は『本の雑誌』で特集するそうである)。次は岩波で出してみようか。

 Mくんと、次回の出版について少し打ち合わせ。だいぶ書き直しが必要なもの(そもそも、まだ書院を使っていた時代の原稿である)である。スケジュール立てに苦労するところである。帰宅して、ハチバンラーメンで昼食。食後、『お父さんたちの好色広告』を読みながら横になっていたら、寝てしまった。すぐ目は覚めたが、体が凄まじいだるさに襲われて、起きあがれない。糖でも出ているんじゃないか? と心配になり、トイレで検査してみるがまったく徴候なし。やはり単に気圧と疲れなのか。

 3時、ルノアール地下のマイ・スペースで扶桑社『愛のトンデモ本』撮影……と、思って出かけたら、ルノアールが改装されて、アメリカンカフェとかいう小じゃれた喫茶店になっていた。経営は変わったのかどうか知らないが、地下のマイ・スペースも、店内からではなく、外の階段で下りる方式になっている。ここは各出版社、映像業界、その他いろいろなところが使っていて、“ルノアール地下”と連絡しているところも多いはず。とまどう人も多いことであろう。それを心配したか、編集のOくんが外で待っていた。

 撮影は『THE NAUGHTY VICTORIAN HAND BOOK』という本である。トンデモというよりは脳天気本だが、“ハンドブック”とはまさに文字通りのハンドブックであって、要は指の付け根だの、握り拳の横側だの、“女性のエッチな部分に見える部分を、絵のその部分を切り抜いたところに裏側から当てて、リアルな(?)局部に見える(ような気がする)のを楽しもうというコンセプトのバカ本である……どれくらいリアルに見えるかは、3月に『愛のトンデモ本』が刊行されたら見ていただくことにして、とにかく手モデルが必要になり、Oくんがベギラマを連れてきた。手だけなんだから私でもいいんだが、やはり読者も女性の手の方が喜ぶだろうということで。しかしせっかく“美女”がいるんだから、と、私と彼女がこの本でいろいろ遊んでいるところを撮ってもらう。“同じアイデアの本を沙村広明や寺田克也や古屋兎丸や開田裕治に絵を描かせて出そう!”とOくんに提案。

 カメラマン氏は先日のオタク大賞のときの人。坊主頭で、なかなか苦み走ったご面相の人である。会場で、この人がカメラを抱えているところを開田さんが見て、“うわっ、猫抱いている客がいる!”と驚いたそうな。レンズフードがチューリップ型であったため、それを上に向けて抱えていたのが、黒い子猫の耳に見えたらしい。“坊主頭の怪漢が小さな子猫抱いてロフトに来ていれば、そりゃ怪しいと思うよ”と開田さん、後で笑っていた。その話をしたらカメラマンさん、大笑いしていた。

 撮影は30分程度ですみ、Oくん、ベギちゃんとちょっと雑談。今後のスケジュールなどについても。愛のトンデモ本、ベギちゃんをモデルに表紙を撮り下ろす(もちろんヌード)とOくん言う。“当然、その撮影時には執筆メンバーは権利として立ち会えるんでしょうな”と私。“と学会にも独身者が多くおりますのでな”。駅まで彼女をエスコートして、その帰りにツタヤを冷やかして、西武で食料品仕込んで帰る。

 仕事、しようと思うが手がつかず、放擲。困ったことである。おおいとしのぶくんから電話、阿部能丸くんからも電話。どちらも出る気力なく、留守録で聞く。8時半にK子と新宿で待ち合わせ。天ぷら屋にフラれ、かに料理屋にフラれ、仕方なく歌舞伎町の九州料理『玄海』。馬のレバ刺しというのがあったので、気力つけるためにと頼んでみる。牛のよりも臭みがあって、万人向けではないか。某氏がちょっと元気がないが、私が何か彼を傷つけるようなことを酔って言ったか? と話したらK子が、悪魔的な笑いと共に“アタシがいっぱい言ったけど”と。頭を抱える。抱えてばかりであるな。最後に“あっさり”とあるのでうどん鍋を頼んだが、九州男児にとってのあっさりだったと見えて、かなりボリュームのあるものだった。日本酒のんで、MLへの書き込みなども、全部明日回しにして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa